長距離トレイルの歩き始めは“ひーひー ”言いつつ無理をしない【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.10】 - 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.03.27

    長距離トレイルの歩き始めは“ひーひー ”言いつつ無理をしない【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.10】

    ポトマックヘリテージトレイル編 その10]

    トレイル初日に口から漏れる“ ひーひー” 

    2024年9月下旬、アメリカの首都であり、今回歩くポトマックヘリテージトレイルの起点があるワシントンDCに渡りました。日本から着いて真っ先に感じたのが、暑い!ということ。ハーフパンツを荷物に加えるか迷った末に持ってこなかったことを後悔し、結局、ワシントンDCのアウトドアショップでハーフパンツと虫よけギアを買い求めました。

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    そして、最終的に約500kmの道のりを歩くことになる、ポトマックヘリテージトレイルの第1日目。歩き始めてすぐに感じたのが、やっぱり暑い!ということでした。

    そもそも僕は、歩き始めはいつも“ひーひー ”言いながら歩いています(本当に“ひーひー ”とは言いません、あくまで比喩です)。なぜ“ひーひー ”言うのかというと、日本にいるときに大荷物を背負ってトレーニングすることがないからです。

    普段から、地元・山形の山に入り、それなりに歩いています。でも、あえてアスファルト道の多い日本のトレイルを大きな荷物を背負って歩くことはしません。路面を歩く衝撃で関節を痛めてしまう恐れがあるからです。そのため、いつもぶっつけ本番なのです。

    僕はかつて、3大ロングトレイルといわれるパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)、アパラチアン・トレイル(AT)、コンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)を踏破しました。そうした数千kmにおよぶ超長距離のトレイルや、アメリカ南部のような乾燥地帯を歩くときは、30〜40kgを越える荷物を背負うこともありました。今と比べて数年前の電子機器が重いというのもありますが、それだけではありません。

    毎年、海外のトレイルを長期間歩く僕にとって、費用捻出も重要な問題です。節約するためには、安いスーパーでの食料補給が欠かせません。結果、5日~7日分の食料を持つことになり、必然的に背負う荷物の重量が増えるのです。

    しかし、今回のポトマックヘリテージトレイルでは、バックパックの重さはおおむね25~30kgほど。町と町の間隔が比較的短いので、最大で5日分の食料を背負うのが1回。平均すると3日分の食料を運ぶだけで済むからです。

    ただ、歩き始めは、食料も満載です。普段、日本でこれだけの重さを背負って歩くことはほとんどありません。そんなこともあり、トレイルを歩き始めて数日はあまり長い距離を歩く計画を立てません。無理をせず、体を徐々に慣らしていくことが大切だからです。そこで、(あくまでもイメージで)“ひーひー ”言いながら、ペースを保って歩くのです。

    The Potomac Heritage Trail : MILE 0

    今回、ポトマックヘリテージトレイル初日に歩く距離として想定したのは、約16マイル(約24km)。トレイルヘッド(起点)から16マイル先のキャンプ場を初日の宿泊地にする予定です。

    トレイルに詳しくない人からすると、「1日にその程度しか歩かないの?」と思われるかもしれません。でも、僕自身は計画段階で「初日にしては歩きすぎかな」と思いました。それでも、バイカー(自転車)と同じ比較的歩きやすいルートを通るので、問題ないだろうと判断したのです。

    それにしても、暑い。もう間もなく10月だというのに、真夏のような暑さです。ハーフパンツを買って良かった!と心から思いました。トレイルヘッドである0マイルポストからポトマック川沿いに歩みを進めます。

    ポトマック川では、子どもたちによるボートレースが行われていました。父兄の声援でにぎわう川沿いの道を進み、河畔にあるジョージタウン公園を歩いていきます。

    一般的なロングトレイルでは、スタートエリア周辺にトレイルのマーカーが必ずあります。でも、ポトマック川沿いには見当たりません。やや気になりましたが、普通に考えて川沿いがルートで問題ないだろうと、そのまま歩いていきました。

    ポトマック川で行われていた子どもたちのボートレース風景。

    あとから調べて分かったのですが、僕がスタートした0マイルポストからポトマック川の支流であるロック川沿いの道を進むと、水門があり、C&O運河トレイルの旧0マイルポストがあった場所にたどり着くそうです。ここには、復数のロック(※) があります。
    ※ロック:日本語では「閘門(こうもん)」といい、運河や水路水量調節するため水門。水位差の大きい運河や河川などでは、船舶を通過させるためにロック=閘門で水をせき止めておく。

    C&O運河トレイルは、その名の通り運河沿いにあり、これらロックを辿る歴史の道にもなっています。僕はルートがこの水路を通るとは知らず、ジョージタウン公園を歩き、トレイルはどこだろうとキョロキョロしながらポトマック川沿いを歩いていって、自然にC&O運河トレイルに合流しました。ひょっとしたら、歩き終えても知らないままだったかもしれません。

    The Potomac Heritage Trail : MILE 1.0

    僕がC&O運河トレイルに完全に合流したのは、ポトマック川にかかるフランシス・スコット・キーメモリアルブリッジ(通称キー橋)の手前を運河方面に進んだ、スタート地点から約1マイル(1.6km)のアレキサンドロ・アクアダクト・フットブリッジからでした。

    マイルポストを見るまで2マイルくらい歩いている感覚でしたが、実際は1マイル。1マイルってこんなに長かったかなと思いつつ、考えてみれば1kmの1.6倍の距離です。いつもkmをベースに歩く僕ら日本人にとっては、1マイルが長く感じても無理はありません。これまで何度もアメリカのロングトレイルを歩いているのだから、いい加減、マイルの距離感に慣れろって話ですが…。

    遠目にも巨大で風格を感じる、ポトマック川にかかるフランシス・スコット・キーメモリアルブリッジ。

    フランシス・スコット・キー・メモリアルブリッジ(通称キー橋)は、バージニア州アーリントン郡のロスリン地区とワシントン D.C.のジョージタウン地区の間の架かる鉄筋コンクリート製アーチ橋です。

    後で知ったのですが、1923 年に完成した、ポトマック川に架かるワシントンD.C.最古の現存する道路橋だとか。そんなキー橋の由来は、アメリカ国歌「星条旗」の歌詞を書いた詩人フランシス・スコット・キーにちなんで付けられたそうです。1996年に 国家歴史登録財に登録されたそうですが、さすがワシントンD.C、街のあちこちに歴史的建造物があります。

    さて、トレイルに合流してホッとしつつ、人の多さに驚きます。運河沿いにはダートロードがあり、その脇にはアスファルトの道があり、アスファルトの道では多くのランナーが走っています。僕はダートロードを歩いていくのですが、この道はバイカー(自転車)と、ハイカーが主に多く、時折ランナーも走っていて、賑わっています。

    それにしても…蚊がたくさんいます。 早速アウトドアショップで勧められて購入した虫よけを入念に塗りこみます。先ほどからランナーが川沿いではなく道路沿いの道を走るのを不思議に思っていたのですが、運河沿いは蚊が大量発生しているからだったかもしれませんね。僕はすでに何カ所か蚊に刺されましたが、ペースを保ってゆっくりと歩みを進めます。

    The Potomac Heritage Trail : MILE 4.0

    MILE4のマーカー。ワシントンDCとメリーランドのボーダーでもある、らしいです。

    いきなり初日から、州境を越えメリーランド州に入っていきます。とはいえ、「ここからメリーランド州です」みたいな看板は目にした記憶がありません。何となく、気付いたらメリーランド州に入っていました。

    メリーランド州は2回目の訪問になります。初めてメリーランドを訪れたのは、3大ロングトレイルのひとつであるアパラチアン・トレイルを歩いたときです。

    アパラチアン・トレイルを歩いていて、メリーランド州のセクションはたった2日で終わりました。メリーランド州のセクションは、確か約40マイル(約65km)ほどだったと記憶しています。ガイドブックを見て、そのときの記憶が蘇ります。

    先述したように、このC&O運河にはいくつものロック=閘門が設けられています。そして、ロックを管理する閘門番のための住宅=ロックハウスが、水門のすぐ脇に建てられています。現在、ロックハウスに閘門番は住んでいませんが、今もなお数多く残されています。

    現存するロックハウスの多くは、観光地やポトマック川へアクセスするトレイルヘッド(トレイルにアクセスできる入り口)として利用されていて、駐車場や簡易トイレ、ポンプ(水)などが設置されています。

    かつての歴史を伝えるロックハウス。

    C&O 運河トラスト(C&O運河国立歴史公園の非営利団体パートナー企業)は、C&O運河国立歴史公園内に 7 軒のロックハウスを宿泊施設として提供しているそうです。宿泊できる 7 つのロックハウスは、それぞれ異なる時代を象徴しているそうです。ロックハウスに宿泊するには予約が必要です。

    このロックハウスの宿泊料は、1泊なんと175ドル、日本円で25,375円(1ドル145円換算)。さらに、初回はメンテナンス費用として80ドル=11,600円(1ドル145円)も求められるので、合計36,975円。なかなか高額な宿泊施設なのです。

    ロックハウスに宿泊する際は、タオル、毛布、シーツ、枕などのリネン類は提供されず、焚き火台やピクニックテーブルがないことも珍しくありません。暖炉を使えない施設もあり、見た目もかなり古いのですが、そこはさすがに改修してセントラル ヒーティング、エアコン完備しているそうです。

    ただ、厳密にいうとロックハウスはホテルではなく、歴史を体験・体感できる場という位置づけらしいです。

    僕がトレイル中に、ロックハウスに宿泊している人を見かけることはありませんでした。話の種にしては高額すぎ、なんでしょうね。少なくとも、円安で超節約トレイル中の僕はさすがに泊まる気になりませんでした。

    それにしても、暑い!歩いているうちに、暑さの原因がただ単に気温が高いからだけではないことに気づきました。今回はアクセスの良さを考えて、ワシントンDCをトレイルのスタートに決めました。トレイルとしては、川下から川上に向かって歩く道のりです。

    察しの良い人、勉強が得意な人はお気づきかもしれませんが、水は高いところから低いところに流れます。つまり、今回の僕のルートだと、ずっと登り道を歩くことになるのです。どおりで汗が出るはずです。僕は、この終わることのない登り道を歩いていかなくてはならないのです。

    自分が川上に向かっている=ずっと登り道を歩いていることに気づいたのは、スタートから4〜5マイルの地点。すでに6〜8km歩いているので、そのまま歩を前に進めるしかありません。何で川上をスタートにしなかったんだろう…。いつも先に立たない後悔にグッタリしながら、汗まみれで歩いていきます。

    なんとなく登りになっているの、分かりますか?

    The Potomac Heritage Trail : MILE 5.6

    スタートから5.6マイルの地点に、ロックハウス6がありました。調べると、このロックハウス6が完成したのは、 1830 年9月。ここには、数少ない女性の閘門番の 1 人であるマーサ・キングとその家族が住んでいたそうです。彼女は 30 年間も運河で働き、その後、 84 歳で国立公園局の職員になったとか。日本なら考えられませんね。

    このロックハウス6あたりまで来ると、街から少しずつ離れ始め、ランナーの数も減ってきました。また、陽が傾き始めると、心なしか蚊の数も少し減ってきたような気もしました。

    先述したように、僕がポトマック・ヘリテージ・トレイル初日に想定している歩行距離は約16マイル(約24km)。このあたりで、ようやく3分1ほどを歩いたことになります。つまり、まだまだ“ひーひー ”言いながらの初日のトレイルが続きます。

    MILE8のマーカー。この辺はポトマック川のすぐ脇にトレイルがあります。

    ポトマックヘリテージトレイル公式サイト

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    私が書きました!
    プロハイカー
    斉藤正史
    2012年より日本で唯一のプロハイカーとして活動。トレイルカルチャー普及のため、海外のトレイルを歩き、アウトドア媒体を中心に寄稿する傍ら、地元山形にトレイルのコースを作る活動「山形ロングトレイル(YLT)」を行なう。スルーハイク(単年で一気にルートを歩く方法)にこだわり、スルーハイクしたトレイルだけで22.000km(地球半周以上)を超える。最新情報はブログを。また、BE-PAL.netにて「TOKYO山頂ガイド」を連載中。

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