ドキュメンタリー映画『ただ、愛を選ぶこと』のパパに直撃インタビュー！

森で遊び、森で学ぶ。ある家族の喪失と再生

『ただ、愛を選ぶこと』

（配給：S・D・P）
●監督／シルエ・エヴェンスモ・ヤコブセン　
●シネスイッチ銀座ほか全国公開中

ノルウェーの深い森で、自給自足に近い生活を送るペイン家。森を走り回る子供たちを撮影しながら「なんてカワイイの」とつぶやくのは、4児の母であり写真家のマリアさん。“写真や物語を通してこの世界を知りたい”と記す彼女のブログに触発された監督からオファーを受け、3年にわたる撮影が始まった。

「撮影は、子供の合意を得ながら進めました。予定にないストーリーが入って、当初のプランとは異なりましたが、美しい映画ができたのがうれしい。マリアもきっと同じ気持ちでしょう」
　
そう語るのはマリアの夫ニックさん。木の伐採や剪定の仕事を経て幼稚園に勤務。その後、自然のなかでなるべく子供たちと過ごしたい、とフルタイムの職を辞して農場運営に専念した。
　
ニックさんは家事全般以外に動物の世話から野菜づくり、牛を丸ごとさばくことまでこなす。育てた野菜を販売する〝マーケット・ガーデン”も計画。さらに、子供の勉強をみる先生役も。

「読み書きはもちろん、森で鳥の名を教えるなど、自然を通して学んでほしいと考えました。目指したのは、子供自身で発見させる自由を与えること。制限があるなら彼らの想像力だけで。そうしてみんな素晴らしい子に育ちました。良い選択だったと思うし、幸せな時間でした」

自分を取り巻く世界はきっと変えられる

　
けれど、そんな幸せはマリアの病死によってカタチを変える。

「家族は今も、常にマリアの存在を感じています。部屋に写真を飾って毎日ろうそくを灯したり、子供たちが見つけてきた鳥の羽根を飾ったり。食事前にはみんなで手をつなぎ、感謝しながら彼女に愛を送ります。お墓に行く頻度は減りましたが、マリアを喪った悲しみは僕らの一部になっているんです」
　
最愛の人がいなくなっても、家族の日々は続く。初めての学校、なじみのない土地での生活……。孤独にそれと向き合うニックの姿に心打たれる。

「人生はこの世界の成り立ちを探す旅のようなもの。世界全体を変えることはできなくても、マリアのいうように〝ただ愛を選ぶ”。生活の小さな何かを変えることで、自分を取り巻く世界は変えられるはずです。この映画を通して、そんなことを伝えられたら、と願っています」

ペイン家の奇跡

子供がカメラ前でナチュラル

撮影クルーは監督を含めて最大2人と少人数。子供たちは生まれたときからマリアさんに撮影されてきたため、カメラ慣れしていてとても自然体。

ペイン家の掟

主な学びの場は野原や森

子供には、自分たちで探検できる時間や自由を与える。「ただ、川は危険なので、川の周りだけは気をつけるようにいっています」とペインさん。

※構成／浅見祥子

(BE-PAL 2025年6月号より)