今も手に入るけれど、技術や素材の進化とともにちょっぴり影を潜めています。
そんなレトロなギアを紹介する連載。今回は、Esbit(エスビット)の固形燃料タブレットとポケットストーブです。
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1936年頃、ドイツの発明が戦場とフィールドを変えた

Esbitは1933年、ドイツのエーリヒ・シュムがシュトゥットガルトで創業した会社から始まります。1936年に開発した固形燃料に「Erich Schumm Brennstoff in Tablettenform(錠剤の形をしたエーリヒ・シュムの燃料)」の頭文字から「Esbit」と名付けられました。
煙が少なく、燃えながら液状にならず、灰も出ない。この当時は革命的な燃焼特性が、第二次世界大戦中にドイツ軍をはじめ各国軍に採用される理由になりました。
戦後もドイツ連邦軍が採用を続け、1970年代にバックパッキングブームが到来すると、ウルトラライトの観点からアウトドア愛好家に再発見されます。ストーブと燃料を合わせても100g以下というシステムは、今も色あせていません。
ドイツ製+軍モノ…その響きだけで引かれた

子どものころ、古着が好きだった僕には「ドイツ軍」という言葉には不思議な引力がありました。機能的で、無駄がなく、どこかストイックで力強い。Esbitのポケットストーブを初めて見たとき、それがそのまま形になったような気がしました。
折りたたまれた箱型のスチール製ストーブのセット。広げると固形燃料をセットできる五徳になる。燃料はタブレット状で、箱ごとストーブの中に収納できる構造。この機能美が、なんとも言えない無骨感を生んでいます。

派手さは一切ない。でも、目的と形がフィットしたときだけ生まれる格好よさがあると思いませんか?軍モノの引力の正体は、それだと思います。
箱型という設計が、もう答えのようなもの

ポケットストーブが箱型をしているのには理由があります。折りたたんだとき、固形燃料のパッケージをそのまま内側に収納できる。ストーブと燃料が一体になって持ち運べる。かつ、収納性に優れた形状。この発想が、1936年からほぼ変わっていない。
広げるのは簡単です。蝶番のように折りたたまれたストーブをパカッと開いて、タブレットをセットして着火するだけ。大きな鍋は乗りません。この火力では、むしろ乗せても意味がまったくない。だから自ずと小型のコッフェルやシェラカップを使うことになる。
その効果で、飲食がコンパクトになり、行動もシンプルになる。なんだか自分まで身軽になった気にさせてくれる。それが、Esbitと過ごす時間の本質かもしれません。

もしもの時は、細い枝をくべて超小型の焚火台のように使うこともできます。固形燃料がなくなっても、ストーブとしての機能は失わない。箱型の五徳は、そういう用途の転換も受け入れてくれます。
燃焼時の独特の香りが、サバイバル感を高めてくれる

固形燃料に火がつくと、独特の香りがします。特殊燃料が燃焼するときの、あの少し薬品めいた匂い。サバイバル環境にいるわけでもないのに、その香りを嗅ぐと体がそっち側のモードに入る気がします。

炎の青白い色を見る。燃える音を聞く。あの独特の匂いを嗅ぐ。クッカーが温まってくる感触を手に感じる。そして、時間をかけて沸いたお湯で作ったものを口に入れる。その全部を、このちっちゃなセットが担っています。
五感でキャンプを楽しむ。Esbitの場合、それが文字通り体現できる気がします。
シングルバーナーより遅いし弱い。…その時間がいい。

正直にいって、火力は弱い。しかも風があるとさらに弱い…。シングルバーナーと比べたら、お湯が沸くまでに倍以上の時間がかかることは当たり前。今の自分がこれだけで暮らすとなったら、きっとストレスを感じます。
それでもEsbitを手放せないのは、「これでなんとかする」というプリミティブな感覚があるから。青白い炎がゆっくり燃える。コッフェルがじわじわ温まっていく。その待ち時間が、現代のキャンプギアには出せない緊張感とロマンを運んでくれます。風を気にしながらゆっくりを沸騰を待つ時間は、いうならば「Esbit時間」といえるかもしれません。
ちなみに固形燃料は、多少の雨でもしっかり着火します。湿った環境で焚き火をするときの着火材としても便利。実は、なかなかの実力者です。
初めて使ったときの感動を再現できる「体験装置」

子どものころ、Esbitのセットに強烈に憧れていました。ドイツ軍のサバイバルキットのようなその佇まい。手に入れて初めて使ったとき、小さな炎の上でコッフェルがじわじわと温まっていく様子を、ずっと眺めていたのを覚えています。
Esbitは、ギアというよりも特別な「体験装置」です。火をつけてお湯を待つだけで、なぜかあの子どものころの、あの火器を操っている感動が戻ってくる。それだけで、持っている意味があると思っています。
みなさんもチャンスがあれば是非使ってみてください!





