ワシントンD.C.近郊にあるワイルドな岩場「ビリーゴート・トレイル」で満喫するロックハイク | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

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2026.06.29

ワシントンD.C.近郊にあるワイルドな岩場「ビリーゴート・トレイル」で満喫するロックハイク

ワシントンD.C.近郊にあるワイルドな岩場「ビリーゴート・トレイル」で満喫するロックハイク
アメリカの首都ワシントンD.C.から車でわずか20分。そこにはロープも鎖もない“天然アスレチック”が待っていました。

若者や観光客で賑わうジョージタウンを後にし、ポトマック川沿いを走ると、街の気配は次第に薄れ、景色は豊かな自然へと変わっていきます。やがて現れるのが、巨大な岩場が連続するビリーゴート・トレイル(Billy Goat Trail)です。

トレイルに入ると、そこには激流のポトマック川に沿って巨大な岩が連なり、手足を使ってよじ登るような道が続いていました。ビリーゴート・トレイル——「雄ヤギの道」と呼ばれる理由を、歩きながら実感することになります。

都市から20分、自然が急に牙をむく場所へ

6月の第一土曜日の朝7時過ぎ。ジョージタウンからポトマック川沿いを車で走り、メリーランド州側へ入ると、やがてビリーゴート・トレイルに近い駐車場に到着しました。週末ではありましたが、早朝のためか駐車場はまだ空きが目立っていました。妻とハイキングの準備を整え、歩き始めます。

駐車場から小さな橋を渡ると、いきなり「クマの島(Bear Island)」と呼ばれる細長い中州に入ります。この島の名前は、かつてこの地域に黒クマが多く生息していたことに由来すると言われています。

クマの島を抜けて、川音が変わる瞬間

まずは平坦な砂利道を南へ進みます。左手には静かに流れるチェサピーク・オハイオ運河、右手には草木の間からポトマック川が姿をのぞかせていました。

運河とポトマック川に挟まれた、砂利道のトレイルを進む。

歩いて10分ほどで、「グレートフォールズ展望台(Great Falls Overlook)」と書かれた看板が現れました。看板の奥へと進むと、次第に低く響く轟音が聞こえてきます。

「クマの島」と隣の島を結ぶ橋まで来ると、その正体がはっきりしました。ポトマック川の激流です。

岩を噛み砕くように流れ落ちる水の音は想像以上に激しく、すぐそばに首都があるとは思えないほどの迫力でした。

迫力満点のグレートフォールズ。

「クマの島」のトレイルに戻り、再び平坦な道を南へ進みます。途中、ジョギングやサイクリングを楽しむ人々と何度もすれ違いました。気軽に挨拶を交わしていくその様子は、ごく自然な日常の風景です。この道は、彼らにとっては日々のルーティンコースなのだと思います。しかし我々にとっては、すぐそばにワイルドな岩場が控えていることを知っている分、同じ景色が少し違って見えていました。

「グレートフォールズ展望台」からさらに10分ほど運河沿いを歩くと、「ビリーゴートAトレイル(Billy Goat A Trail)」と書かれた看板が現れます。ここがビリーゴート・トレイルの入り口です。

ここから始まるビリーゴートAトレイル。

このトレイルは難易度に応じてA・B・Cの3つのセクションに分かれており、その中でもAが最も難易度が高い上級者ルートです。今回、我々はそのAトレイルに挑みました。

岩と岩の間を進む“ヤギの道”へ

いざAトレイルに入ると、景色は一変しました。大小の岩が折り重なる岩場が続きます。山ではないのに登りと下りが何度も繰り返され、巨岩の間を両手両足を使って登ったり下ったりしながら進みます。時にはヤギのように巨岩から巨岩へと飛び石のように足を運ばなければなりません。

岩場だらけの道を登る筆者。
巨岩の間を進む筆者。

対岸で起きた想定外のコミュニケーション

しばらく進むと道が開け、ポトマック川沿いの巨大な岩盤に出ました。平らな岩が川の上へせり出し、まるで天然のテラスのようです。この場所は、ハイカーたちの間で「ザ・ルーフトップ(The Rooftop)」と呼ばれています。

対岸に見えるバージニア州の断崖をしばし眺めます。絶景を堪能していると、突然叫び声が聞こえました。

よく聞いてみると、「ザ・ルーフトップ」にいたハイカーが、遠くの対岸のバージニア州側の崖の上にいるハイカーに向かって、数字を大声で叫んでいました。

話を聞くと、バージニア州側のハイカーが対岸から撮影した「ザ・ルーフトップ」とそこにいたハイカーの写真が驚くほどきれいに写っていたそうです。「欲しければ送るから電話番号を教えて」と呼びかけ、それに応じて携帯電話番号を叫んでいたのでした。

州境を流れるポトマック川を挟みながらの“電話番号交換”です。なんとも豪快なやり取りに思わず笑ってしまいました。

ザ・ルーフトップで、大声のやり取りを見守る筆者。

立ちはだかる「50フィートの岩壁」

トレイルに戻ります。岩場を下りきると川辺に出ました。すると目の前に大きな岩壁が立ちはだかります。ビリーゴート・トレイル最大の難所として知られる通称「50フィートの岩壁(約15メートル)」です。

近づくにつれ、その岩壁はますます大きく見えてきました。見上げると、滑り台のように傾斜した部分もあれば、ほぼ垂直に見える場所もあり、「本当にここを登るのか」と思わず立ち止まってしまいました。

我々の前を歩いていたグループの一人は、岩壁を見上げたまま、「無理。できない」とその場に立ち尽くしました。しかし仲間たちは「ゆっくり、自分のペースで登ればいい」と励ましていました。

私も最初の一歩をどこに置けばよいのか分からず、しばらく岩肌を見上げていました。しかし目を凝らすと、手をかけられそうなくぼみや足場が見えてきます。我々も焦らず、一歩ずつ登っていきました。

登りきった瞬間、周囲のハイカーたちからも自然と笑顔がこぼれます。まだトレイルの途中にもかかわらず、一つの山を登り終えたような達成感がありました。

立ち尽くす仲間を鼓舞しながら登るハイカー。
一歩ずつ登っていく筆者。
途中で見上げて傾斜を確認する筆者。

川辺に広がる“パープルホース・ビーチ”

ひと息つく間もなく、今度は岩場を下るルートへと変わりました。

岩壁を慎重に下る筆者。

その先で川辺へと出ました。「パープルホース・ビーチ(Purplehorse Beach)」と呼ばれる場所です。巨大な岩が転がる独特の景観が広がっています。

岩が転がる独特の景観が広がるパープルホース・ビーチ。

ビーチといっても遊泳は禁止。一見穏やかに見える川面の下では、激しい流れが渦巻いています。

ふと足元を見ると、無数の白い貝殻が散らばっていました。

ポトマック川に残された貝殻

海から遠く離れたポトマック川の岸辺に、なぜ貝殻があるのでしょうか。後から調べると、これらは海の貝ではなく、ポトマック川に生息する淡水二枚貝の殻でした。

巨岩だらけの荒々しい景観の中に現れた意外な光景に、思わず足を止めてしまいました。

青い印を探して——迷い込む岩の迷宮

「パープルホース・ビーチ」を後にしてしばらく進むと、何と道に迷ってしまいました。

ビリーゴート・トレイルには、「ブルー・ブレイズ(Blue Blazes)」と呼ばれる青い目印が木や岩に描かれており、ハイカーはそれを頼りに進みます。しかし、歩いているうちに、その印をしばらく見かけていないことに気付きました。

前を歩いていた2人組に尋ねると、彼らも見ていないと言います。少し引き返していると、今度は6人ほどのグループが戻ってきました。どうやら同じように道を外れたようです。

青い目印が見えなくなる。

気付けば10人近いハイカーが同じ場所で立ち往生していました。

幸いスマートフォンの電波が入ったため、妻がアプリで現在地を確認すると、やはりルートを外れていました。そこで皆で引き返し、あらためて目印を探します。

しばらくすると、ようやく「ブルー・ブレイズ」を発見。さらに周囲を注意深く探すと、それまで気付かなかったルート上に次の目印も見つかりました。

ようやく全員が胸をなで下ろします。雨風の影響で、目印が薄くなっていたのかもしれません。

岩の回廊とカヤックが交差する静かな時間

気を取り直して、トレイルをさらに進みます。岩場を登ると視界が開け、再びポトマック川沿いに出ました。

両岸には大小さまざまな岩が連なり、川そのものが岩の回廊の中を流れているように見えます。

我々は川岸から少し離れた巨岩の上に腰を下ろし、休憩することにしました。川の中央にある岩の上では、ミミヒメウが羽を休めていました。川岸の岩場ではハイカーたちが思い思いにくつろいでいました。

しばらく景色を眺めていると、今度はカヤックで川を下る人々の姿も見えてきます。鳥も人も、それぞれの時間を過ごしていました。

岩の上にとまるミミヒメウ。
川と岩の上で、それぞれの時間を過ごす人々。

この日は曇り空で気温はそれほど高くありませんでしたが、無風で湿気もあり、思った以上に体力を奪われました。十分に休憩をとったあと、再び歩き始めます。

岩場サバイバルの果てに戻る日常の風景

「クマの島」の西側にあたるポトマック川沿いから、東側のチェサピーク・オハイオ運河へと向かいます。

30分ほど歩くと、「ビリーゴートAトレイル」の出口に到着しました。岩場の連続する上級者ルートを、ようやく踏破した瞬間でした。

ビリーゴートAトレイルの出口。

ここからは復路です。平坦な砂利道をひたすら北へ戻ります。

チェサピーク・オハイオ運河が往路とは反対側に広がり、行きよりも水面が開けて見えました。ポトマック川の流れは、木々の向こうにかすかに感じられる程度です。

運河沿いでは散歩を楽しむ人々の姿も見られました。水辺の風景は穏やかで、トレイルの険しさとは対照的です。

運河沿いを散歩する人々。

しばらく歩くと、水面に突き出すように特徴的な岩が現れます。

妻が「カメのように見える」と言ったその岩は、実際に「タートル・ロック(Turtle Rock)」と呼ばれている場所でした。運河沿いでは、カメの姿も何度も見かけました。

タートル・ロック(カメのように見える岩)。
運河沿いにいたカメ。

駐車場に戻ると広がっていた、もうひとつの風景

そして、出発からおよそ4時間後、ついに駐車場に戻ってきました。歩行距離は4.8マイル(約7.7キロ)。朝は閑散としていた駐車場は、大きく表情を変えていました。

ハイキングやサイクリングを楽しむ人々であふれ、地元のミュージシャンが演奏を響かせ、レンジャーがトレイルの説明を行っています。

トレイルの終わりに響く演奏。
朝と違いにぎわう駐車場周辺。

6月の第一土曜日は、偶然にも「全米トレイルの日(National Trails Day)」でした。アメリカで、トレイルの恩恵に感謝し、アウトドアを楽しむことが推奨される日です。

首都の日常圏にあるトレイルを歩くつもりが、待っていたのは想像以上に荒々しい自然でした。

激流が削った巨岩帯、足元に散らばる貝殻、そして絶えず響く川音。「雄ヤギの道」と呼ばれる理由を、歩きながら何度も実感する一日となりました。

Billy Goat Trail
https://www.nps.gov/choh/planyourvisit/billy-goat-trail.htm

著者画像

阿部貴晃さん

アメリカ在住ジャーナリスト

日系メディアのワシントン支局で20年以上、国際関係の報道に携わる。2025年4月より、ワシントンD.C.を拠点とするフリージャーナリストに。米政治・社会・文化、日米関係に加え、現地の都市や暮らしについても幅広く執筆。ハイキング歴は、グランドキャニオン国立公園、アイスランド、コスタリカ、ラトビアなど。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

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