前回のフィンズ・アンド・シングスを走り終えたあと、次に向かったのがここ。恐竜が生きていた時代、この地には巨大な砂丘が連なっていました。その砂が長い年月をかけて固まってできたのが、ヘルズ・リベンジの足元に広がるナバホ砂岩です。
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「地獄の復讐」という名のトレイル
ヘルズ・リベンジがあるのは、モアブの町から車ですぐのサンド・フラッツ・レクリエーション・エリア。アメリカ土地管理局(BLM)とグランド郡が共同で管理する、約9000エーカー(東京ドーム約780個分)の広大な公有地です。

トレイルは全長約10.5キロ。ダートロードを走るというより、古代の砂丘が固まってできたナバホ砂岩のスリックロックを、岩肌に描かれたマークに沿って進みます。
急な上り下りや傾斜した岩場が続き、BLMも経験豊富なドライバーと高性能なオフロード車向けと案内する高難度ルートです。
ところで、なぜ「地獄の復讐」なのでしょう。調べてみましたが、その正確な由来を裏付ける公的な記録は見つかりませんでした。
名前の謎は残るものの、入口を見れば「地獄」の文字には妙な説得力があります。スタート直後に待つのは、地面から盛り上がった細いスリックロックの尾根。左右が落ち込んだ岩の背を、車体をまっすぐ保ちながら上っていきます。

わたしたちが初めてここを訪れた日、入口の下からその光景を眺めるだけで足がすくみました。「これは無理だね」と夫と顔を見合わせ、そのまま引き返したほどです。
岩山を走るジェットコースター
ところが、ほかのトレイルで経験を重ね、ついに挑戦してみると印象は一変しました。今では、モアブに来ると必ず走りたくなる、お気に入りの場所です。
「スリックロック」は直訳すると「滑る岩」。でも、乾いた砂岩の表面はザラザラとしており、ゴムタイヤには驚くほどのグリップがあります。遠くからは壁のように見える坂でも、RZRは岩肌をしっかりとらえ、ぐいぐい上っていきます。

もちろん、緊張しないわけではありません。急坂を上るときは目の前に空しか見えず、頂上を越えた瞬間、今度は眼下に赤い大地が現れます。下りでは体ごと前へ持っていかれそうになり、シートベルトに支えられながら、思わず息を止めることも。
「息してる?」と、運転席から夫に声をかけられることもしばしば(笑)。
岩のうねりをひとつ越えるたび、ふわっと体が浮くような感覚。まるで岩山を走るジェットコースターです。
ちなみに、わたしはジェットコースターが苦手。それでもこのコースが好きなのは、たぶんスピードが出ていないから。最初に感じた緊張は、いつしか「次はどんな景色が待っているんだろう」というワクワクに変わっていきました。
岩肌に描かれたマークをたどりながら、ゆっくり進んでいきます。上空からドローンで撮ってもらった映像を見ると、広大な赤い大地の中で、わたしたちはまるで小さな蟻のようです。
恐ろしいのに、どこか愉快な難所の名前
ヘルズ・リベンジには、メインルートから分かれて挑戦する高難度のオプショナルコースがあります。

「Hell’s Gate(ヘルズ・ゲート/地獄の門)」「Escalator(エスカレーター)」「Tip-Over Challenge(ティップオーバー・チャレンジ/横転チャレンジ)」、さらには「Mickey’s Hot Tub(ミッキーズ・ホットタブ)」など、名前を並べるだけでも強烈です。
ヘルズ・ゲートは、別ルートでいったん低い位置まで下りたあと、V字状にえぐれた急斜面を上っていく難所。ティップオーバー・チャレンジは、その名のとおり車体が大きく傾く難所。そしてミッキーズ・ホットタブは、砂岩にできた深いくぼみを浴槽に見立てたものです。


どこかユーモラスな名前ですが、どれも判断を誤れば車両の損傷や横転につながる難所です。
難所に入る車の周囲では、仲間が車を降り、タイヤを置く位置やハンドルを切る方向を身ぶりで伝えています。
一台が無事に上り切ると、見守っていた人たちから歓声が上がる。荒野に生まれる、オフロード仲間の一体感も見どころです。
でも、わたしがヘルズ・リベンジでいちばん好きなのは、スリル満点の難所ではありません。トレイルの途中にある、コロラド川を一望できる場所です。

岩の縁に立つと、はるか下を流れる川と、その両側に重なる赤い崖が視界いっぱいに広がります。風の音を聞きながら眺めていると、日常の悩みまで小さく思えてくるから不思議です。
そしてこの日も、荒野の“黒い賢者”ワタリガラスが近くに姿を見せ、わたしたちのドライブを盛り上げてくれました。



走り終えたら、モアブの町へ
岩山を上り下りし、砂ぼこりを浴びながら走り切るころには、頭の中はレストランでお酒と一緒に味わう夕食のことでいっぱいです(笑)。

オフロードを楽しんだあとは、観光客でにぎわうモアブの町を歩きながら、レストランを探すのも楽しみのひとつです。

メインストリートにはアウトドアショップやレストラン、土産物店が並び、泥のついた四輪駆動車が行き交います。わたしたちが通い始めたころに比べると、人も車もずいぶん増えました。
それでも、赤い岩山に囲まれた町並みと乾いた空気、そして冒険から戻ってきた人たちの高揚感が混ざり合う、モアブらしい雰囲気は変わりません。
「地獄の復讐」どころか、訪れるたびに元気をもらえる場所。今回も無事に走り終えたことに感謝しながら、夫とモアブの町を歩きました。





