日本の照葉樹林文化では「毒キノコかどうか試す冒険」はしない。中国雲南省の人びとも同じか? | キノコ・山菜 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

キノコ・山菜

2026.07.19

日本の照葉樹林文化では「毒キノコかどうか試す冒険」はしない。中国雲南省の人びとも同じか?

日本の照葉樹林文化では「毒キノコかどうか試す冒険」はしない。中国雲南省の人びとも同じか?
やっかいなことにキノコは、同じなかまのなかに食べられるものと、食べたら死ぬかもしれないものがある。そのため日本列島の照葉樹林ではキノコ食が低調だ。人びとは、毒に当たるかどうか一か八か賭けるルシアン・ルーレットを避けてきたのである。では、広大な照葉樹林に暮らす中国雲南省で多種多様なキノコ食あるのは、なぜか? 湯本貴和さんは現地でたくさんの野生キノコを見て、食べて、考えた!

写真/野生菌料理店でモミタケの仲間を下準備する。中国雲南省にて。
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屋久島で人びとがふつうに食べるキノコは2種だけ!

野生キノコ鍋に入れる食材。

まだ屋久島に住んでいたころに、島の友人たちと屋久島の民俗植物学的な調査をしたことがある。そのなかでキノコの利用も調べたが、海岸沿いの亜熱帯要素が混じる照葉樹林帯から、山頂部の冷温帯針広混交の低木林までキノコの種類はとても多いが、人びとがふつうに食べるキノコはシイタケとアラゲキクラゲ(みみなば・みんなば)の2種だけだった。

その後、奄美・沖縄で調査をしていたときも、折に触れてキノコ食の聞き込みを続けていたが、シイタケとアラゲキクラゲに加えて、マツタケとイグチの仲間以外の食菌を聞き出すことはできなかった。それから20年越しにようやく照葉樹林の本場である中国・雲南省で、食用キノコの実態を垣間見る機会に恵まれた。

雲南省昆明の野生菌料理屋店のメニュー。
道路脇ではたくさんのキノコを売っていた。

雲南省の人びとは多種多様なキノコを食す。「十大美味野生菌」とは?

雲南では、6月から10月の雨季に多種多様で香り高い野生キノコが採れるという。なかでも雲南を代表する「十大美味野生菌」というものが知られている。この十大美味野生菌を順に見ていくことにする。

1 松茸 (マツタケ/Tricholoma matsutake) 説明するまでもない高級キノコで、独特の香りを持つ。京都菌類研究所の山中勝次さんによれば、雲南やブータンのマツタケはDNAで調べても日本のものと同種であるが、アカマツと菌根共生する日本のマツタケと異なって、常緑のコナラ属、マテバシイ属、シイ属などと菌根共生しているらしい。

道路脇で売られていたマツタケ。

2 干巴菌 (イボタケの一種/Telephora ganbajun) 雲南省の特産で、マツ林に発生する。黒くゴツゴツとした見た目だが、牛肉の干物のような濃厚な旨味があり、炒め物にすると絶品。

3 鶏樅 (オオシロアリタケ/Termitomyces albuminosa) キノコシロアリと呼ばれるシロアリの巣のなかに共生するキノコ。鶏肉のような食感と、強いダシが出ることからスープに最適とされる。

道路脇で売られていたイグチ属のキノコなど。

4 牛肝菌(イグチ属の複数種/ Boletus spp.) フランスでセップ、イタリアでポルチーニと呼ばれる「キノコの王様」。この属は多くの種が食用だが、なかでも肉厚で、強い旨味と香りがあるものをとくに美味牛肝菌と呼ぶ。マツやカシの林に発生する外生菌根菌。

野生キノコ鍋にキヌガサタケを投入した。

5 竹蓀(キヌガサタケ/ Dictyophora indusiata) 網目状のレースのようなスカートをまとった優美なキノコで竹林に発生する。食感はシャキシャキとしており、高級スープの具材として珍重される。

6 青頭菌(ベニタケ属の一種 / Russula textilis) 傘の表面が青緑色をしているのが特徴。クセがなく、優しい旨味があり、炒め物やスープで親しまれている。

7 虎掌菌(コウタケ/ Sarcodon aspratus) 乾燥させると強い香りを放つ。シシタケ(S. imbricatus)やその他の似たキノコと同種かどうか議論があるが、香りが大きく異なる。

8 羊肝菌(アミガサタケ/ Morchella esculenta) 日本ではあまり食用とされないが、フランスではモリーユといって有名な食菌。ゴワゴワした食感があるが、乾燥させると強い香りが出てきておいしくなる。

9 猴頭菌(ヤマブシタケ/ Hericium erinaceus) 立枯木に生える白色腐朽菌。最近は日本でも栽培品が流通し始めている。フワフワとした食感で出汁をよく吸うため、中国ではフカヒレ、ナマコのいりこ、クマの掌とともに四大山海の珍味のひとつとして宮廷料理で珍重された。

10 老人頭(モミタケの一種/ Catathelasma ventricosum) 針葉樹林に外生菌根菌として発生する大型キノコ。エリンギのような食感。

モミタケの仲間も路脇で売られていた。

雲南省でも「ルシアン・ルーレット説」は支持された!

店員さんが野生キノコ鍋の具を取り分けてくれる。座っているのはイ族出身の魯元學さん(中国科學院昆明植物研究所)。

これらの野生のキノコは、味や食感もさることながら、類似した毒キノコと間違えようのない顕著な特徴を持っている。ベニタケ属(Russula spp.)の見分けにくい種や、一部はたいへん美味だか猛毒の種を含むテングタケ属(Amanita spp.)などは含まれていない。滞在中、かなり気をつけてみた食用キノコは、「十大美味野生菌」のなかまか、栽培品に限られていた。照葉樹林文化の本場・雲南でも、キノコ誤食回避説(ルシアン・ルーレット説)は支持されたのではないかと考えている。

※写真はすべて湯本貴和さんの撮影です。

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湯本貴和さん

京都大学名誉教授

1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長、きょうと生物多様性センター長、京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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