「行動食や食事を変える」「行動時間を見直す」「歩き方を見直す」「ウェアを保温性のあるものに」など、秋山を安全に楽しむための準備を、記者の経験を元にご紹介します。
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夏とは違う魅力が詰まった秋山

濃淡ある緑が山を埋め尽くし、動植物の息遣いが山の意思と感じるほど、生命力に溢れた夏山。そこから一転した秋山最大の魅力は、なんといっても山肌を彩る紅葉と、どこまでも澄み渡る大気です。
初秋から晩秋にかけて、標高の高い山頂から麓へと時間をかけて降りてくる紅葉は、登山中だけでなく山容を眺めているだけでも楽しい時間です。また、夏に比べて空気が乾燥して澄み渡るため、遠くの山並みまでクリアに見渡せる視界の良さは、筆者が秋山に期待する要素の一つ。さらに湿度が低く汗冷えしにくい爽快な空気感は、猛暑では足が遠のきがちな低山エリアに足を運びたくなります。
夏を彩った植物が実を結んだフィールドでは動植物の気配を身近に感じられるようになり、その痕跡を見るごとに心躍ります。夏とは異なる静けさを取り戻したフィールドで、ゆったりと自然と対峙できるのも秋山ならではの魅力です。
夏山と秋山の違い
気温が下がる

夏山と秋山の気候変化を感じやすい最たるものは、急激な気温低下と寒暖差です。一般的に標高が100m上がるごとに気温は約0.6℃下がるため、例えば標高2,000mの稜線では、麓が20℃の快適な気候であっても山頂は8℃前後まで下がります。さら風の影響が加わると、風速10m/sの風が吹けば体感温度は氷点下に達します。
夏山なら「涼しい!」と感じていた風が、時には身の危険を感じる寒さとなるものに変わるのは、秋山ならではといえます。また、日中は日差しがあれば汗ばむ陽気であっても、太陽が雲に隠れたり朝晩の時間帯になったりすれば一気に冷え込みます。夏山の感覚で薄手のウェアしか持たずに登ると、汗冷えや強風によって急激に体温を奪われ、低体温症に陥るリスクが高くなります。
日没が早まる
夏至を過ぎて秋に入ると、日没時刻は急速に早まります。「夏は18時過ぎでもまだ明るかったから大丈夫」という感覚で行動していると、あっという間に日没を迎えます。山間部では周囲の山影に入るため「えっもうこんなに暗いの?」と焦ることも珍しくありません。樹林帯に入ればさらに暗くなるのが早く、足元が見えにくくなって転倒や道迷いのリスクが上がります。
秋山は、行動可能な時間そのものが夏より大幅に短いという前提を持つのが大切です。
堆積物が積もり遭難リスクが高まる
秋の登山道には、大量の落ち葉や枯れ枝、どんぐりなどの木の実が堆積します。これが登山者にとって大きなトラップとなります。
ルート不明瞭(道迷い)
登山道が分厚い落ち葉で完全に覆い隠されると踏み跡が見えなくなり、分岐や正規ルートを見失いやすくなります。特に広葉樹林の斜面や尾根の分岐ではルートロスが起きやすく、夏山では見えていたはずの道が、まるではじめから無かったかのような景色に変わります。また、乾燥した落ち葉は滑りやすく、朝露や霜、前日の雨を含んだ濡れ落ち葉はさらに滑りやすくなり、グリップ力を持った登山靴でもスルンと滑ってしまいます。
そして、落ち葉の下に隠れた木の根や浮き石・路肩の崩落などの段差に気づかず足を取られ、足首の捻挫や骨折、最悪の場合は斜面への滑落につながります。雪が降っていないから夏山と秋山の違いは少ないと思わず、落ち葉がある区間は注意して通行することが必要です。
秋山の知識と準備
ウェアを保温性のあるものに

秋山を安全に楽しむためにまず用意しておきたいのが、保温性のあるウェアです。夏山では薄手のソフトシェルで気温の低い朝や晩、高所などに対応できましたが氷点下に迫るほど気温が下がり、かつ気温変化が大きい秋山では、保温性のあるウェアはマストアイテムです。
行動用の薄手のソフトシェル・休憩や宿泊用の厚手のダウンや化繊ウェア・グローブやキャップなども起毛素材を使うなど、時間や標高などに合わせた適切な選択が大切です。秋山の山頂や日没に近づいたときなど、凍えるような寒さに襲われることが何度かありますが、暖かいアウターを着るだけで心身の緊張が解け、冷静な判断力を取り戻したりゆっくり休息をとることができます。
行動時間を見直す
秋山では、夏山以上に、登山において大切な早出早着を心がけることが必要です。とにかく日没が早くなるので、夏の感覚から1〜2時間前倒しして、日没のかなり前に登山口や山小屋に到着するスケジュールを組んでみるとよいです。
想定以上に休憩を取ったり有事の際の対応に時間を取ってしまうと、早まった日没に焦って正しい判断力を失うことにつながります。このため、夏山よりも余裕を持ったコースタイム設定を行えば安心です。日帰りだから大丈夫と思わずヘッドライトは必ず携行しましょう。スマートフォンのライトで済ますのは厳禁です。夜間でも十分な光を得られ、行動しやすいヘッドライトが最悪の状況を切り抜けるアイテムになります。
行動食や食事を変える

気温が下がると、身体は体温を維持するために多くのエネルギーを消費します。夏山では大量の発汗があるため、水分や汗と同時に失われる塩分などを補給することが大切でしたが、ナッツ類・ドライフルーツ・羊羹・エネルギージェルなど、冷えても硬くなりにくく、少量で高カロリーを素早く摂取できるものがおすすめです。また、体を内部から温めるお湯を携行できる保温ボトルがあれば、火を使わずに温かいスープや紅茶、コーヒーなどを作ることができます。
温かい食事は体の回復だけでなく疲れた心に安らぎを与えてくれます。
歩き方を見直す
落ち葉や霜で滑りやすい秋の登山道では、足裏全体を使った安定感のある歩行技術が求められます。つま先やかかとだけで接地すると落ち葉ごと滑り落ちる危険があるので足裏全体を着地させたり、滑っても怪我のリスクを減らし、安全に歩行できるよう歩幅を短くしたりするのも有効です。こうした歩行をするにあたり、落ち葉の積もり具合を観察したり吹き溜まりや段差が隠れていそうな箇所を避けて足を置いたりと、フィールドをよく観察しておくのも大切です。
足元の不意なスリップを支えるために、トレッキングポールを活用するとバランス保持に役立ちます。
秋山を安全に思う存分楽しもう

秋山は澄んだ眺望に恵まれ、紅葉などの秋特有の世界を楽しむことができるシーズンです。夏から秋への季節の移り変わりは街と比べて早く、気温低下や風による体感・日没の早まりや堆積物によるルートロストなど、視覚的な変化もあります。しっかりと装備を整え知識を得て、秋山の美しい世界へ出かけましょう。




