それが、首都ワシントンD.C.の中心部に南北に縦断する国立公園ロッククリークパークなのです。単なる都市公園ではありません。そこは一歩踏み入れると、想像できなかった原生林と野性味あふれる世界が広がっています。
都市のすぐ隣で味わう原生林トレイルの小さな冒険と静寂
首都の中心に広がる原生林
ロッククリークパークはおよそ7.1平方キロメートルの広さ。国立動物園なども含む広大なエリアで、ニューヨークのセントラルパークの2倍以上、代々木公園のおよそ13倍あります。
私は、首都圏に25年以上住んでいますが、このエリアを利用してアウトドアのアクティビティをしたことがありませんでした。ジョギングやサイクリング以外にもハイキングができるので、今回、首都の中心部に広がる原生林トレイルをハイキングすることにしました。

多彩なトレイル、自由に選べるコース
ホワイトハウスから車で北上しおよそ15分で住宅街の一角に、ロッククリークパークのトレイルにつながる道に到着します。
今回のハイキングは、そこを起点・終点に決めました。ロッククリークパーク内には、初心者向けの散歩道から中上級者向けの岩場トレイルまで多彩なルートが揃い、トレイルは縦横無尽に広がっているので、自分で好きなようにコースと長さを決めることができます。
今回は、ロッククリークパークのトレイルに初挑戦ということで、初級者と中級者向けトレイルを組み合わせて、ピストンコースにならない往復の1周ルートを事前に決めていました。

そして、いざ出発。まずは、初級者コースで小川沿いの舗装道路を北上して進みます。3月末の週末の午後で、気温は15℃ほどでしたが、快晴の青空が広がる絶好のアウトドア日和でした。
サイクリングやジョギング、散歩をする地元住民の姿を多く見かけ、やっと訪れた春の気候を満喫しているようでした。自分も彼らに触発され「季節の変わり目を感じながら歩く」ことを満喫していたら、突如、現れたのが、森への入り口でした。
森への入り口で感じるワクワク感
アスファルト舗装がなくなり目の前にあらわれた土だらけの上り坂は、ロッククリークパークが単なる都市公園ではなく、都会の中にある森である証しでした。ここからが中級者コースです。
正直に言うと、ここで一度立ち止まりました。
「思っていたのと違う」ではなく、「思っていた以上に森すぎる」からでした。
同時に、これから別世界へ飛び込むという心の高まりも感じていました。

いざ森に入ると、アメリカの首都という都会の中心にいることを忘れてしまうほどの自然が広がっていました。心地よい太陽の光が樹木の間から差し込み、道なき道を登る私を優しく照らします。
まだ木々が生い茂っておらず影ができていなかったため、思いのほか自然の温かさを感じました。
前々日に降った雨の影響もなく、地面は乾いていて、歩きやすいコンディション。
岩を越え、ひたすら登る間に聞こえてきたのは、自分の足音と小川のせせらぎだけ。
人影はほとんどなく、都会の喧騒から遮断された森の奥へと進むワクワク感に包まれました。

しばらく進むと下り坂になり、舗装道路に出て、ピクニックエリアに到着しました。
森の中で出会う春の彩り
そこで満開に咲く桜の木を見つけました。ワシントンD.C.の桜というと、ポトマック川沿いに並ぶおよそ3000本の桜のイメージがあると思いますが、この街では、あちらこちらで桜の木を見かけます。ですが、森の中で出会う満開の桜は、観光地で見るそれとはまったく違う表情でした。

桜の近くの木の下にはコマツグミがいました。アメリカではロビンと呼ばれている渡り鳥で、ミミズを探していました。春の到来を告げる小鳥で、森に春を感じさせました。

歩みを進めるたびに、小さな発見が増えていきます。小川では亀や鴨が姿を見せていました。小川沿いには、ブルーシートを敷いて、のんびりしている人々もいました。わずかな音量で音楽をかけているグループもいました。聞こえてきたのは、神秘的で癒しの音色だと言われているハンドパン。さまざまな癒しに出会いました。
舗装道路と森のトレイルの交互体験
さらに進むと、今度は再び森への入り口が現れました。再び登り坂です。舗装道路と森のトレイルを交互に歩き、首都に残る都市と自然の絶妙な距離感を感じました。

下り坂になり、そのまま進むとボルダー橋(Boulder Bridge)に到着しました。石造りの風情あるアーチ型の橋で、ワシントンD.C.で最も古い橋の1つです。

ここが今回のハイキングの折り返し地点です。ここからは、ボルダー橋を渡り、往路ルートの対岸を南下する復路ルートです。このルートはひたすら森が続きました。トレイルを登って下っての繰り返しです。
森の奥で見つけた“天然の輝き”
森の中を進んでいると、今度は足元に変化が現れました。地面にキラキラと輝く石が目に入りました。天然の雲母です。アメリカではマイカ(Mica)と呼ばれます。雲母を見つけた瞬間、思わずしゃがんで手に取りました。普通にトレイルに落ちている天然の雲母に、驚きとワクワクが同時に押し寄せました。

さらに森を奥へと進むと、わかりにくい分かれ道や道なき道がいくつもあり、原生林を歩いている実感が増してきました。「本当にここが首都の中心部なのか」と、何度も立ち止まって確認したくなるほどでした。

一瞬ルートを見失いかけ、このまま進んで大丈夫か不安になりました。思わず、スマホで位置を確認しました。
文明の残響と野鳥のさえずり
途中、ハイキングをしている人に声をかけられました。地面に落ちていたスマホを拾ったので、見かけた人にスマホを落としたかどうか聞いているとのことでした。自分のスマホがあるのを確認し、自分のではないことを伝えると、その方は、拾ったスマホを持ちながらハイキングを続け、持ち主から電話がかかってくるのを待つことにしたそうです。
自分のスマホを見てみると、電波は良好でした。自然の中にいながら、電波はしっかり届く。完全に文明を離れることはない。それもまた、この森の特徴でした。
その後、しばらく歩いていると、小鳥のさえずりが聞こえてきました。耳をすますと、近くにいるようでした。木々の間を見て探していたら、オスのカージナル(Cardinal)がいました。赤い羽が特徴的な北米の小鳥で、森の中でもひときわ目立っていました。

首都の裏側に広がる静寂の世界
森の出口を出て、舗装道路を少し進むと、自分で決めた終点に到着しました。全ルートおよそ6キロのハイキングは2時間半。終わってみるとあっという間でした。
ロッククリークパークのトレイルに初めて挑戦するなら、舗装道路+森トレイルを組み合わせた周回ルートがおすすめです。都会と森を行き来する“プチ冒険”を無理なく体験できます。
ロッククリークパークは、多くのアメリカの大統領が歩いた場所としても知られています。彼らは何を思い、この道を歩いていたのか――そんな想像も膨らみます。

実際に歩くまでは、ここは都会のオアシスのような公園だと思っていました。ですが一歩踏み込めば、そこに広がっていたのは“原生林のトレイル”。発見の連続でした。
次にワシントンD.C.を訪れるなら、観光地ではなく、この森に入ってみてください。そこには、“首都の裏側”とも言える野生の風景が広がっています。





