ドナウ川カヤック旅の難敵=「ドイツの水門」はこう越える
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    2022.03.03

    ドナウ川カヤック旅の難敵=「ドイツの水門」はこう越える

     ドナウ川のいく手を阻む水門

    ゲゲゲッ、また水門だ

    こんにちは!

    ドナウ川を源流地域のドイツから、トルコのエーゲ海を目指して約4,000kmのカヤック旅をしているジョアナです。

    今日もあくせく、ドナウ川をフォールディングカヤックで漕いでいる私ですが、旅の序盤ドイツで苦労したのが、水門の存在。

    ドナウ川上流地域のUlm(ウルム)という町から川下りの旅をスタートさせたものの、行手を阻む水門が、頻繁に現われるのです。

    これらは川をダムとして利用するためのもので、水門のほとんどが水力発電所のもの。ドナウ川の上流地域の中には、なんと5kmおきに水門がある区間も。水門を抜けてちょっと漕いだらまた次の水門。予想外の多さにビックリ。

    ドイツでドナウ川をカヤックで下るときに避けては通れない水門問題。今回は、そんな水門を越える3つの方法をまとめてみました。

    ドナウ川の水門を超えた反対側

    ドナウ川の水門を超えたところ。迂回路の反対岸が水力発電所になっている。

    1.岸を歩く

    一番オーソドックスな方法です。ダムの手前で、一度上陸。荷物を全部カヤックから出して、岸を歩いて水路の向こうに行く方法。英語でいうと、「portage(ポーテッジ)」 と呼ばれる方法。ただし私はドイツ語には疎いので、ドイツ語でなんというのかはわかりません。誰か教えてください。

    残念ながら、ダムの手前にスロープがついていることは稀で、ほとんどが急な石の階段オンリー。カヤックを岸にあげるのも、また川に下ろすのも、毎回重労働です。

    水門の手前、迂回路であるはずの土手の途中が工事で通行止めになっている

    「さて、岸を迂回するか」と思って土手を歩くとなんとビックリ、「工事中につき通行止め」の看板が。

    場合によっては、水門の向こうに行く道の途中が工事中だったり、思ったよりもたくさん歩かないといけないこともあります。カヤックをスムーズに運ぶため、車輪が2つついたカートは必須アイテム。

    水や食料、キャンプ道具などの荷物は、3回往復して運びます。

    水門を超えたところ

    水門の向こうはこの通り、土手と水面の高さがかなり離れています。カヤックや荷物を持って、この傾斜をおりるのはかなりの重労働。

    私の場合、水門を岸から迂回するのに、毎回1時間くらい費やしていました。長旅で荷物が多ければ多いほどその負担は大きいのですが、今回の旅では上流地域のウルムという町からIngolshtad(インゴルシュタッド)という町の間で短いところでは、せっせと荷物を運ぶ私を見かねて、川沿いの土手を散歩中の地元の人が手伝ってくれることも。ありがたいです。

    2.水門を操作する

    水門の手前の看板

    この水門を抜けるとNeuburg(ニューバーグ)という町に抜ける。看板の後ろ、朱色の目印の脇にうっすらと見えるのが水門の操作板。

    インゴルシュタッドのちょっと手前のあたりから、自分で水門を操作できる装置が出現します。水門脇の岸に置かれた四角い大きな箱が、水門の操作板です。使い方はとってもシンプル。

    まず水門は、水門を隔てた上流と下流でかなりの落差があります。その落差を埋めるために設置されているのが、2枚の扉で仕切られたコンクリートの巨大な四角い空間。この2枚の扉の間の空間に水を入れたり、抜いたりして、そこに浮かんでいる船の高さを上げ下げすることで、船が水門を通れるようにする仕組みです。

    水門の操作板の取扱説明文

    水門の操作板についていた取扱説明文。ドイツ語がまったく読めないので、いちいちGoogle翻訳にかける。

    私のように川を下っている船が、川の水位が高い上流から、水位が低い下流に行きたい場合はに、まず、操作板のレバーを「Bergfahrt(ベアックファート)」に合わせてボタンを長押しします。

    すると2枚の扉で仕切られたコンクリートの中に注水が開始され、上流と同じ高さまで水が貯まります。上流側の扉が開いたところで、船が2枚の扉の間に入ります。

    続いて、レバーを「Talfahrt(タルファート)」に合わせてボタンを長押しすると、上流側の扉が閉まります。そして、コンクリートの中の水が少しずつ抜かれていきます。下流と同じ高さまで水位が下がったら、今度は下流側の扉が開いて水門が通過できる。と、そういう仕組みなのですが、まずこれは大前提として、水門を操作する人と、船を扉の中に入れて出す人、最低でも二人いないと成立しません。

    私のような一人旅の場合はやっぱり、「1.」に書いたように、水路を終えるために荷物を抱えて岸を歩くことになります。水の注水、排水、扉の開け閉め、と一連の動作で1時間近くかかってしまうそうなので、カヤックみたいに運べる船だったら岸を歩いたほうが早いのかも。

    3.ウォータースライダー

    岸を迂回せずに水門を抜けるために設置された、カヤック専用のウォータースライダー

    巨大な流しそうめん器のようにも見えるが、岸を迂回せずにカヤックで水門を通れるありがたいアイテム!

    これは「Borstenpass(ブロステンパス)」と呼ばれるもので、Regensuburg (レーゲンスブルグ)の町のあたりから出現します。ダムの手前まで、この青い色のカヌーの標識を辿って漕いでいくと、ウォータースライダーを発見。

    カヌーを漕ぐ人が描かれた青色の標識

    カヌーを漕ぐ人が描かれた青色の看板。これに従って進むと上陸スポットやカヤック専用ウォータースライダーに出るので、迷ったときの目印に。

    ウォータースライダーの部分に水が溜まってない場合は、どこかレバーかロープを引っ張ると注水されると聞いたことがありますが、幸い今回は、はじめから水が溜まっていました。

    このウォータースライダー、乗ってみると、意外と速い。

    船体をしっかりまっすぐにした状態で乗らないと、途中で壁にぶつかります。

    しかも、カヤックは乗っているときの目線が低い乗り物なので、ウォータースライダーの入口の先がストンと落ちているように見えて、結構怖い…。

    でも岸を歩けば1時間くらいかかっていた水門越えも、このウォータースライダーなら30秒足らずで完了。なんて便利なんでしょう。

    ちなみにウォータースライダーの底の部分は砂利のような優しい素材が敷かれていて、フォールディングカヤックでも安心して通ることができました。毎回苦行だった水門越えも、これなら楽しみなイベントに。

    “TID”のスタート地は、なぜインゴルシュタッドか?

    水門を超えてホッとひといき笑顔の写真

    ドナウ川では毎年、ドイツから黒海をカヤックで目指す「Tour International Danube(ツアー・インターナショナル・ドナウ)」というレースが行なわれています。略してTID(ティッド)のスタート地がじつは、ドナウ川源流の町、Donaueschingen(ドナウエッシンゲン)ではなく、インゴルシュタッドなのです。

    「なぜ、本当の源流であるドナウエッシンゲンからレースをスタートしないのか?」と疑問に思うところですが、こうしてドナウ川を下ってわかった気がします。インゴルシュタッドより上流のドナウ川は、水門越えが多すぎる。辛すぎる。

    今回のドナウ川で学んだのは、「世界の川をカヤックで旅するときは、水門の位置と数をあらかじめ絶対に把握しておくこと」です。

    私が書きました!
    剥製師
    佐藤ジョアナ玲子
    フォールディングカヤックで世界を旅する剥製師。著書『ホームレス女子大生川を下る』(報知新聞社刊)。じつは山登りも好きで、アメリカのロッキー山脈にあるフォーティナーズ全58座(標高4,367m以上)をいつか制覇したいと思っている。

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