そして今回向かったのは、美しいアドリア海で知られるクロアチアです。多くの人が海を思い浮かべるこの国にも、しっかりと最高峰が存在します。標高1,831mの「Dinara(ディナラ)」です。その頂に広がっていたのは、透き通る海のイメージとは対照的な、荒々しくも雄大な山の風景でした。
バンライフならではの移動や前泊、そして登山のリアルな様子まで。クロアチア最高峰・ディナラ登頂の記録をお届けします。
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クロアチアの最高峰「ディナラ」とは?

クロアチアといえば、アドリア海や美しい旧市街の風景を思い浮かべる人が多いかもしれません。ヨーロッパ南東部、バルカン半島に位置し、イタリアの対岸に広がる海沿いの国です。
ですが、内陸に目を向けるとダイナミックな山岳地帯も広がっています。その最高峰が、ディナラです。クロアチアとボスニア・ヘルツェゴビナの国境沿いに位置し、周辺一帯はディナラ山脈と呼ばれる山々の一部をなしています。
登山ルートはいくつかあり、往復およそ5~7時間ほど。ヴィア・フェラータと呼ばれる、ワイヤーロープやはしごなどの岩場ルートを通る上級者向けのコースから、技術的に難しい箇所がなく初心者でも挑戦しやすいコースまで、体力や経験に合わせて選ぶことができます。
クロアチア最高峰へ。グラヴァシュルートからのアプローチ
私たちが選んだのは、ディナラの中で最もポピュラーで簡単とされるGlavas(グラヴァス)からのルートです。往復約17km、標高差はおよそ1,300m、コースタイムは6時間ほどとされており、日帰りで登ることができる王道ルートです。
登山口までのアクセス自体は比較的簡単ですが、整備された駐車場のような設備はなく、登山口近くにあるペンションに声をかけて、その前の空きスペースに停めさせてもらうスタイルでした。

ただ、周囲の環境的にキャンピングカーでの車中泊は難しそうだったため、前日は登山口から車で約30分の場所にあるKnin(クニン)の街で一泊することにしました。そこで静かな夜を過ごし、翌朝、まだ空気のひんやりとした時間帯に登山口へと向かいました。
環境や状況に合わせて車中泊場所を変えられるのも、バンライフ旅ならではの魅力です。
クロアチア最高峰・ディナラを目指して登山スタート

ディナラの登山は、序盤からいきなり“クロアチアらしさ”を感じる風景の連続でした。足元に広がるのは、土というよりもゴツゴツとした岩が目立つ乾いた地形。緑豊かなアルプスの山々とは対照的で、どこか荒々しく、バルカンらしい景色が続きます。

登山道の序盤は、低木や木々に囲まれた穏やかな道が続きます。そんな中、歩き始めてしばらくすると現れるのが、石造りの小さな塔、グラヴァシュ要塞です。この要塞は15世紀頃に築かれたとされ、かつてはオスマン帝国の防衛要塞として使われていた場所。今では静かに佇むだけの遺構ですが、荒野の中にぽつんと残るその姿には、この土地が歩んできた歴史を感じさせる重みがあります。

標高を上げるにつれて視界が開けていき、広大な大地がどこまでも続くスケールの大きさに圧倒されます。ここからは、日差しを遮る木陰は少なく、じわじわと体力を削られていく感覚です。夏場は日差しがかなりきついルートなので、私たちが登った10月下旬は涼しく、ちょうど良いタイミングだったのかもしれません。

そしてもうひとつ印象的だったのが、人の少なさ。西ヨーロッパの人気登山地ではハイカーとすれ違うのが当たり前ですが、この日はほとんど人に会うことがなく、静けさの中で自分たちのペースで歩き続ける時間が流れていました。

バルカン半島の登山道は整備が最小限でワイルドな場所も多い印象がありますが、ディナラのルートは標識がしっかりしていて、安心して歩けるのも魅力のひとつです。

【注意】ルートを外れないこと!内陸部に残る地雷のリスク

ディナラ周辺はボスニアとの国境沿いに位置しており、1990年代のユーゴスラビア紛争の影響を受けた地域でもあります。当時、この一帯には地雷(未爆発弾)が広範囲に埋設され、その一部は現在も完全には除去されていません。
とはいえ、登山道や主要ルートは安全が確認されており、通常の登山で過度に心配する必要はありません。ただし、登山道を外れたエリアにはリスクが残っているため、決してルートを外れないことが重要です。
実際に歩いていると、場所によっては注意を促す看板を目にすることもあり、この土地の歴史を感じる瞬間でもありました。
小屋泊まりもOK!ディナラに現れる快適すぎる避難小屋「Drago Grubać」

登山道の途中に現れるのが、避難小屋のDrago Grubać Shelter(ドラゴ・グルバチ・シェルター)です。山小屋のように管理人が常駐している施設ではなく、誰でも自由に利用できる無人の避難小屋で、ここで一泊して頂上を目指す人も多いです。
外観はとてもシンプルで、いかにも山の中の小屋といった素朴な造りですが、中に入ってみるとその快適さに驚かされます。小屋の中は思っていた以上に広く、数人が十分に泊まれるスペースが確保されています。トイレもあり、2階部分は寝るためのスペースになっていて、しっかりと休める作りになっているのも印象的でした。

さらに驚いたのは、ソーラーパネルによる電力が通っていること。簡易的ながら電気が使えるようになっており、携帯の充電も可能です。山の中の避難小屋とは思えない設備に、思わず「ここで一泊するのもありかも」と感じてしまうほどでした。外には草が生えた平らで広めのスペースもあり、テント泊にも良さそうな環境です。

自然のど真ん中にありながら、無料でここまで設備が整っていることに驚かされると同時に、ディナラの登山の魅力を改めて感じさせてくれる場所でもありました。
頂上へ続く最後の道のりは絶景の稜線歩き

避難小屋を抜けると、ここから先は一気に景色が変わり、頂上までは開放感あふれる稜線歩きが続きます。視界を遮るものはほとんどなく、どこまでも広がる大地を感じながら歩く、気持ちのいい区間です。
振り返れば、歩いてきた荒々しい大地が広がり、クロアチアらしい乾いた風景がどこまでも続いています。タイミングや天気が良ければ、遠くにアドリア海がうっすらと見えることもあるそうですが、この日ははっきりと確認することはできませんでした。それでも、海のある方向に視線を向けながら歩く時間は、どこか特別なものがあります。

景色を楽しみながら歩いていると、遠くにぽつんと見えてくるのが、頂上にある赤いシェルターのような建物です。「あそこがゴールだ」と思えることで、不思議と足取りも軽くなります。

クロアチアのてっぺん、ディナラへ到着!

ついに、クロアチア最高峰ディナラの頂上へ到着。標高1,831mの山頂に立つと、「ここがクロアチアのてっぺんなんだ」という実感がじわじわと込み上げてきます。
山頂は視界を遮るものがほとんどなく、360度に広がる大パノラマ。これまで歩いてきた荒々しい大地がどこまでも続き、そのスケールの大きさに思わず立ち尽くしてしまいます。派手さはないものの、この場所にしかない静けさと広がりがあり、ゆっくりと景色を味わいたくなるような空気が流れていました。

そして道中ずっと見えていたのが、山頂にぽつんと佇むこの赤い小さなシェルターでした。中は狭く、数人が座れるほどのスペースしかなく、風をしのぐための簡易的な構造。それでも、この場所を象徴する存在でもあり、「ゴールにたどり着いた」という実感をより強くしてくれます。
下山ルートは、来た道をそのまま戻ることもできますが、今回は別ルートを使って周遊することに。帰り道ではまた違った角度からディナラの景色を楽しむことができ、最後まで飽きることのない山行となりました。

バルカン半島の最高峰を巡る旅を終えて、次の目標へ

今回のクロアチア・ディナラへの登頂で、バルカン半島における“各国最高峰チャレンジ”は一つの節目を迎えました。
ブルガリア、ギリシャ、セルビア、北マケドニア、アルバニア、モンテネグロ、そしてクロアチアと、(ボスニアを除く)バルカン半島の最高峰をほぼ巡ることができ、それぞれの山で全く異なる表情に出会うことができました。
アルプスのような整った登山道とは違い、どの山もどこか荒々しく、素朴で、そしてワイルド。整備されすぎていないからこそ味わえる緊張感や、静けさの中にある大自然の存在感は、これまでの山歩きとはまた違った貴重な経験になりました。
これからもキャンピングカーで旅を続けながら、ヨーロッパの山々を巡る旅は続いていきます。次はどんな山に出会えるのか、お楽しみに。





