
蛇遣いのおじさんに分割されたへび座
へび座はへびつかい座とセットで紹介されることが多い星座です。蛇遣いのおじさんにしっかり胴体を捕まれているのですから無理もありません。へび座はその蛇遣いに遮られる形で、おじさんを挟んで西寄りの方を「頭」、東寄りの方を「尾」と呼びます。

へび座の頭は、今注目の新星爆発が予想されるかんむり座の南側にあります。そこから西の方へ横に伸びたへび座は、いったんへびつかい座に中断され、さらに西の方に伸びます。
へびつかい座は、赤い1等星アンタレスで知られるさそり座の上のほうに位置します。へびつかい座の頭には2等星があります。その名もラスアルハゲで覚えやすく、人気もある星です。一方、へび座のいちばん明るい星は3等星。よほど暗い場所に行かないと、へびの長い形を見つけるのはむずかしいです。

それにしても、なぜ、へび座は蛇遣いのおじさんに分断されているのでしょうか。へび座とへびつかい座は紀元前のギリシア時代から存在していました。もともと、星座とは星を結んで作られたものです。へび座は、星を蛇のように長くつなげてできました。同様に、へびつかい座も星をつないで、へびを掴んだおじさんの姿をしていました。へび座とへびつかい座が交差する部分があっても、特に問題はありませんでした。
天体観測の進化で、へび座は分断される運命に
ところが天体観測が進み、星団や星雲、新星や彗星などが新たに発見され、観察されるようになると、星空の位置を表わす、いわば空の住所表示のようなものが必要になってきました。それには古来、慣れ親しんできた星座を使うのがよかろうということで、星座は星を結んだだけでなく、領域を持つようになっていきました。
たとえば、新しい星雲がへびつかい座のおじさんの膝のあたりに発見されたとします。そのとき、その星雲がへびつかい座とへび座の両方に重なる部分にあるとすると、説明する時に話がややこしくなります。そこで、へび座とへびつかい座の領域をハッキリ分けようということになったのです。
正式に分けられたのは、20世紀になってからのことです。1928年に国際天文連合の会議で、全天88星座の領域が定められました。このとき、へび座は公式に、頭と尾に分断されたのです。蛇遣いのおじさんを上半身と下半身に分けるわけにはいかなかったのでしょう。それにしても真っ二つにされて、ちょっとかわいそうなへび座です。
さて、へび座の見どころは、頭の側にある球状星団M5です。双眼鏡で観察できます。
この北の方には、ヘルクレス座の球状星団M13があります。双眼鏡で初心者にも見つけやすい北半球一大きな球状星団です。今注目されるかんむり座Tと3点セットで観察してみてください。

蛇族の星座としてはほかに「うみへび座」があります。こちらは領域でいうと、全天一広い領域を持つ星座として知られます。
ただ、この星座の実体は蛇のように長い体をもつ「ヒドラ」という化けものです。日本では明治時代にさまざまな訳語がありましたが、なぜか海の蛇と誤解した訳が広まって他を抑えて定着したため、うみへび座は日本ぐらいにしか存在しません。
実はもう一匹、蛇族の星座があります。南半球にある「みずへび座」です。天の南極に近いので、日本では見られません。
これは17世紀に作られた新しい星座です。なぜ、ここに水蛇がいるのか。また、なぜ蛇なのに三角形をしているのか。南半球の星座は17世紀以降、大航海時代に作られたものが多く、また暗い星を結んで作成されているので、このようにツッコミどころが多いのが特徴といえば特徴です。南半球に行かれたときには、ぜひ三角形の「みずへび座」も探してみてください。

構成/佐藤恵菜
