2025年10月、14年ぶりに復旧した熊野古道・中辺路の正規ルートを歩いてみた | 山・ハイキング・クライミング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    山・ハイキング・クライミング

    2025.11.16

    2025年10月、14年ぶりに復旧した熊野古道・中辺路の正規ルートを歩いてみた

    2025年10月、14年ぶりに復旧した熊野古道・中辺路の正規ルートを歩いてみた
    熊野古道といえば、大門坂に代表される苔むした石段とスギやヒノキなどの巨木に囲まれた風景を思い浮かべる方が多いことだろう。2004年には、その文化的景観と普遍的な価値が認められ、ユネスコの世界文化遺産に登録された。もう20年以上も前のことだ。今やインバウンド客で大賑わいの熊野古道だが、2011年9月に紀伊半島を襲った台風12号の影響で甚大な被害を受け、以後、一部区間が通行止めになっていたことをご存じだろうか。しかし、このたび14年に及ぶ復旧作業が終了し、2025年10月1日に、14年ぶりに本来の熊野古道ルートが開通した。早速、再開したばかりの区間を歩いてみた。
    Text

    熊瀬川王子から三越峠まで、峠あり沢ありの美しき森を行く

    復旧したルート途中にある苔むした倒木
    復旧した区間を歩くと、そこかしこに、しっとりとした絵画のような風景が広がっていた。

    今回歩いたのは、熊野古道の中辺路(なかへち)の一部。中辺路は、海辺の町、田辺市からはじまり、熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社・那智山青岸渡寺からなる熊野三山へ至るルート。紀伊半島の山間部を通り、途中には熊野の御子神を祀った王子が多数点在する、熊野古道のなかでも、とりわけ人気が高いルートだ。

    熊野古道の案内板
    小広王子と熊瀬川王子の間には、公衆トイレや案内図がある。今回は、ここから熊野古道を歩いた。
    木漏れ日が心地いい林道
    この区間では珍しいフラットな林道。木漏れ日が心地よい。歩いたのは、このWEBで数々の野外料理レシピを提案している料理研究家の小牧由美さん。念願の熊野古道デビューを果たした。

    熊野古道を知り尽くした達人と歩く

    熊瀬川王子の手前からスタートし、わらじ峠を経て、仲人茶屋跡へ。仲人茶屋跡から先が復旧区間となり、岩神王子を経て、蛇形地蔵(じゃがたじぞう)で復旧区間は終了。その先、湯川王子を経て三越峠(みこしとうげ)まで歩いた。この日は、和歌山県観光連盟の呼びかけで、ほかにテレビクルーや雑誌記者も同行。さらに、復旧作業を支えた中辺路町森林組合の岡上哲三元組合長、語り部の会熊野古道中辺路の山田良憲会長も、途中、解説を交えながら同行してくれた。

    岡上哲三さん
    中辺路町森林組合の岡上哲三さん。長い復旧作業にも尽力してきた。
    山田良憲さん
    中辺路を中心に、熊野古道の魅力や歴史を分かりやすく説明する語り部の山田良憲さん。

    圧倒的な森の美しさとスケールに心が躍る

    朝9時過ぎに、巨大な針葉樹に囲まれた林道を歩き始めた。その先にある沢に架かる苔むした木の橋を渡ると上り坂が始まった。不揃いの石が積まれた道や、樹木の根が密集した道など、地質が目まぐるしく変化する。坂の途中で、ふと見上げると、そこには針葉樹が天高くまっすぐに伸びていた。岡上さんの話では、間伐や下草刈りなど地道な作業を繰り返すことで、樹齢70年以上にもなるような木々が、まっすぐに育つという。その技術と環境により育まれた紀州材は、特別な木材として、今も高く評価され続けているそうだ。

    木の橋を渡る
    時間の経過を感じられる木の橋。

    背の高い針葉樹に囲まれているのに、いくら歩き進んでも、鬱蒼とすることはなく、とにかく明るく気持ちがいい。ところどころにホオやトチなどの広葉樹も残されていて、やさしい木漏れ日に癒されるようだ。こんな森の豊かさを体感できるのは、岡上さんや山守の人々の仕事のおかげにほかならない。

    石碑
    そこが熊瀬川王子であることを記す石碑。
    上り坂
    間伐作業など、人の手で丁寧に管理された明るく気持ちのいい樹林を進む。

    土あり、石畳あり、変化に富んだ道を進む

    わらじ峠までは、つづら折れが続く。途中、見事な石畳が連続するカーブなど、見どころもたくさん。熊野古道を歩いていることを視覚的にも実感できた。

    心地いい道
    木々の間を縫うように、なだらかな道が作られている。
    石畳のカーブ
    石畳と樹木のコントラストが、熊野古道を歩いていることを視覚的に伝えてくれる。

    わらじ峠から女坂(めざか)を下ると仲人茶屋跡に至る。語り部の山田さんによれば、女坂と男坂を結びつける場所にあることから、縁結びの仲立ちをする仲人(茶屋)と名付けられたとか。

    道標
    この道標の先から、2025年10月1日に復旧した区間がはじまる。
    仲人茶屋跡にある橋
    女坂を下ると仲人茶屋跡に架けられた橋が出現する。ここから男坂を上る。
    復旧したルートのマップ
    仲人茶屋跡には、仮設トイレが設置されていた。そこに貼ってあった復旧ルートを示すマップ。

    その先、岩神王子方面へと向かう道から、いよいよ復旧したルートへと入る。真新しい木材で補強された階段を下り、沢を渡る橋の近くには、サワガニがのんびりと歩いていた。

    きれいな沢
    復旧した区間には、清冽な沢がいくつも流れていた。

    風景はもちろん、道そのものの美しさまで楽しめる

    前日まで雨が降っていたこともあり、岩神王子までの道は、ぬかるんでいた。それまでの古道とは大きく異なり、14年間も人がほとんど入ることがなく、新しく土を盛った、できたばかりの新道という印象だった。しかし、見事な針葉樹林を抜ける細いトレイルの美しき様相は、まぎれもなく先達が切り開いた古道であろうことを確信。この美しい道が、再開されたこと、そんな道を早々に歩くことができたことには感謝しかない。

    みごとなトレイル
    美しいカーブを描いたトレイル。

    岩神王子まで峠を上り切ると、山々が連なる紀伊山地の眺望が広がっていた。その周辺は、ヒノキの植樹がされて間もないエリアで、鹿よけのネットの間を歩く。

    石碑
    長い峠を上った先にある岩神王子跡の石碑。
    眺望スポット
    岩神王子から紀伊山地を望む、この区間で随一の絶景スポット。

    さらに進むと、周囲の景色は一変した。苔むした倒木が連なる風景が出現。そこからしばらくは、沢沿いを行く。「熊野古道中辺路のなかでも、このあたりはとくに苔が美しいエリアなんです。この景色を久しぶりに見ることができました」と山田さん。しばし、しっとりとした緑豊かな美しい風景を楽しみながら進んだ。

    間伐材を使ってほぼ人力で復旧された痕跡を目の当たりに

    このあたりの谷は深く、台風の影響を強く受けたことが見て取れた。崩れた道を復旧するために、何段にも組み上げられた木材。そして、真新しい木の橋がいくつも出現する。

    新たに作られた木の階段
    スギやヒノキなどの間伐材を有効利用した階段。岡上さんによれば、樹齢70年を超えるような木を使わないと、すぐに朽ちてしまうそうだ。
    修復された道
    復旧のために新しく架けられた木の橋。その先には、木材を組んで、崩れた道を修復した跡が残る。

    そんな修復跡を見つめながら、岡上さんは、「山主さんが許可をくれて、この間伐材を使うことができたからこそ、こんなに早く復旧ができたんです。そして、山で働く仲間の技術の高さも誇りに思います。もし、この木材を使わせてもらえなかったら、もっと時間がかかったことでしょう」と話した。

    木の橋と補強
    歩く人が不安を感じそうな橋には、ロープを張っている。修復跡から、どれだけ大きな被害だったかが容易に想像できる。

    間伐材をほぼ人力で運び、その場で加工して修復する。そんな山守たちの長きにおよぶ作業に感謝しながら、蘇った古道を進んだ。

    水の豊かさを感じさせる、しっとりとしたゾーン

    苔むした景色を楽しめる区間
    蛇形地蔵近くまでは、沢沿いを歩く。熊野古道を代表するような苔の多い風景が目にやさしい。
    苔むした風景
    14年間、見ることができなかった風景をたっぷりと楽しもう。

    この地で亡くなった、京都の芸者おぎんを祀った地蔵の前を通り、蛇形地蔵近くで、迂回ルートからの合流地点となる。復旧したルートはここまで。この区間は、路面こそ踏み固められていない部分も多かったが、豊かな熊野の森を抜ける巡礼の道は、予想を数倍も上回る美しい佇まいの道だった。

    おぎん地蔵
    古道を歩く旅人たちを見守るおぎん地蔵。
    美しい景色の中の橋
    迂回ルートと合流したところにある趣のある橋。復旧ルートを通ったからこそ見える特別な景色だ。

    その先、湯川一族の墓がある湯川王子を通過し、長く急な坂を上れば三越峠に至る。大切に育まれた明るい針葉樹林の間を縫う古道。クリーンな空気を常に感じながら歩く心地良さは、霊山ならではのものなのだろうか。世界中から観光客がやってくる理由がよくわかった。

    林間を歩く
    復旧区間を抜けると、再び踏み固められた歩きやすい道になる。
    この日、最後の上り
    この階段を上れば、この日のゴールの三越峠。

    歩き終えた山田さんに感想を伺った。
    「今日、歩いた区間は峠を3つ越えるので、まあ、しんどいんです。しかし、今回復旧した岩神王子の道というのは、川沿いですごく歩きやすくて、景色がとくに気持ちがいい道なんです。いろいろな人にまた来てもらって歩いてもらえたらと思います」

    続いて、岡上さんはこう話した。
    「久しぶりにこの道を歩いて、空気の良さを感じました。上り、下り、上れば、また下り…。そんなことを繰り返すいい道です。熊野古道はダイヤなんです。そんな大切な宝を森で働く人も、森の所有者も、そして、そこを歩く人もずっと一緒に守っていかなければなりません」

    岡上さん
    品質の高い紀州材を大切に育て、森を守る活動にも貢献している岡上さん。

    一度にすべてを歩く必要はない

    熊野本宮大社
    旅の締めくくりに熊野本宮大社で参拝。安全に歩き終えたことに感謝。「ずっと神様に見守られているような神聖で特別な山道でした」と小牧さんは話した。

    中辺路の総距離は、100km強。日本を代表するロングトレイルゆえ、一度に踏破するのは難しいかもしれない。何度かに分けて訪れセクションハイクをしながら、いつか全ルートを歩き切るのもいいだろう。紅葉が見ごろを迎える季節から、雪に覆われる古道、そして、春の芽吹きなど、季節ごとの景色を楽しむのもいい。1,000年以上に及ぶ古道の歴史を思いつつ、今に続く森の息吹を歩いて体感しよう。

    田辺市から見た紀伊山地
    早朝、移動途中に田辺市から見た紀伊山地。すでに神秘的な雰囲気が漂っていた。

    これから熊野古道を歩く人へのプチ情報

    おにぎり4個
    お昼ごはんは、早起きしてJR紀勢本線、紀伊田辺駅近くで購入したおにぎりで。

    今回は、前日のうちに田辺市に入りビジネスホテルで1泊した。到着後に駅周辺を歩くと、「MyAsa Breakfast & Coffee」という店があった。表の看板に「営業時間:早朝から15時まで」とあったので、翌日の営業時間を尋ねた。すると「5時から開けます」と。翌朝、まだ暗いうちに店に行き、おにぎりをオーダー。その場で握ってくれた。兵庫県産の無農薬米を使ったおにぎりは、ボリュームもあり美味しかった。田辺で宿泊して、熊野古道に行く方は、ぜひチェックを。

    ■MyAsa Breakfast & Coffee https://samsara-myasa.com/

    バックパックに梅干しを

    袋に入った梅干し
    紀州産の梅を使った無添加の梅干し。ジッパー式の袋に入っているので持ち運びに便利。

    紀伊田辺駅前でひときわ目立つモダンな木造建造物を発見。入ってみると、カフェ、コワーキングスペース、ショップなどを備えた商業施設だった。クラフトビールや加工食品など、周辺で作られたものも多く、お土産を探すにもぴったりの店だ。せっかく和歌山に来たのだからと、行動食用の梅干しを探したところ、ジッパー式の袋に入った「梅と塩だけ 昔ながらしょっぱい梅(白干し梅)」という製品を見つけた。これは、田辺市内にある松晃梅という会社の製品で、和歌山県産の梅を使い塩だけで加工されている。夏場なら塩分補給に、また、年間を通してクエン酸による筋肉疲労の軽減が期待できる。

    ■tanabe en+(タナベエンプラス) https://tanabe-enplus.jp/

    ■松晃梅 https://www.umeboshi.ne.jp/

    紀伊山地の参詣道のルール
    この素晴らしい古道を後世に繋げるため、一読し、心して歩こう。

    紀伊田辺駅周辺や熊野古道は、インバウンド客であふれていた。中辺路の途中にある宿は、連日、予約が取りにくい状況が続いている。「予定日が決まったら、真っ先に宿の確保を」と観光連盟の方は話した。とくに温泉宿が人気で、市街地のビジネスホテルは、比較的、予約が取りやすいそうだ。余裕を持ったスケジュールで、マナーを守って楽しく歩こう。

    協力/和歌山県観光連盟   https://www.wakayama-kanko.or.jp

    山本修二

    ライター

    東京生まれ、名古屋在住。自転車好きライターとして本誌を中心に東京で活動し、2015年に名古屋へ移住。東海エリアの食とアウトドア環境を満喫中。肩の力を抜いてユルく自転車に乗りたい人のためにまとめた著書『スポーツ自転車でいまこそ走ろう!』(技術評論社)、好評発売中。

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