子を守る母グマの気配が背後に! | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

海外の旅

2019.04.12

子を守る母グマの気配が背後に!

その年に生まれた子グマをスプリングカブと呼ぶ。スプリングカブくらい小さいと、直径10センチほどの木でも登っていくことができる。母グマの合図があるまで樹上で待っている。

電柵で囲まれたキャンプ場

カトマイ国立公園の中にあるブルックス滝の周辺には、ロッジとキャンプ場があり、ロッジの方は思わず”Wao!”といってしまうような金額なので、私はキャンプ場に泊まっていた。2~30張りは張れそうなキャンプ場は全域が電柵で囲まれていた。そのすぐそばをクマが通ることがあるが、電柵と多人数でいる安心感から、数メートル先をクマが通っても怖がるような人は誰もいない。ただ、守られているだけに、一歩電柵の外に出ると皆少し緊張した面持ちになり、様々な国から来た人がいるのだが、”一緒に歩こうぜ”という一体感が生まれる。

また、電柵の中ではキャンプ場の外では見ることが難しいレミングなどの小動物も簡単に見ることができる。我々が調理した残り物を拾って食べているのだが、我々のイメージするネズミ、という枠にはまらないほどカワイイ。

どう見ても”カワイイ”にジャンル分けされるであろうレミング。目が合うとキュンとしてしまう。余談だが、レミングは集団自殺することで知られているが、その事実はないので注意されたい。

多彩な命の気配を感じる森の中

キャンプ場をでると狭いトレイルが続いており、そこを行けば観光客やレンジャーがたくさんいるエリアにつく。しかしトレイルをはずれると、湿ってうす暗い森が広がっている。森の中には当然道はないのだが、ヤブこきをしたり、動物の歩いた後をたどればなんとか歩いていくことができる。森の中は驚くほど静かで、生き物の気配はほとんどしない。しかし良く観察したり、しばらくじっとしていると様々な気配を感じるようになる。さっきは気づかなかったビーバーのかじった木の跡があったり、樹上からバルドイーグルが見ていたり、足元から木の芽がこれでもかというくらい空に向かって伸びていたり、”命の気配”のようなものに気づけるようになる。

ビーバーがかじった木の跡。真似して噛んでみたが、前歯を痛めたうえ、詰め物が取れそうになってやめた。

何かに見られているような、、と思いあちこち見渡すと、樹上から睨むようにこちらを見ているハクトウワシの幼鳥を見つけた。

これはトレーニングになるし、都会で忙しく過ごしている人たちに届くメッセージの一片がありそうだ、と思い、それから数日の間、森にこもった。

数日後森歩きに慣れた頃、行動範囲を広げようと、クマのいそうなエリアまで森を経由して向かった。そして数時間後、樹上でガサガサと音がした。大きいな、クマだな、そう思って見渡すと、わずかな枝の隙間から子グマが見てとれた。おお、と小さく呟いてファインダーをのぞいた。いや待てよ、そばに母グマがいるはずだ、まずその位置を確認してから、と思い直し周辺を確認しようとしたとき、すぐそばで”フッ!”と強い鼻息が聞こえた。例えるなら、全く消えてくれないろうそく、それを消そうと力を込めて吐く息。その10倍は鋭い音だった。私の数メートル後方で、数百キロはあるであろう母グマが、私を訝しんで見にきていたのだ。

その母グマは、カトマイにいる多くのクマの例にもれず人馴れしているらしく、慌てるそぶりはまったくなく、私に一瞥をくれて森の奥へと消えて行った。私は、数百キロはあるであろうその非日常的な存在感にただただ圧倒され、カメラもクマスプレーも構えることすらできなかった。

プロフィール
佐藤大史

東京都町田市出身。長野県安曇野市在住。日本大学芸術学部写真学科卒業。卒業後、写真家白川義員の助手を務め、2013年独立。
「地球を感じてもらう」ことをコンセプトに、アラスカなどの手つかずの大自然と、そこに生きる生き物たちを撮影している。
10月12日〜20日まで、安曇野市豊科近代美術館で写真展を開催予定。大迫力の極大プリントで展示予定。

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