【SMALL TALK】Vol.5 「bonobos」蔡忠浩インタビュー
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    2016.09.26

    【SMALL TALK】Vol.5 「bonobos」蔡忠浩インタビュー

    b*p

    よっ、待ってました! 前作『HYPER FOLK』のリリースから約2年。5人体制になった新生「bonobos」(ボノボ)のニューアルバム『23区』が、9月21日にリリースされました。ボーカルの蔡(さい)さんに、新作の制作過程から新メンバーのこと、最近気になる旅先まで、根掘り葉掘りインタビューしてきました。

    新生「bonobos」のデビュー作
    ――まず、新作『23区』が完成までの経緯を教えてください。

    「もともと今作は『ULTRA』、『HYPER FOLK』に続く、3部作にしようと思っていたんです。ダンスミュージック的なバンドサウンドで、上物をオーケストラでより追求し、基本は40分ワントラックの作品にするつもりでした。でも、準備を進めるうちに、メンバーが増えたり、周りの環境が変わりまして。現状のバンドとして、新メンバーそれぞれの色が生きる楽曲をまとめた作品にしようと考えるようになって、そこから曲も新しく作り直しました。これは、”新しいメンバーでのデビューアルバム”という気持ちですね」

    ――メンバーが増えて、具体的にどのような部分に影響がありましたか?
    「今のメンバーは、フィジカルなんだけれどレコーディング芸術を経たソウルやジャズ、ヒップホップが好き。みんなパソコンで編集する感覚も取り込んだブラックミュージックが好き、というバックグラウンドがあって。そのあたりは、今作の音作りに影響してますね」

    ――ライブやレコーディングを通してメンバーそれぞれの役割も固まってきましたか?
    「梅(梅本浩亘・ドラム )と、森本(森本夏子・ベース )は、きっちりビートを出す役割。辻君(2015年に脱退)から梅にドラマーのタイプが変わったことで、やれる音楽のタイプも変わりましたね。で、祐司(田中祐司 ・キーボード)と、龍平(小池龍平・ギター )、僕の3人で上物を作っていくような進め方です。新メンバーといっても、それぞれサポートで手伝ってもらいはじめてから2年くらい経つので、レコーディングのときもフレーズで分け合ったり、バランスよくやっています。ライブでもそれぞれが出るとこで出て、抑えるところは抑えるバランスがすごく気持ちよくできてます」

    ――梅本さん、田中さん、小池さんの新メンバー3人が、サポートメンバーから正式にメンバーになることで、バンドへの関わり方は変わりましたか?
    「より積極的に関わってくれるようになって、アイデアがどんどん出てくるようになったかな。この数作は、デモ音源を僕がMacでほぼ100%作ってたんですけど、今回は半分くらいはスタジオでセッションしながら、みんなで揉んでいったものが多い。アレンジに関してもそう。『23区』なんかは、満遍なくみんなの意見が入った響きに仕上がったと思います。『グッドナイト』という曲もそうだし、『Cruisin’ Cruisin’』も、コード進行の整理だったり、展開の仕方にメンバーそれぞれのアイデアが反映されてますね」

    閉塞感・不寛容さに対抗できる音を

    ――今作は”都市”を感じさせる音ですね。
    「そうですね。『ULTRA』や『HYPER FOLK』のときは震災の影響もあって、未曾有宇の自然災害に対して1人のものを作る人間として負けないように、という意識を持って作っていたので、ああいうサウンドと世界観になりました。やっぱり、その時々の社会状勢や環境だったり、自分の周りで起きる出来事は作品に影響してきます。最近、東京に暮らして10年くらい経って、目に見えて景気が悪い感じがするし、閉塞感やマイノリティに対する寛容性のなさを感じることもあるし。いろいろな職業や人種が集まる日本の首都・東京ですら、普通に生きづらいし、発言したり、ものを作るのが難しい。そういうのはつまらないなと。今作では、そんな身近な物事に対抗できるような音作りを意識しました」

    ――歌詞の面ではいかがですか?
    「『ULTRA』は具体的な場所でなく、架空の都市を想定して書きました。当時、僕は星野道夫さんの本をよく読んでいて、その影響もあってアラスカへの憧れやイメージも混ざった架空の物語。『HYPER FOLK』はもう少し日本寄りです。震災以降に小名浜や被災地に行って、いろいろな人と知り合ったつながりのなかで、ようやく自分のなかに被災地で暮らす人たちのことが入ってきた。彼らに出会ったことで作れた音楽が『HYPER FOLK』。今作『23区』は、震災を経ての今の東京が舞台なんです」

    ――聞き終わったときに、この何作かよりも、もっとバンドっぽいといいますか、初期のボノボっぽい! って思うファンも多いかもしれないと感じたのですが…。
    「『ヘッドフォンマジック』を録っていた頃のワクワク感のような、みんなでやっている感は僕自身も感じていて、いますごく楽しい。ミックスが終わって冷静に聞いてみると、たしかに自分でもバンドらしさを感じます。これ、ちゃんとしてるというか、一人でやっていないぞって(笑)。デビュー当時のボノボのメンバーって、良くも悪くも、もっと熾烈な関係だったんですよ。

    それが、僕らも大人になって、お互いリスペクトする分量が増えてきた。意見はもちろん言い合いますよ。でも、まず基本は尊重し合うっていう大人なバランス。これまで「俺が全部やらなきゃ」ってずっと思っていたのが、最近は素直に任せられるようになりました。そしたら、いろいろなアイデアが出てくるのをすっと取り入れやすくなったんです。今は、レコーディングもライブもとにかく楽しい。こんな感じでずっとやりたいと思えるバンドの雰囲気なんです。

    ――このメンバーならいける! と感じた瞬間はありましたか?
    『THANK YOU FOR THE MUSIC』という僕らの代表曲があるんですけど、10年近くほとんどアレンジも変えずにやり続けて、新鮮な気持ちがなくなってきていた。みなさんが聴きたいのはわかっていつつ、しばらくフェスでもやっていなかったんですよ。でも、今の5人になって、ボノボのサウンドを共有するためのきっかけとして、あの曲をリアレンジしてみたらすごくよかった。なにが変わったわけではないけど、すごく今の気分にはまったサウンドになったんです。これだったら、また新しい気持ちでできるなと。これがまた一歩前進するというか、ひとつ大きな糸口になった。それを経て、アーバンソウルだったり、R&Bやヒップホップ的なサウンドだったり、このメンバーでやってみたい音楽がいろいろあるぞ、と視界が開けました」

    奈良の十津川村が気になります!
    ――アーバンなサウンドですが、レコーディングは北海道で行なったとか?
    「今回はメンバーが新しくなったこともあってきっちり録りたかったんですが、都内だとアルバム1本のレコーディングは大変なんです。そこで、以前、ライジングサンロックフェスティバルの帰りに見学に行った札幌のスタジオを思い出した。エンジニアも『THANK YOU FOR THE MUSIC』あたりを録ってもらっていた人に連絡して、久々に頼みました。前の2作は山梨にあるログハウスのようなすごくいい雰囲気のスタジオで録音したんです。昔、クラムボンもよく使っていた……」

    ――小淵沢のですか?
    「そうです。そうです。朝起きるとアルプスがバーンという制作環境としては、こもっている感じがなくてすごくいいんですけど、録音面でいうと風の音やや鳥の声が入ったりしてしまうんで、今回は諦めました」

    ――そういえば、蔡さんは以前、小淵沢の方で家を探していたんですよね。
    「レコーディングで通っていたころは、結構調べましたよ。内見も50軒くらいは行きました。別荘っぽいとこから、古民家っぽいとこまで、月に2~3回は行って、午前中から1日中見て回ったり。泊まりがけで行ったこともあったな」

    ――けっこう本気ですね…
    「一回、すごくいい物件があって、うわ、これやばい! と思っているうちに契約されちゃって。セルフビルドで建てるログハウスまで調べましたもん。材をプラモみたいに組み立てるやつ。カタログも取り寄せたりもしたんですけど……。でも、まだ諦めてないんですよ。今は保留中なんですが」

    ――最近のお休みは、なにをされているんですか?
    「ここ数年は、福島や宮城にちょいちょい行くようになって、小名浜の人たちとは結構仲良くなって。あのあたりは、温泉もあるし、魚や日本酒もうまいですね。旅はアクティブに体動かすというより、気持ちのいい温泉浸かって、お酒飲んでぐだーっとするのが好きかな。欲をいうと、宿からちょっと足を延ばすと里山があって、田んぼがあって、ヒグラシが鳴く中、夕暮れの畦道を歩いたりできたら最高ですね」

    ――それは育った心象風景だったりします?
    「3~4歳くらいまで東京で育って、そのあと大阪の茨木市ってところに移ったんですけど、そこは田んぼがあって、夏の夜になるとカエルの鳴き声がうるさいくらいだった。そろばん教室に通うときに、畦道を自転車で走った記憶とかがあるのかもなあ

    ――旅行に行くなら、やはりそういう土地がいいですか?
    「街より田舎の方が好みかもしれません。最近行ったところだと、小豆島がすごくよかったです。気になっているのは、奈良県の橿原神宮とか、十津川村。宇宙とつながっているとか話題になったとこで、バスの本数も少ない不便なとこらしいんですけど、ぜひ行ってみたい。イノシシの肉とかもウマイらしいんですよ」

    ――なるほど~、タイミングが合えば、ぜひ『b*p』の取材でも旅に行っていただきたいです! では、最後に「最近よく聴いている音楽」を1枚紹介してください。
    「最近の音源ではないのですが、ディアンジェロの『Voodoo』は何度聴いても発見があります。これは、いつ聴いてもすごい。今回もスタジオでリハをやっているときに、よく話しに出ました。とくに祐司がすごく好きで、あの曲のあのドラムはこうなっているんだって、よく梅と話してましたね。新作にも、要素的にわりと影響があるかもしれません。一回コンピューターで音を作って以降のリズムの組み方って、今すごく新しいんですよ」

    ■bonobos(ボノボ)|プロフィール

    bonobos,ボノボ

    2001年大阪で結成。1975年生まれの蔡忠浩(さい・ちゅんほ)を中心とするライブバンド。2015年、以前からサポートとしてbonobosを支えてきたkey.田中佑司・Gt.小池龍平、昔からbonobosと親交のあった現FABULOUS VIBRATIONS 元スカポンタスの梅本浩亘が正式メンバーとして加入。2008年以来となる5人でのbonobosとして活動開始。

    23_photo

    ■bonobos『23区』

    2016.9.21 Release
    PCD-18818
    ¥2,730+tax
    P-VINE

    10月からのツアーに先駆けてリリースされた新作アルバム。5人体制になった新生bonobosが生み出す、東京発のフォークミュージック×ブラックミュージック。柳智之氏(蔡さんの飲み仲間!)が担当したジャケットイラストにも注目!

    ◎インタビュー・文=池田 圭

    »【SMALL TALK】Vol.1 「Yogee New Waves」角舘健悟インタビューはこちら! 

    »【SMALL TALK】Vol.2 王舟インタビューはこちら!

    »【SMALL TALK】Vol.3 蓮沼執太インタビューはこちら!

    »【SMALL TALK】Vol.4 「Homecomings」畳野彩加インタビューはこちら!

     

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