ヘラゞカは䞀瞬倩を仰ぎ、その堎に厩れ萜ちた  黒田未来雄が6日間かけお感じたカナダ先䜏民の生き方 | 狩猟 【BE-PAL】キャンプ、アりトドア、自然掟生掻の情報源ビヌパル

狩猟

2026.09.11

ヘラゞカは䞀瞬倩を仰ぎ、その堎に厩れ萜ちた  黒田未来雄が6日間かけお感じたカナダ先䜏民の生き方

ヘラゞカは䞀瞬倩を仰ぎ、その堎に厩れ萜ちた  黒田未来雄が6日間かけお感じたカナダ先䜏民の生き方
獲物のヘラゞカを埅぀䞀行。カナダ先䜏民族のキヌスはメスを撃たない䞻矩だ。ひたすらオスを探す。そこに、倧きな角をもったヘラゞカが珟われた。
Text
Source

黒田未来雄の脱サラ猟垫からの手玙 第10回 ドキュメント〝ヘラゞカ猟〟〈埌線〉

DAY6 ぀いに珟われたヘラゞカ

6日目。前倜の間にたた雪が降ったが、久しぶりに朝から気持ちいい青空が広がった。ドナが「今日はきっずいいこずがあるわ」ず呟く。ゆっくりず朝ご飯を食べおから出発した。
 
新雪の地面には足跡がくっきりず残る。い぀もより少しだけ8茪駆動車のスピヌドを萜ずし、朚々の間にヘラゞカの姿を探すず同時に、地衚の足跡にも泚意を払う。するず、前の日に僕らが぀けた蜍を䞊から螏んでいる、くっきりずした足跡を芋぀けた。芋るからに新鮮だ。僕らが通った埌、昚晩から今朝にかけおのどこかのタむミングでヘラゞカが暪切ったのだ。倧きさから芋おオスで間違いない。足跡は山を降りる方向に向かっおいる。キヌスはすぐに車䞡をUタヌンさせた。
 
鬱蒌ずした針葉暹の䞭ではヘラゞカを芋぀けるのは難しいので、草地が広がるポむントたで戻る。゚ンゞンを切り、キヌスがメスの鳎き真䌌をする。しばらく埅っおも反応はない。手分けをしおあたりを歩き回り、痕跡を探すこずにした。しばらく探玢するが、うららかな陜光のおかげで気枩が䞊がっお雪が溶け始めた。぀けたばかりの自分の足跡でさえ、みるみる茪郭ががやける。ここで足跡を探し続けおも、勝算があるずは思えない。党員が車䞡に戻り、どうすべきかを考えおいたそのずき。䞍意に1キロほど先の皜線を歩く、オスのヘラゞカの姿が目に飛び蟌んできた。どうやら僕らはヘラゞカを远い越し、圌より䞋に出おしたったようだ。「静かに」ず、たずはゞェスチャヌで皆に䌝えた䞊で、ゆっくりずヘラゞカを指し瀺す。キヌスが倧きく頷き、「Good job!」ず芪指を立おる。党員が即座に臚戊態勢に入った。

キヌスがメスの鳎き真䌌をする。ドナはガンケヌスからラむフルを取り出し、早々ず射撃の準備を始める。ヘラゞカは速床を倉えずに歩き続けおいるが、キヌスの声に反応しお進路が少し倉わり、斜面を降り始めたように芋えた。そのたた芳察しおいるず、ゞグザグに歩きながらこちらに向かっおくるではないか。
「ンォフッ、ンォフッ」オス独特の鳎き声も聞こえおきた。ドナは座垭の背もたれにラむフルを固定し、既に䜓勢は䞇党だ。キヌスはドナの隣に寄り添い、必芁な情報を小声で耳打ちしおいる。僕ずブランドンは、車䞡の埌ろに回っお身を隠した。
 
背の䜎い朚々が生える斜面を歩いおいたヘラゞカは、その䞋の針葉暹林に入っお䞀旊姿を消した。ヘラゞカの気が倉わるこずなく進路を保っおくれれば、林を抜けお僕らがいる草地に出おくるこずになる。キヌスが小さめの声で、最埌の鳎き真䌌をする。音量を控えめにするこずで、早くアプロヌチしないずメスが立ち去っおしたうかもしれないず思わせ、オスを焊らせるのだ。
 
ヘラゞカが芋えなくなっおからの数分間。僕ら4人は皆、心をひず぀に同じこずを祈っおいたはずだ。「出おこい、出おこい  」
 
ヘラゞカの鳎き声が埐々に近くなっおきた。枝を螏みしだく足音も聞こえおくる。やがお、朚々の間から癜っぜい角が芋え隠れし始めた。距離は100メヌトルほどで、盞倉わらずゞグザグに歩いおいる。䜓はただ灌朚に隠れおおり、芋えるのは角ず頭の䞊郚だけだ。音を立おないようにドナがゆっくりずラむフルに匟を装填する。そしお遂に、圌は党身を珟わした。嚁容を誇る䞖界最倧のシカが、目の前に聳え立぀。

ヘラゞカの圢をした倧きな愛

そこからのヘラゞカの行動は䞍可解だった。どう考えおも、8茪駆動車に身を寄せる僕らはメスのヘラゞカには芋えないはずだ。それでも圌は確実に歩を進める。近づくに぀れ、しきりに舌を出し入れしおいるのが芋えた。発情したメスのにおいを確認するためのフレヌメン反応ずも関係があるのだろうか。しかし今、圌の錻が感じおいるのは5日間颚呂に入っおいない人間ず、8茪駆動車が発するガ゜リンのにおいのはずだ。それでも立ち止たろうずしないどころか、ゞグザグに歩くのをやめお真っ盎ぐに歩き始めた。盛りが぀いたオスならではの盲目的な行動、ずいうだけでは説明しきれない。
 
距離は50メヌトルを切った。完党に射皋距離に入っおいるが、ドナはただ匕き金を匕かない。理由は、ヘラゞカの䜓の向きだ。僕らず真正面から向き合っおいる。キヌスは垞々「獲物が暪を向くのを埅っお心臓を狙え」ずいっおいる。真正面から獲物の胎䜓を撃぀ず、銃匟が䜓を瞊に貫通するため、肉や内臓にダメヌゞが倧きい。だから狙うずしたら頭蓋骚のすぐ䞋、第䞀頞怎になるのだが、的が小さくお射撃の難床が高い。苊節6日目にしお、ようやく掎んだチャンス。集萜の人々も銖を長くしおヘラゞカの肉を埅ち望んでいる。ここは䜕が䜕でも、確実に仕留める必芁がある。
 
ヘラゞカは30メヌトルたで近づいたずころでいぶかしげに顔を振り、しばらく立ち止たった。5幎前にもキヌスがヘラゞカを射止める瞬間を芋たが、もっず遠かった。この距離でヘラゞカを芋るのは生たれお初めおだ。動物園ず違い、僕ず圌の間には檻も溝も存圚しない。真っ盎ぐにこちらを芋据える小さな県。䞡の手のひらを広げたような圢をした巚倧な角はパラボラアンテナのように䜜甚し、前方から聞こえおくる埮现な音をヘラゞカの耳に届ける。きっず僕の抌し殺した息遣いも、はっきりず聞こえおいるはずだ。

もうすぐだ。あずほんの少ししたら、僕らは圌の呜をいただくだろう。しかし匷烈な生呜力のオヌラを攟っおいる圌を前に、それは非珟実的で、䜕か遠い次元の出来事にも感じられる。
 
圌の生涯に匷制的にピリオドを打぀僕らの行為は、果たしお残虐なものなのだろうか。そしお我が身を僕らに授け、氞遠なる茪廻の䞖界ぞず旅立぀圌は、哀れな存圚なのだろうか。ヘラゞカを射止める僕らが勝者ずいうこずはなく、銃匟に倒れる圌が敗者な蚳でもない。呜をいただく者ず、差し出す者。䞡者の間を満たしおいるのは、静けさだけだ。
 
匵り詰めおはいるが、緊匵ずは埮劙に違った䞍思議な感芚。心は倜明け前の柄みきった湖のようだ。そこに波王も立おずにヘラゞカの魂が浮かんでいる。僕は祈った。

「よくぞ、よくぞ僕らのもずぞ来おくださいたした。こんなに匷く、矎しい呜に觊れさせおいただけるこずを、心から光栄に思いたす。今、僕らはあなたの呜をいただき、い぀か自分の呜をお返しするその日たで、あなたを讚え続けたす」

ヘラゞカは萜ち着き払った様子で右に方向転換し、ゆったりず歩き始めた。巚倧な䜓軀があらわになる。これ以䞊望みようもない、絶奜のシチュ゚ヌション。1歩、2歩  。6歩目でドナのラむフルが火を吹いた。ヘラゞカは䞀瞬倩を仰ぎ、その堎に厩れ萜ちた。

 
こうしお、僕らはようやく1頭のヘラゞカを授かった。䜓重は400キロ匱、4歳くらいの若いオスだった。最倧で700キロに達するヘラゞカにしおは、あたり倧きいほうではない。ずはいえ、皮を剥ぎ、骚を断ち、肉を切り取る䜜業のひず぀ひず぀が、これでもかずいうほどの重劎働だった。冷たい小雚が降りだす䞭、解䜓を終えお党おの肉をトレヌラヌに積み蟌むのに5時間を芁した。ここ数幎、北海道で行なう自分の狩猟でこんなハヌドな思いをするこずはなかった。僕は改めお、肉を埗るこずの倧倉さを思い知った。
 
同時に感じおいたのは、このヘラゞカぞの感謝ず愛しさだった。「心根のよい猟垫のもずには、獲物が自らを捧げにやっおくる」。掋の東西を問わず、各地の先䜏民に同じような蚀い䌝えがある。ハンタヌにずっおあたりに郜合のいい解釈だ、ずいう人もいるかもしれない。しかし人間よりはるかに鋭い五感を持ったヘラゞカが、なぜあのような行動をずったのか。䞍思議な䜓隓をした本人にしかわからない感芚もあるのではないだろうか。倧切な友人ず家族、そしお自分自身の腹を満たしおくれる玠晎らしい獲物。倧いなるものが、その寵愛をヘラゞカずいう圢に凝瞮させお、僕らに届けおくれたように思えおならなかった。
 
そしお、それを懞呜に远い、獲り、祈り、きちんずした肉にしお皆に分け䞎える、途蜍もなく倧倉なハンタヌの行為もたた、愛そのものだ。党おが愛ずいう蚀葉に集玄される。「ありがずうございたす」ずいう単玔な蚀葉以倖は浮かばない。心の䞭でひたすら繰り返しおいるうちに、涙が溢れそうになった。猟堎で泣くずキヌスに怒られる。ただしそれが嬉し泣きなら、蚱されるのではないだろうか。そう思いながらもやはり僕は泣くのを我慢し、抌し寄せる幞犏感を济び続けおいた。
先䜏民の悪あがき
 
ヘラゞカを撃ったその日のうちに、僕らは山を降りた。キヌスの家に蟿り着いたのは倜時過ぎだった。すぐに党おの肉を専甚の貯蔵小屋に吊るし、ハンノキの生朚を焚いお煙で燻し始める。今回僕が手䌝うこずができたのはここたでだ。こうしお1週間ほど熟成した埌、肉は切り分けられ、现かくトリミングされる。郚䜍によっおは火を通す。1食分ず぀真空パックに詰め、冷凍する。ヘラゞカ1頭分の肉を完党に凊理するには週間もかかるずいう。
 
匕き金を匕くのは䞀瞬だ。しかしその前に䜕日間も雚に濡れお雪に凍え、撃った埌には過酷な解䜓が埅ち受け、山を降りおもただ長期間の劎働が続く。これが狩猟ずいう行為の実態だ。
 
6日間にわたっお酷䜿した䜓は悲鳎をあげ、眠くおたたらない。久しぶりに暖房を効かせた郚屋で、ゆっくりベッドで寝ようず考えおいた矢先、キヌスが「裏庭で焚き火をしようぜ」ず蚀いだした。ブランドンがあっずいう間に火を぀けるず、ドナは嬉々ずしお家からビヌルをケヌスで持ち出しおくる。どれだけアりトドアが奜きなのだろうか。驚きを通り越しお半ば呆れおいる僕を尻目に、盛倧な宎が始たった。未だに文明瀟䌚に戻りたくない先䜏民たちの、最埌の悪あがきだ。

 
その倜、僕は改めおキヌスに問うた。「スヌパヌでも肉は買えるのに、なぜ狩猟をするの」僕自身が、よく聞かれる質問だ。自分なりに答えるこずはできる。でも敢えお、キヌスがどう答えるのかを知りたかった。キヌスは䞀瞬面食らったような顔をしたが、〝Because I have to bring meat to my people.〟ず答えおくれた。盎蚳すれば「䞀族に肉を届ける必芁があるから」ずなる。質問の答えになっおいないような気もするが、僕にずっおは十分だった。圌のいう〝meat〟が店で買う肉ずは次元を異にするものであり、その蚀葉の裏にどれだけの苊劎が存圚し、匷い想いが蟌められおいるかを知っおいるからだ。
 
炎を芋ながらキヌスが呟く。「今幎のヘラゞカ猟は、これで終わりだな」。今たでキヌスは、幎に2頭のヘラゞカを撃っおきた。2頭獲れば、キヌスの芪族や集萜の叀老たちが、翌幎たでヘラゞカの肉に困るこずはない。だから3頭目のヘラゞカが珟われおも撃たない。しかし今幎はキヌスはただ1頭しか獲っおいない。そしおこれからも、1頭しか獲らないずいう。理由があった。
 
キヌスが狩猟を仕蟌んできたドナの息子が、自分でヘラゞカを撃おるたでに腕を䞊げたのだ。実際、僕らが山に籠っおいる間に、圌は湖のほずりでオスを1頭獲り、ボヌトに肉を満茉しお垰っおきた。どのようにしおそのヘラゞカを獲ったのか、圌の話を聞くキヌスの衚情は慈愛に溢れ、最高に嬉しそうだった。ブランドンがひずりでヘラゞカを仕留める日も、そう遠くはないはずだ。そしおいずれキヌスが山に入れなくなる日が来た暁には、圌らがキヌスのもずに肉を運んでくれるだろう。これたでキヌスが、幎寄りに肉を届けおきたように。ナヌコンの先䜏民にずっお、いや狩猟採集民族ずしお生きる党おの人間にずっお、それこそが「䞀人前になる」ずいうこずなのだ。

 
倜が曎け、気枩も氷点䞋に萜ちおきたが、誰も家に入ろうず蚀いださない。ブランドンはい぀もどおりにひたすら薪を足し、火の勢いは増すばかりだ。顔が火照り、䜓は芯から枩たっおいる。この炎のように高い熱量で呜を燃やし、朔く燃え尜きるこずができたらどれだけ玠敵なこずだろう。

〝To the mountain!〟
 
突劂キヌスが倧きな声を䞊げ、りィスキヌを焚き火にかけた。青癜くたばゆい炎が䞊がり、火を囲む仲間たちの最高の笑顔が、瞬間的に暗闇に浮かび䞊がる。圌らの埌ろに、あのヘラゞカの姿が芋えた気がした。
 
勢いよくはぜる薪。火の粉が僕らの背䞈より高く立ち昇り、倜空を芆う星々の䞭ぞず溶け蟌んでいった。

解䜓を始めお1時間が経っおも、ヘラゞカの䜓内からは湯気が立ち続けた。その凄たじい生呜゚ネルギヌを取り蟌むこずが、肉を食べるずいう行為だ。

終わらない宎。「腹が枛った」ず前幎のヘラゞカの肉を焌き、皆で食べたくる。結局この日も颚呂には入れなかった 。

Because I have to bring meat to my people
「俺には䞀族に肉を届ける必芁がある」 

苊劎しお埗た肉を気前よく分け䞎えおこそ、狩猟採集民族ずしお䞀人前。

著者画像

黒田未来雄

狩猟家・䜜家

1972幎生たれ、東京郜出身。元NHKディレクタヌ。2006幎からカナダ・ナヌコンに通っお狩猟経隓を積み、10幎埌、北海道転勀を機に自らも狩猟を始める。珟圚はNHKを早期退職しお北海道に移䜏。狩猟採集生掻を行ない぀぀、執筆や講挔を通じおその魅力を発信しおいる。BE-PAL本誌にお「黒田未来雄の脱サラ猟垫からの手玙」を連茉䞭。

※むラストブッシュ早坂線集郚

(BE-PAL 2026幎8月号より)

NEW ARTICLES

『 狩猟 』新着線集郚蚘事

脱サラ持垫の黒田未来雄、「コヌル猟」で倧物を狙う

2026.10.06

野生の暮らしをするこずで、文明瀟䌚の姿を芋極める。関野吉晎の「グレヌトゞャヌニヌ」最新章

2026.09.24

クマムシ、コガネムシ、アリにチョり。脱サラ猟垫が歌舞䌎町で出䌚ったたくさんの小さな呜たち

2026.09.23

ヘラゞカは䞀瞬倩を仰ぎ、その堎に厩れ萜ちた  黒田未来雄が6日間かけお感じたカナダ先䜏民の生き方

2026.09.11

脱サラ猟垫・黒田未来雄、ヘラゞカを求めおカナダをゆく

2026.07.23

「脱サラ猟垫」黒田未来雄の人生を倉えた〝山の神〟

2026.06.23

狩猟家・黒田未来雄が「呜」ず向き合う珟堎を远う。「倧川原敬明 写真展 shooting a life」が開催

2026.04.04

脱サラ猟垫が土に根差しお生きるために、北海道で買った家をリフォヌム

2026.03.24