なぜ日本人が!?北米先住民の伝統彫刻を教え続ける理由

2021.03.30

私が書きました!
フォトグラファー
杉本 淳
カナダ、ユーコン準州ホワイトホース在住。2008年にユーコン川下りで訪れて以来、ユーコン準州に通い始める。2011年に移住後も、ユーコンに生きる野生動物や人々の生活を引き続き撮影中。ユーコンから色々なトピックをお届けします!WEBサイト:www.aplーas.com

ファーストネーション(北米先住民)の伝統彫刻を伝える日本人

日本でインディアンやイヌイットと呼ばれる北米先住民は、カナダでは総じてこう呼ばれている。カナダだけでも650を超える部族が、人口がわずか4万人強しかいないユーコン準州だけでも、14部族8000人以上が暮らしている。

自身制作のオオカミのデザインのパドルを持つ森島さん。このパドルはイエローシダー、ヒノキの仲間でできていて、とても良い香りがする

準州都ホワイトホースでは、毎週水曜日の夕方、地元の若者向けに、ファーストネーションの伝統彫刻を学べるワークショップが行なわれている。その講師をしているのが、岐阜県出身の日本人、森島雄也さんだ。

先住民彫刻との出会い

ワークショップを取材で尋訪れた時、パドルの制作をしていた。ノースウェストコーストの彫刻刀、フックナイフは、日本の宮大工などに使われる槍鉋(やりがんな)によく似ている

森島さんがファーストネーションの彫刻と出会ったのは、2013年。ワーキングホリデーでホワイトホースを訪れた時、地元のファーストネーションの若者向けの、ワークショップを訪ねたのがきっかけだった。

もともと手先を使った作業や、木に触れること、仏像彫刻を見ることは好きだったけれど、それまで実際に彫刻を始めようと思ったことはなかったという。

ノースウェストコーストスタイルのデザイン

ワークショップで出会ったのは、「ノースウェストコーストスタイル」と呼ばれるデザインと木彫刻。ユーコン準州の南に住むクリンギット族が、南東アラスカ沿岸部から移住して、その後もユーコン準州内で代々受け継いでこられた文化だ。

カエルのデザインのパドル。頭を下にして水に飛び込む様子を表している。木はレッドシダーを使用。 作:森島雄也

曲線だけで構成されたシンプルなデザイン。これがノースウェストコーストスタイルのデザインの大きな特徴。森島さんはクリンギット族の芸術に出会い、曲線の美しさに魅了され、シンプルな形の組み合わせに無限の可能性を感じたという。そして湧いてきた興味、創作への情熱を注ぎ続けて今に至る。

日本人だからこそ通じやすかったこと

”お散歩クマちゃん” 子熊が鮭を追いかけるデザインのおもちゃ。小さな子が口に入れても安全な亜麻仁油をつかって仕上げてある。 作:森島雄也

森島さんが彫刻を学び始めて、ファーストネーションの人々と過ごす時間が長くなるにつれて、居心地が良くなってきたという。それは先祖代々自然とともに生きてきたファーストネーション特有の、西洋化された現代社会とは明らかに違うゆっくりとした空気感や、彼らの人柄がそうさせたようだ。それを森島さんは、自然な流れ、しっくりきた、と表現してくれた。 

時間が経つにつれて、それ以外にも見えてくるものがあった。自然を敬うこと、先祖の霊や魂という概念、祈りを捧げること、人々と何かを分け合う精神、ファーストネーションの老若男女の中にあるこの感覚は、古き良き日本の感覚や習慣にとてもよく似ているということ。古くから自然と深く関わってきた日本人も「八百万の神」と神道で表現したように、ファーストネーションも違う土地で同じように、自然と深く関わってきことが想像できる。

制作活動の中でも共通点が見えてくるという。彫刻を掘る前に、デザイン画を筆を使って描く。曲線を描くときの筆運びは、日本の習字に通じるものがあるという。

「これは余談だけれど、日本製の刃物は多くの地元彫刻家にも評判が良い。日本に一時帰国するときは、仲間から日本製の彫刻刀、ノミ、ノコギリなどを買って来るように頼まれることがよくある」と森島さん。

これらが、外国人である自分が全く違う文化にしっくり馴染めた理由だと、森島さんは考える。そして引き続き自身も学びつつ、今では地元の小学校やワークショップで、若者に彫刻を教えるようになっていった。

ワークショップで生徒に指導をする森島さん。パドルを掘るのに主に使用するのは”ドローナイフ” (ドロー、英語で引くの意味)。名前の通り、手前に引きつけるように掘る

もう一つ大切なこと 

森島さんの出身、岐阜県に伝わる伝統的漁法長良川鵜飼から、鵜をモチーフに制作したマスク(右上)、右下から時計回りに、ワタリガラスのマスク、鷲のマスク、鷹のマスク。 作:森島雄也

教えるということは、才能を発掘し、文化、伝統、技術を次世代に継承していく大事な役目を担っている。教えることからも、自分自身が学ぶことも多いと話してくれた。しかしそれら以外にも、もっと大切なことがあるという。

1870年代から1990年代にかけて、国によってファーストネーションへの同化政策が行なわれてきた。それによって多くの部族が言語、文化、芸術など、アイデンティティーを失いかけた。国が同化政策を廃止後、今では失いかけたアイデンティティーをみんなで取り返そうと、各部族で日々努力が行なわれている。

そんな中、若者のアルコールや薬物の問題があるのも、現代の問題点だ。もちろんごく一部の若者に限った話だ。高速化した現代社会と生まれ育った伝統文化の狭間で戸惑い、思春期の不安定な時期に生きる方向性を見出せずに、アルコールや薬物を持て余したエネルギーの捌け口にしてしまうのだろう。

彫刻を教えることで若者たちに興味を持ってもらい、夢中になれるものに出会って、健全な人生を送ってもらいたい。森島さんが所属する彫刻団体、ノーザン・カルチュアル・エクスプレッションズ・ソサイエティの理念の一つだそうだ。

人間と熊のマスク ”共に生きる” 。 作:森島雄也

純粋な彫刻への想い、人々との繋がり、若者への想いと一緒に、これからも彫刻と関わっていくだろう。

森島雄也フェイスブックページ 
https://www.facebook.com/yuyacarver

ノーザン・カルチュアル・エクスプレッションズ・ソサイエティー(NCES) ホームページ 
森島雄也プロフィール
https://www.northernculture.org/yuya-morishima

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