昔走っていた列車の鐘の音から名付けられた北区・王子の公園にある山【プロハイカー斉藤正史のTOKYO山頂ガイド File.105】
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    2024.11.29

    昔走っていた列車の鐘の音から名付けられた北区・王子の公園にある山【プロハイカー斉藤正史のTOKYO山頂ガイド File.105】

    昔走っていた列車の鐘の音から名付けられた北区・王子の公園にある山【プロハイカー斉藤正史のTOKYO山頂ガイド File.105】
    東京23区内、特に山手線の内側はビル街や飲食店街、住宅街ばかり。そう思っている人が多いかもしれません。でも、目を凝らせば東京都心にも「山」はあります。そんな東京の山の世界を、日本で唯一のプロハイカーである斉藤正史さんが案内します。

    FILE.105は、北区のちんちん山です。

    第105座目「ちんちん山

    今回の登山口は、JR王子駅です

    今回の登山口は、JR王子駅北口。

    今回の登山口(最寄り駅)は、JR王子駅北口です。またしても初めて降り立った駅です。

    早速、ロータリーのある北口を出発。まずはJR王子駅の高架下自由通路、王子カルチャーロードギャラリーを通って反対側に出ます。この高架橋下自由通路にはギャラリーが設置されています。北区文化振興財団が運営していて、北区民の絵画や川柳などが展示されています。

    高架線下にある王子カルチャーロードギャラリー。

    王子カルチャーロードギャラリーを抜け、線路沿いに進んでいくと、お店が軒を連ねています。その通りを過ぎると、住宅が混じり始めました。すると、何とも風格たっぷりのお店が目に止まりました。

    創業は1887年(明治20年)で、王子稲荷神社の参道にお店を構えて130年以上の歴史があるというお店「石鍋商店」です。王子は江戸時代から行楽地で料亭、茶店も多く、石鍋商店も久寿餅(くずもち)、寒天、こんにゃくを店に卸していたそうです。現在では、久寿餅、あんみつ類、酒まんじゅうなどを販売しています。お店の前には涼しげなミストが吹き出していました。真夏にはありがたい!です。

    創業130年以上という石鍋商店。

    石鍋商店の前の通りをそのまま進んでいくと、幼稚園が見えてきて神社の入り口がありました。ただし、どうやら園児がいる平日は幼稚園の隣にある王子稲荷の坂を登って神社にいくようになっている様子。通り沿いの入口からは神社の境内に入れません。ということで、王子稲荷の坂を回り込みました。

    王子稲荷神社。平日はここから入れません。

    王子稲荷神社

    王子稲荷神社は今から千年以上前に建てられたそうで、、平安中期には相当の社格を有したお社だそうです。もともと、荒川の岸にあったことから「岸稲荷」と呼ばれていました。14世紀に領主であった豊島氏が紀州(和歌山県)の熊野神社を近くの王子神社に祀ったことから、王子という地名になったそうです。これに伴い、岸稲荷は現在の社名である「王子稲荷神社」に改称されたとか。

    この王子稲荷神社は小田原を治めていた北条氏が深く尊崇し、また徳川将軍家の歴代将軍の祈願所としても有名だそうです。

    王子稲荷の坂からの王子稲荷神社入り口(鳥居)。

    また、王子稲荷神社のすぐ近くにある金輪寺は、一度荒廃し、いつしか住職のいない寺になりました。ただ、江戸時代初期に徳川秀忠の命で再興され、現在の王子駅に隣接する王子神社や王子稲荷神社の別当寺になり、歴代将軍の御膳所を務める格式ある寺院となったそうです。

    1860年の火災により伽藍を焼失し、その後も再興されずに、明治時代の神仏分離令によりそのまま廃寺となったとか。最盛期に幾つかできた支坊の内、藤本坊が引き継いで今に至るそうです。歴史に翻弄されたお寺ですね。

    現在の新しい建物の金輪寺。

    金輪寺からそう遠くない通り沿いに、趣のある名主の滝公園がありました。

    名主の滝公園の入り口。

    ここは、江戸時代に王子村の名主、畑野孫八が屋敷内に滝を開き、茶を栽培して避暑のために一般に開放したのが始まり。公園の名前の「名主」はそこに由来するそうです。

    明治中期には貿易商である垣内徳三郎の所有となり、栃木の塩原の風景を模して庭石を入れ、ヤマモミジなどを植栽、渓流をつくって一般に公開したそうです。その後、戦災で焼失し、荒れ果てていたそうですが、東京都が土地の買収と橋や東屋などの修理を進め、1960年(昭和35年)に都の公園としてオープンしました。その後1975年(昭和50年)に北区に移管されて今に至るそうです。

    名主の滝公園の滝。

    名主の滝公園は、回遊式庭園です。この連載では過去に何度もこの法則を記しましたが、回遊式庭園に築山あり、なんです。でも、名主の滝公園の園内マップに目を凝らしても、山の形跡はありません。ググってみても山の痕跡などは見つけられず、回遊式庭園に築山ありの法則はもろくも崩れ去ったのでした。

    ただ、いつもの回遊式庭園は武家のお屋敷のものですが、名主の滝公園は違います。今後は訂正して、武家屋敷の回遊式庭園に築山あり!にしたいと思います。

    名主の滝公園の脇にある三平坂。何だか山がありそうな地形ですが…。

    今回の目的地は、小さな公園

    名主の滝公園を抜けて、南大橋方向へ進むと、橋の下に小さな公園が見えてきました。辺りを見渡すと、東十条駅方向は随分高い位置にあり、ここは谷間の低い土地のようです。しかし、なんとこの小さな公園が、今回の目的地であるちんちん山(児童遊園)なのです。

    ちんちん山

    明治から昭和にかけて、北区とその周辺には、陸軍の関連施設が数多く存 在していました。その当時、これらの施設は、物資や人間を運搬するための 軍用鉄道と呼ばれる専用軌道で結ばれていたそうです。

    板橋、十条の銃砲製造工場と王子の火薬製造工場を結ぶ軍用電車がチンチンと鐘の音を鳴らしながら、盛土の上を走っていたその姿を見て、地域の住民は軍用電車が走るこの盛土を「ちんちん山」という愛称で呼んでいたそうです。今はなくなりましたが、かつて盛り土の下にはトンネルが通っていたとか。また、今も児童遊園の中にあるアーチの中央上部の円を四つ重ねたマークは東京砲兵工場が用いていた標識で、軍の管理していた施設であったことを示しているそうです。

    ちんちん山児童遊園にある産業考古学探索路。

    写真奥が、軍の施設だったことを示す標識が入ったアーチ。

    最初にちんちん山の存在を知ったときはちょっと呼びにくいなと思ったのですが、地元の方々が愛着を持って名付け、長きにわたって呼び習わしてきた愛称だとわかりました。王子という地域の近代史を垣間見ることができる場所でもあるわけですし、決して恥ずかしがるような山の名前ではないんですね。今回は意義深い山行となりました。

     ※今回紹介したルートを登った(歩いた)様子は、動画でもご覧いただけます。

    私が書きました!
    プロハイカー
    斉藤正史
    2012年より日本で唯一のプロハイカーとして活動。トレイルカルチャー普及のため、海外のトレイルを歩き、アウトドア媒体を中心に寄稿する傍ら、地元山形にトレイルのコースを作る活動「山形ロングトレイル(YLT)」を行なう。スルーハイク(単年で一気にルートを歩く方法)にこだわり、スルーハイクしたトレイルだけで22.000km(地球半周以上)を超える。最新情報はブログを。

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