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2026.06.06

琵琶湖に注ぐ川の上流で養殖されたイワナは、源流の水が乗り移ったような美味しさだった!

琵琶湖に注ぐ川の上流で養殖されたイワナは、源流の水が乗り移ったような美味しさだった!
愛知川にダムができる前、大きな滝がイワナとアマゴの生息域を分けていた。ダムができた後、上流域にアマゴが試験放流されるとイワナの生活が圧迫された。池田養魚場の方々のように、しっかりした養殖家がいないと、かつての野生は維持できない。食用に育てられた渓流魚を琵琶湖に近い川西豪志さんの店に運び、川西さんが調理。それらは源流の水が乗り移ったような味、天然を超えるうまさだった!

写真はイワナの刺身

静寂なイワナの生息域にも時代の波が押し寄せる

御池川と神崎川の合流地点より下流、愛知川本流に昭和47(1972)年に完成した永源寺ダムがある。永源寺ダムは近江盆地の水不足を解消する目的で、昭和27(1952)年に灌漑専用ダムとして計画された。しかし、213世帯が水没する予定であったため反対運動が強く、補償交渉が難航して着工および完成が遅れた。いまはダムで水没したが、かつて流路には高さ30mの滝があり、そこから上流はイワナとアブラハヤ(くそばえ)しか生息していなかったという。

当時、上流の須谷川近くでは田んぼの水路でもイワナが獲れたそうだ。ダムの完成後、昭和50年代にこれまで生息していなかったアマゴを醒井養鱒場から愛知川に試験放流した。アマゴはイワナよりも少し小さいが、アマゴのほうが攻撃的でイワナを追い払う。そのためアマゴとイワナがいる淵では、餌が多く流れてくる場所にアマゴが縄張りをつくる傾向にあり、イワナの生活を圧迫する結果になる。それに加えて近年の温暖化の影響で、夏場にイワナ親魚が弱って卵を持たない、あるいは持っても卵数が少ない傾向にあるという。稚魚も夏を越せない個体が増えてきて、イワナの養殖にはマイナスが多いとのこと。静寂な奥永源寺にも、確実に時代の波が押し寄せている。

2年物と3年物のイワナ、さらにアマゴ2種を料理店へ運んだ!

アマゴのスモルト個体をアスタキサンチン添加の配合飼料で育てた2年物。

池田養魚場ではスモルトのアマゴをさらに1年、アスタキサンチンという、本来は甲殻類プランクトンやヨコエビなどの殻に含まれる赤い色素成分を加えた飼料を与えて育てることで、身をピンクにしてサツキマスのように仕上げている。天然の鮭鱒類は餌に含まれているアスタキサンチンを摂取することで身がピンクになっているので、養殖サーモンの飼料には欠かせない天然色素だ。達則さんにお願いして、イワナは塩焼きサイズの2年物と刺身用の3年物、それにアマゴは塩焼きサイズの1年物とサーモン養殖用の配合飼料を与えた2年物を持ち帰り用に採捕してもらう。

店から準備して持ってきた氷を詰めた発泡スチロールのトロ箱にイワナとアマゴを入れて、近江八幡市のひさご寿しに戻る。早速、刺身用の大型のイワナとアマゴを店主の川西豪志さんに調理していただく。さすがにこのサイズのイワナは、なかなか天然では釣ることはできない。またサツキマス風に仕上げたアマゴは、まさしく鱒の赤い身になっている。

池田養魚場から運んだ魚のぬめりをとる川西豪志さん。ひさご寿しにて。
サツキマス仕立ての大型アマゴは、まさに鱒である。ひさご寿しにて。

イワナもアマゴも源流の水が乗り移ったような味!

この大型のイワナとアマゴは、まず刺身と焼き切り、そして握り寿司でいただく。刺身、そしてにぎり寿司の上品な脂は、まさに混じりっ気のないピュアな味というか、源流の水が乗り移ったような味だ。いまはきれいになったとはいえ、さまざまな物質が流れ込んでいる琵琶湖の魚の味とも、湧水で育てた醒井養鱒場の魚の味とも違うように感じる。まさに源流の味である。焼き切りは火を入れて皮と身の間のうまみが際立ち、ねっとりとしたサケ科の味である。刺身とは、また全然違った味わいが楽しめる。

養殖イワナとアマゴのにぎり寿司。ひさご寿しにて。
大型イワナの刺身と焼き切り。ひさご寿しにて。
サツキマス仕立ての大型アマゴの刺身と焼き切り。ひさご寿しにて。

2年物のイワナと1年物のアマゴを焼き物でいただく。味噌を好みでつけるようになっている。じっくりと焼いてあるので、骨まですべて香ばしく食べられる。身は淡白であるが、中骨から滲み出てくるうまみが強い。さらにもう2品、酒蒸しとお澄ましのお椀をいただく。日本料理の手法で、上品ながらしっかりと魚の脂とうまみを引き出した料理になっている。

イワナとアマゴの酒蒸し。ひさご寿しにて。
最後に出た渓流魚の椀物。日本料理技術の粋を尽くした一品。ひさご寿しにて。

天然と同じ流水環境下で育てられた養殖魚の天然を超えるうまさ!

渓流魚の世界では、食味の評価は1にアユ、2にアマゴとヤマメで、イワナはせいぜい3番手扱いである。天然魚のイワナは味はともかく、奥山の幸、最上流の野趣を楽しむという風情であるが、ここまで大きく育った養殖イワナは脂が乗って極めてうまいとしかいいようがない。 近年、海の魚でも天然物の味を超える養殖魚が流通し始めた。養殖に携わっておられる方々の、理想と掲げる飼育環境や餌への飽くなき探求の賜物である。わたし自身は食べ飽きるほど、天然のイワナやアマゴを食べてきたわけではないが、サイズといい、脂の乗りといい、天然と同じ流水環境下で育てられた養殖魚の、まさに天然を超えるうまさを感じた。

ひさご寿し/滋賀県近江八幡市桜宮町213-3 https://www.hisagozushi.com/

とくに表記のない写真は、すべて湯本貴和さんの撮影です。

著者画像

湯本貴和さん

1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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