予報通りの雨。朝食を食べ終わった後から弱い雨に変わり、僕たちは歩き出しました。
少し冷たい雨ですが、皮肉にもGORE-TEXのウエアやブーツを試すには最適の天候です。
スタートは、O Pedrouzoのダートロードと苔むした森。木々に付着した苔がイキイキしているから、僕は雨のハイキングが嫌いではありません。
しかし森を歩いていると、雨を感じないほどの優しい雨でした。しっとりとした優しい雨は、咲き始めたワイルドフラワー達に彩を与えてくれます。
雨でも多くの人々が歩いているのは、日本と全く違う景色かもしれません。今日も実に多くの巡礼者が歩いています。サンティアゴ・デ・コンポステーラの町まで残り21.5km。
つまり、セクションで歩く人、我々のように3~4日歩く人、フレンチウエイをすべて歩く人、様々なハイカーにとって等しく最後への道のりで、最後のセクションだから、
きっと天候が悪くても歩くのかもしれませんね。
午前中は、次第に雨脚も強くなり、ユーロシルムの傘が大活躍でした。途中、一緒に歩いていたGORE社スタッフにカフェで温かいコーヒーをご馳走になり、また雨の中、柏倉さんと歩きだします。
こうして一緒に歩いていると、普段お仕事でお話しするのと違った話にもなります。
森を抜け、人里を通り町にむかって道は続きます。
お昼を過ぎるころ、GORE社さんのテントで用意して下さったランチパックを食べ、ふたたび歩き始めると直ぐにサンティアゴ・デ・コンポステーラの町の看板が見えるのでした。
道は町中に入り、近代的な建物から古い街並みを歩く道のりに変わります。普段生活している人々すれ違いながらも、明らかにこの町の姿にそぐわない格好のハイカーが混在しています。
それでも町の住民は、気にすることもふりかえることもありません。僕には違和感の感じるこの景色も、きっとこれがこの町のいつもの景色なんでしょうね。
信号待ちをしていると、不意に「君たちはどこから歩いてきたんだ?」と薄汚れたウエアのハイカーに話しかけられました。
明らかに僕たちより長い距離を歩いている様子であり、スルーハイク(一気に歩き通す方法)をしている雰囲気出していました。事情を説明すると、彼は寂しそうにまた一人で歩きだしたのでした。
彼はきっと巡礼の最後を同じ巡礼の道を辿った見ず知らずの仲間と分かち合いたかったのかもしれません。
僕もトレイルの最後はいつも一人なので、そんな彼の気持ちが良くわかりました。最後を分かち合う仲間がいればきっと喜びは何倍にもなるのでしょうね。
道ばたには、さらに古い建物が増え、石畳に変わり、人が増え雨が微かに粒めいた時、大きな広場に着いたのでした。
周りを見渡すと多くの人が歓喜をあげ抱き合っていました。ふと見上げると大聖堂があり、工事中でした。そう、ここがサンティアゴ・デ・コンポステーラの終わりなのです。
一歩引いた場所から、あの歓喜の輪を見つめる。いつもならきっとあの輪の中にいたのかもしれない。
いつか、全行程を歩いてあの歓喜の輪の中に入り喜びを分かち合いたい。そんな気持ちがわいてくるのでした。
僕たちは、仕事をこなすようにそれぞれに写真を撮り、こうして僕たちの小さな旅の終わりは、こうして終わりをつげたのでした。
いつか、2人でフレンチウエイの全行程を歩きたいですね!この3日間、僕たちが毎日話し、感じていたことでした。
その後、僕たちはGORE社のスタッフと握手をし、広場のすぐ隣にある美術館のような建物の中に案内されたのでした。
その格式のある、古びた美術館のようなその建物は、なんと僕たちのサンティアゴ・デ・コンポステーラを歩く旅の最後の宿だったのでした。
つづく
【Profile】斉藤正史
山形県在住
LONG TRAIL HIKER
NPO法人山形ロングトレイル理事
トレイルカルチャー普及のため国内外のトレイルを歩き、山形にトレイルを作る活動を行う。
ブログ http://longtrailhikermasa.blog.fc2.com/
山形ロングトレイル https://www.facebook.com/yamagatalongtrail