写真/麻糸を績むイ族の女性とそれを注視する子どもたち。雲南・石林イ族自治県にて。
日本列島を二分する照葉樹林文化とブナ帯文化とは?

日本列島では、照葉樹林はおもに西南日本に分布している。厚いクチクラ層を持つ葉によって光沢のある林冠を形成することから、照葉樹林と名づけられた。スダジイ、タブノキ、カシ類(アカガシやウラジロガシ)などが高木として聳え、下層にはヤブツバキ、サカキ、ヒサカキなど関東以西に住む人たちには身近な樹木が生育している。本州、四国、九州に分布し、内陸では関東平野あたりを北限とするが、温暖な海岸線に沿って青森県までタブノキ林がある。
それに対して、東北日本にはブナやミズナラなどを中心とした冷温帯性落葉広葉樹林の世界が広がる。北海道の渡島半島がブナの北限で、東北地方から関東北部、中部地方、さらに近畿や中国・四国の内陸部、九州中央山地から大隅半島・高隈山、薩摩半島・紫尾山までがブナが分布する地域であり、東北〜中部地方を中心にドングリやトチノミ、山菜・キノコの利用、クマなどの哺乳類の狩猟などで特徴づけられるブナ帯文化という、もうひとつの日本の基層文化がある。
このように日本列島を二分する植生帯に代表されるふたつの文化であるが、ブナ帯文化があまり人為の加わっていない落葉広葉樹林の動植物に依存する文化であるのに対して、照葉樹林文化は焼畑など人間が大きく関与した自然と栽培植物や家畜の上に成立する文化である。北海道を除く日本列島の先史時代の人口を残された遺跡から研究した小山修三によれば、縄文早期にあたる8100年前は約2万人、縄文前期の5400年前は約11万人と推定されている。4300年前の縄文中期には約26万人と増えるが、縄文時代に一貫して人口の多いのは、圧倒的に東北日本の落葉広葉樹林の地域である。それが弥生時代、つまり栽培植物が生活の中心になって西南日本が初めて逆転するのだ。照葉樹林文化は、弥生的な要素、いいかえれば大陸的な要素が濃厚である。

中国雲南省でも栽培植物が人びとの生活の中心


照葉樹林のキノコ食への「ルシアン・ルーレット説」とは?
実際に照葉樹林では明らかに森林内のキノコや山菜の利用が少ない。東北あるいは中部地方では、春先に山菜、秋にキノコを採りにいく人々の情熱には凄まじいものがある。しかし、西南日本ではかつてのマツタケを除くと、キノコ・山菜採りの文化に乏しい。これにはちゃんとした生物学的な根拠があると、わたしは考えている。
常緑樹は葉を1年以上長持ちさせる必要があるから、動物に食べられないように物理的あるいは化学的に防衛している。堅いクチクラ質や、タンニンなどの化学物質が含まれているのはそのためだ。それに対して落葉樹の葉は半年程度と短いので、それほど防衛されていない。動物にとっては食べやすい葉である。
キノコは樹木と同様に、高緯度にいくほど種数が少なく、赤道に近いほど種の数が増える傾向にある。キノコが食べ物としてとりわけ厄介なのは、同じ仲間(属)でも食べられるキノコと猛毒のキノコが混在している点だ。植物の場合は、食べられるか毒があって食べられないかは、キンポウゲ科は毒で、アブラナ科は食べられるなど、科レベルの大きなグループで決まっている。
ところがキノコは同じ仲間に、食べられるキノコと食べたら死ぬかもしれないキノコが混じっている。しかもキノコは種を識別する決め手になるような外見的な特徴に乏しく、キノコ採りの名人がいる地方でも食用と有毒を間違える中毒事故が絶えない。まるでルシアン・ルーレットだ。日本の照葉樹林の本場である宮崎県椎葉村では、集落全体でキノコ食をタブーとしている地区がある。キノコ中毒で多くの方が亡くなったからと伝わっている。
属あたりのキノコの種数が少ない高緯度地域では、食用キノコと有毒キノコを間違える可能性が少ないので、大量にキノコが採取され、大量に消費される。それに比べて照葉樹林では食用と有毒が紛らわしいので、キノコ食が低調なのではないか。これをキノコ誤食回避説(ルシアン・ルーレット説)と名付けておく。
雲南省では野生のキノコの名物料理がある!
そこで、照葉樹林のふるさとである雲南のキノコが気になっていた。なぜなら雲南料理で有名なのは野生菌、つまり野生のキノコであり、雲南省の省都である昆明では野生キノコ鍋なるものが名物だからである。第1回国際イ族文化サミットフォーラムに招聘された8月は、野生キノコ食のベスト・シーズンと聞いた。この機会を逃す手はない。



※写真はすべて湯本貴和さんの撮影です。




