写真/クロアチアのカルリック・トリュフ園が加工しているトリュフ製品の数々。
トリュフは森の地下で樹木の養分や水分の吸収を助けている!?

トリュフはヨーロッパの高級食材として知られているが、名前だけ有名でその実態は日本列島に生まれ育った人たちにそれほど理解されているわけではない。そもそもトリュフとは、地下に埋もれているキノコの仲間である。もっと正確に述べると、地下に生育する子嚢菌(読み:しのうきん)の子実体(読み:しじつたい)のことである。地下に子実体をつける菌類を地下生菌と呼ぶ。
トリュフはおもにはセイヨウショウロ(Tuber)属の一部であるが、セイロウショウロ属以外にもGeopora属、Peziza属、Choiromyces属、Leucangium属などの86種がトリュフに分類されている。ちなみに子嚢菌門は菌界に属する分類群のひとつであり、担子菌(読み:たんしきん)門と並ぶ大きなグループで、減数分裂によって生じる胞子を袋(子嚢)の内部につくるのを特徴とする。真菌類、つまり、キノコ、カビ、酵母などの仲間では、子嚢菌が40%、担子菌が30%程度を占めている。

セイロウショウロ属は、すべて樹木と共生して外生菌根をつくる外生菌である。トリュフではないが、日本を代表する食用菌であるマツタケも外生菌で、おもにアカマツと共生している。「マツタケにはアカマツ」のように外生菌は共生する樹木がだいたい決まっていて、セイロウショウロ属はナラ属、ブナ属、カバノキ属、ハシバミ属、クマシデ属、ヤマナラシ属、そしてマツ属の樹木の細根に共生して菌根を形成する。外生菌は、樹木から光合成産物である糖類を受け取るかわりに、地中の養分や水分を樹木に供給する役割がある。
植物の成長に欠かせない地中にあるリンなどの養分は、土壌を構成する鉱物の表面にこびりついていて、きわめて移動性に乏しい。水中では水の移動に伴って、養分が容易に拡散するのとは大違いだ。外生菌の菌糸は菌根から外に広がっていて、植物の根や根毛とくらべてもはるかに細くて成長も早いため、土壌のきわめて微細な空隙に入り込む。外生菌根を形成することで、樹木は自前の根だけでは届かない大きな体積の土壌からどんどん養分や水分を吸収することができる。外生菌根は、森林を優占する主要な樹種にとって必須アイテムといえる。
イノシシの雄のフェロモンに似た香り物質を出す理由とは?
トリュフの仲間は日本にも20〜40種ほど分布しているが、ほとんど食用とされていない。日本で地中に子実体が発生する食用菌は、ショウロ(松露)である。ショウロもアカマツやクロマツと共生する外生菌で、かつ地中生菌であるが、担子菌門に属する菌類で、トリュフとはかなり縁が遠い。
キノコ、つまり子実体は、菌類の繁殖器官である。次世代につなげる胞子をばら撒くために、菌類がつくり上げたものだ。地上のキノコからきわめて多数の胞子が空気中に放出され、気流に乗って一部は高度10〜50kmの成層圏まで飛ばされることが判明している。では、トリュフはどうなのか。地中に埋もれていては、胞子が風で飛ばせないではないか。
地下生菌は、子嚢菌、担子菌、グロムス菌にまたがって存在しており、子実体を地上に形成する、つまり普通のキノコをもつグループから独立に何度も進化したことがわかっている。トリュフをはじめ、ほとんどの地下生菌は自力では胞子を飛ばすことができず、動物に胞子散布を全面的に依存している。そのため、嗅覚に優れた動物を惹きつける独特の香り物質を出すものがある。トリュフの香りは、そのように進化したものである。
伝統的にブタを使ってトリュフを探し当てるのは、トリュフが野生イノシシの雄が雌を惹きつけるフェロモンに似た香り物質を出すからである。本来はイノシシの雌がトリュフを掘り出して、食べて胞子を運ぶ。もともとイノシシから家畜化された雌ブタをトリュフ探しに使っていたのだが、ブタはトリュフを食べてしまうのが欠点だ。
イヌを訓練してトリュフを探索する地域が南ヨーロッパにある!



そこで嗅覚に優れたイヌを訓練してトリュフを探索させるようにした地域がある。アドリア海沿岸部に位置するイタリアのアブルッツ州やモリーゼ州、そしてクロアチアのイストラ半島である。今回は、クロアチアのイストラ半島、なかでもトリュフの名産地として知られるモトヴン(Motovun)で、イヌを使ったトリュフ・ハンティングを実見することになった。イストラ半島のブゼト(Buzet)の中心から12km離れたパラディニ(Paladini)という村を訪ねた。パラディニは石灰岩の丘に位置している。ここには家業としてトリュフの採集から加工、販売までを手がけるカルリック・トリュフ園(Karlić Tartufi)がある。

写真はすべて湯本貴和さんの撮影です。




