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山本高樹の台湾鉄道環島旅・第13回(最終回):基隆と台北
瑞芳(ルイファン)での滞在を終えた僕は、旅のゴール地点の台北に戻る前に、少し寄り道して、基隆の街で一泊していくことにしました。街の名前自体に昔から聞き覚えがあって、旅の最中に地図をぼんやり眺めながら旅程を考えているうちに、基隆に寄っていこうかな、と、ふと思いついたので。瑞芳から基隆までは、列車を乗り継げば30分ほどで着いてしまうほどの近さで、基隆から台北までも、列車で1時間もかかりません。でも、こうしてゆっくり移動する旅だからこそ、味わえる時間や体験もあるのかな、と思います。
基隆は、深い湾と三方を囲む山々という地形に恵まれた天然の良港で、かつてはスペインやオランダが拠点としていた時代もあるなど、古くからの歴史を持つ場所です。現在も台湾有数の港湾都市として栄えているそうで、街を歩き回っていても、港町ならではの活気を感じました。

基隆を訪れた日はあいにくの雨模様で、冷え冷えとした小雨の降る中、傘を差しながら細い路地裏をぶらぶら歩いて、通りすがりに見つけたカフェで雨宿りしつつ、コーヒーとケーキをいただいたりしました。雨なら雨で、そういう時間の過ごし方も悪くないな、と思います。

晩ごはんは、この街で人気だという黒白切(ヘイバイチエ、豚のさまざまな部位をゆでたものなどの盛り合わせ)の店、基隆孝三大腸圏(ジーロンシャオサンダーチャンジュエン)へ。こういう食堂は夕方には店じまいしてしまうところも案外多いので、閉店前に間に合うよう、少し早めに行ってみました。

この店の名物、大腸圏(ダーチャンジュエン)を中心にした、豚のゆで肉の盛り合わせ。大腸圏は糯米腸(ヌオミーチャン)と同じ、もち米の腸詰です。いやあ、うまい……好きに選んでかけられるタレも最高……。
今回の台湾の旅では、ほぼ毎日のようにこうした小吃(シャオチー、軽食)を食べて過ごしてきましたが、来る日も来る日も全然食べ飽きなくて、日本の食事もまったく恋しくならず、何ならこれからもずっと台湾の小吃を食べ続ける人生であってもいいくらい、すっかり気に入ってしまいました。

基隆の街には、廟口夜市(ミャオコウイエシー)という有名な夜市が毎晩にぎわっていて、僕が予約した宿はそのすぐ近くだったので、晩ごはんの帰りに立ち寄ってみました。雨が降っていたので人出はそれほど多くなかったですが、たくさんの黄色い提灯の明かりが濡れた路面に映っていて、風情のある雰囲気を醸し出していました。

基隆廟口夜市をぶらぶら歩いていて、ふと目についた看板。天婦羅……天ぷらなんですかね? 店の人たちの手元を見ると、確かに揚げ物を作ってはいますが、何か違うような。どうやら、ここの名物の一つのようです。晩ごはんをすませた後でしたが、まだちょっと食べられる気がしたので、小さいサイズのを買って、宿の部屋で食べてみることにしました。

宿に持ち帰って開封した、天婦羅。見た目は小ぶりなさつま揚げのようで、甘辛いタレをかけていただきます。見た目を裏切らないシンプルな味ですが、割としっかり食べ応えもあって、ビールにも合いますね。あとで調べてみたら、サメのすり身を使っているとか。
旅の終着点の街、台北。念願の熱炒で打ち上げ!

基隆を列車で発った僕は、1か月前にこの旅を始めた街、首都の台北に戻りました。この日から帰国便に乗るまでの2泊3日は、休暇を取って日本から来た家族と合流して、旅の疲れを癒しつつ、ゆっくりと過ごすつもりでいました。一人でドミトリーに泊まりながら、街から街へと気楽に流れていく旅も楽しいですが、気の置けない人とおしゃべりしながらのんびり過ごす旅も、また良いものです。
台北では、帰国する前に立ち寄っておきたかったカフェ、森高砂珈琲館(センカオシャーカーフェイクワン/サンコーヒー)を訪れました。台湾産のコーヒーを中心に取り扱っている店で、5年前の旅でも一度来て、味も雰囲気もすごく良い印象が残っていたので、家族と一緒に再訪したい、と思っていたのです。大稲埕(ダーダオチェン)をはじめ、台北市内にいくつか支店があります。

阿里山(アーリシャン)のコーヒーを、ホットで注文。氷で冷やした試験管のような容器には同じコーヒーが入っていて、ホットとアイスで飲み比べられるという、この店ならではの趣向です。ほかに、ミルクレープのようなケーキもいただきましたが、繊細な味でおいしかった……。
森高砂珈琲館では、台湾産のコーヒー豆やドリップバッグなどの販売も行っています。いずれも希少な豆で、値段も結構お高めなので、お土産に買うかどうか、かなり迷ったのですが、家族に「せっかく台湾に来たんだから、買えばいいじゃん」と言われ、確かに日本じゃほぼ手に入らないしな……と思い直し、阿里山のコーヒー豆を買うことに。帰国後、何度かに分けて自分で淹れて、じっくり堪能しましたが、しっとりと優しい、素朴な味わいで、買ってよかった……としみじみ思いました。

家族と合流してから楽しみにしていたのは、台北の長安東路一路という通り沿いに集まっている、熱炒(ルーチャオ)の店に行くこと。熱炒とは、海鮮や肉と野菜の炒め物を中心に出す台湾式の居酒屋です。一人でも入れなくはないのですが、日本の居酒屋と同様、二人以上で入った方がよりいろいろな料理を味わえるので、この旅での最後の晩餐は、家族と熱炒に行けたら……と、ずっと思っていたのです。

多くの熱炒の店では、店の奥にガラスの引き戸のついた大きな冷蔵庫があって、客はそこに入っている酒を自分でテーブルに持ってきて飲む仕組みになっています。お会計の時は、卓上にある瓶の数をお店の人が数えて計算してくれます。客が自分の酒を持ち込むことも可能で、その場合は持ち込み料を払うそうです。
この日の夜に入った熱炒の店では、今回の旅で僕がすっかり気に入った、賞味期限が18日間しかない台湾ビール、ONLY 18 DAYSの瓶ビールが置いてありました。旅の最後にこれを飲めたのは、うれしかったですね……。家族も、このビールならではのフレッシュな味わいを気に入っていました。

熱炒では、海鮮や肉野菜の炒め物のほか、メインにはスズキの清蒸(チンジョン)をいただきました。メニューを見ると時価とあって、ちょっとたじろいだのですが、この日入荷している魚の中からスズキを選んで、おそるおそる値段を聞くと、そこまで高くもなかったので、思い切って注文することに。頼んでよかった……柔らかくて香り高くて、めちゃめちゃおいしい……。まさに、旅のフィナーレを飾るのにふさわしい一品でした。
そんなこんなで、約1か月に及んだ台湾での旅のレポートは、3分の1くらいが食べ物の話になってしまった気がしますが(笑)、ひさしぶりにゆったりと気ままな旅の時間を過ごせて、本当に楽しかったです。こういう穏やかな旅の時間を経験させてくれた台湾の人々にも、感謝したいと思います。ありがとう。





