肌で感じたライフガードのありがたさ。アメリカで行われている「ジュニア用プログラム」とは? | サバイバル・防災 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

サバイバル・防災

2025.09.23

肌で感じたライフガードのありがたさ。アメリカで行われている「ジュニア用プログラム」とは?

肌で感じたライフガードのありがたさ。アメリカで行われている「ジュニア用プログラム」とは?
2025年7月24日、カリフォルニア州ニューポート・ビーチで恒例の「Monster Mile(モンスター・マイル)」というイベントが行われました。ビーチの砂浜を波打ち際に沿って1マイル(約1.6㎞)走り、そこから海に入り、逆方向に1マイル泳いでスタート地点に戻るというレースです。

とてもシンプルながら、随分と過酷な設定です。モンスターの呼称は大げさではありません。なにしろ、砂の上を裸足で走ることに加えて、オリンピックサイズのトライアスロン(水泳1.5km)より長く泳ぐわけですので。

さらに言えば、この辺りのビーチはサーフィンの名所です。かなりの高波がやってきます。寒流の影響で海水温も低く、ウェットスーツなしで長時間泳ぐには厳しい条件です。

ならば競技者はさぞかし鍛え上げられたアスリートたちだろうと思うでしょうが、よく見ると皆が中学生や高校生くらいの若い男女です。それもそのはず、この恒例イベントは夏休みの間にライフカードとしての訓練を経験する少年少女向けプログラムの一環なのです。

アメリカのライフガードは、ビーチやプールなどでの監視や救助、応急処置まで幅広いスキルを持った専門家として、とても尊敬されている職業です。その次世代を育てる「ジュニア・ライフガード」プログラムが各地で行われています。夏休み中の数週間、海岸で泳いだり走ったりしながら、救助技術や海の安全について学ぶものです。
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ライフガードに憧れる少年・少女たち

ビーチ沿いのショップで人気が高いライフガード関連商品。

子どもの頃にジュニア・ライフガードを経験し、大人になって本物のライフガードを目指す人も少なからずいます。しかし、それはけっして容易なことではありません。

プログラムの内容とは

希望者はまず冬場に行われるトライアウトを受けなくてはなりません。このトライアウトがまた大変なのですが、それについては他で書いたことがあるので割愛します。ともかく、そのトライアウトに合格した人だけが、数か月間に渡る専門講習を受けた後に、ようやく正式なライフガード資格を取得できるのです。

講習では、心肺蘇生法(CPR)や自動体外式除細動器(AED)の使い方、ケガ人の対応方法、水中での救助技術などを学びます。さらに、潮の流れや波の読み方、ボートの操作といった自然環境への対応力も求められます。彼らの一瞬の判断と行動によって、遭難者の生死が左右されることもあるからです。

それでいて、ライフガードという職業は経済的にはとくに恵まれているというわけではありません。たとえばニューポート・ビーチで夏の間ライフガードに任命されたとして、アルバイト扱いの時給は18ドル(約2,700円)程度から始まるそうです。日本の感覚からすると悪くないようですが、カリフォルニア州の法定最低賃金である時給16.5ドル(2025年1月以降)とあまり変わらないのです。

ライフガードになるまでの過酷なプロセスを考えると、他の職業と比べて破格の収入があるとは言えません。彼らはそうした金銭的なことよりもライフガードであるという使命感と名誉を求めているように思います。多くの人から尊敬を受け、子どもたちにとっても憧れの存在でもある所以です。

トライアウトで冬の海に飛び込むライフガード志願者たち。

ライフガードに救助された体験から

私自身について述べますと、ライフガードの皆さんに寄せる気持ちは尊敬と憧れだけではありません。命の恩人として、深い感謝の念を抱いています。

まことに恥ずかしい話なのですが、私は数年前、まさにこのニューポート・ビーチでライフガードに救助されたことがあります。ボディサーフィンをしていたときに、波にもまれて、海底の岩で顔面を強打したのです。左目から数センチという危うい場所でした。

強い波にもみくちゃにされると、自分の体が上を向いているのか下を向いているのかさえも分からなくなります。海水もかなり飲んでしまいました。要するにパニック状態です。私は泳ぎには自信がある方ですが、溺れるときはこうして溺れるのだと思います。

波打ち際からは10mくらいの位置で、足が海底に届く深さだったことは幸運でした。おかげでなんとか自力で立ち上がり、砂浜までは辿り着きました。それでも足元はフラフラでしたし、強打していたので顔面は真っ赤な血で染まっていました。

一歩間違えたら失明していたかもしれず、最悪の事態もあったかもしれません。

幸いなことに、近くにいたライフガードがすぐに止血の応急処置をしてくれました。最初はひとりでしたが、連絡を受けた何人かが駆けつけてきて、最終的には5、6人に囲まれていたように記憶しています。

頭を打っていましたので、私の意識を確認するための質問をいくつか(「今日は何曜日?」、「現在のアメリカ大統領の名前は?」など)されました。脳しんとうの可能性がある状況への対応だと思います。

そのうちに気持ちが鎮まっていきました。肉体的な痛みはもちろんですが、精神的なパニック状態から私を救い出してくれたのも彼らです。

そのおかげで、私の怪我は軽傷で済みました。打診された救急車を断り、家人に連絡して迎えに来てもらうこともできました。数日後に目尻を数針縫う簡単な手術を受けましたが、後遺症のようなものは現在に至るまでまったくありません。顔にも傷は残りませんでした。

とはいえ、その場でライフガードの皆さんに助けてもらえなかったら、どうなっていたかは分かりません。彼らはまさに私のヒーローなのです。

伝説のサーファー、水泳選手、そしてライフガード、Duke Kahanamoku(デューク・カハナモク)の銅像。

海の安全を守るプロフェッショナルたち

私のような軽微なケースもあれば、もっと深刻な水難事故が日本でもアメリカでも数多く発生しています。海で遊ぶということは危険と隣り合わせであることを、私は身をもって知りました。

それでも、私は人々を海や自然から遠ざけるための規制を強めることには反対です。危険をゼロにすることはできなくても、できるだけその確率を減らし、安心して楽しめる自然環境を整えることがより重要だと考えます。

その最前線に立ってくれているのがライフガードです。彼らは万が一の事故に備えるだけでなく、海に訪れる人々に安全な遊び方を伝え、注意を促す教育者的な役割も担っています。そのために日々の鍛錬も欠かしません。ニューポート・ビーチではヘリコプターから海に飛び込んで救助を行う訓練さえ毎年行われているのです。

ライフガードの救助訓練を待機するヘリコプター。

そして、そのライフガードの精神を次の世代に受け継ぐためにあるのがジュニア・ライフガードのプログラムです。子どもたちは救助技術を学ぶだけでなく、仲間と協力する姿勢や自然への敬意も体感します。

体力、知識、そして「海の安全を守るために自らを高める」という誇りを小さな頃から身につけることは、将来ライフガードを目指す子に限らず、社会全体にとって大きな財産になるでしょう。

砂浜を走るライフガードのタマゴたち。

角谷剛さん

米国在住ライター(海外書き人クラブ)

日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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