今回向かったのは、ブルガリア最高峰・ムサラ山です。訪れたのは10月上旬で、本来なら秋のハイキングシーズンのはずが、登山の2日前に季節外れの大寒波が襲来。山は一夜にして雪景色に変わってしまいました。
それでも諦めず、白銀の世界を登り続け、頂上で私たちを出迎えてくれたのは…人懐っこく、ふわふわでもふもふな、まさかの“あれ”でした。
雪山の頂上に、凍えた心をほどくような“癒し”が待っているなんて、誰が想像したでしょうか。忘れられないムサラ山の登山体験をお届けします。
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ブルガリア最高峰・ムサラ山とは?

ブルガリアで最も高い山であるMussala(ムサラ)は標高2,925mあり、バルカン半島全体の最高峰でもあります。名前の由来はアラビア語で「神に近い場所」を意味するとされており、まさに空に一番近い山です。
登山の拠点となるのが、Borovets(ボロベツ)というスキーリゾートで、首都ソフィアから車で約1時間半とアクセスがよく、冬にはブルガリア有数のスキーリゾートとして多くの観光客で賑わう場所です。
夏にはボロベツからゴンドラを利用して標高約2,300mまで一気に登ることができます。そこから山頂を目指すルートが短くなり、日帰り登山もしやすい山として親しまれています。
まさかの大寒波襲来!10月のムサラが雪山に

私たちがムサラを訪れたのは10月上旬で、本来であれば紅葉のハイキングシーズンのはずでした。ところが、登山の2日前に季節外れの大寒波がブルガリアを直撃。山は一夜にして白く染まり、積雪はなんと50cmにもなりました。
「大丈夫かな?」と少し心配にもなりましたが、せっかくここまで来たのだからと、私たちは登ることを選びました。アイゼンやピッケルなどの雪山装備を万全に整え、天候とルートをあらためて確認したうえで、ブルガリアの頂上を目指しました。
オフシーズンのロングルートでムサラの頂上を目指す
登山のスタート地点は、スキーリゾートの町ボロベツ。周囲にはホテルやレストラン、ショップ、大型駐車場も揃っていて、登山の拠点にはぴったりの場所です。

本来ならここからリフトを使って短縮ルートで頂上を目指せるのですが、この時期は完全にオフシーズンで、リフトは動いていませんでした。そこで、私たちは往復27km、標高差1,650m のロングルートで頂上を目指すことになりました。

長い道のりを考え、日の出前の6時に出発。薄暗い森の中、懐中電灯の光だけを頼りに登山スタートです。道は雪に覆われていましたが、そこまで深くなく、アイゼンなしでも十分に歩けました。「これからどんな景色が待っているのだろう」と話しながら、白銀の世界へと足を進めていきました。
頂上を目指して白銀の世界をひたすら登る

歩き始めてしばらくすると、空が少しずつ明るくなり始めました。それと同時に徐々に標高も上がり、足元の雪は次第に深く、空気は一段と冷たくなっていきます。周囲はいつの間にか一面が白銀の世界。思わず言葉を失ってしまうほどの景色が広がっていました。

そのままひたすら雪道を登り続け、歩き始めてから約4時間で、中間地点にあたるムサラ・レイクに到着です。

湖はもちろん完全凍結し、静まり返った雪景色が広がっていました。湖畔にはムサラ小屋があり、ここで一旦休憩を取ることにしました。

宿泊施設でもある小屋の中は、暖炉の火でぽかぽか。冷え切った体を芯から温めてくれました。

そしてここで、思わぬ癒しが…小屋にいたのは、なんと可愛らしい2匹の猫。雪山の厳しさを忘れさせてくれる存在に、思わず頬が緩みます。

心も体もすっかり温まったところで、まだまだ続く長い道のりへ戻ります。ここから先はいよいよ本格的な雪山登山です。傾斜も次第にきつくなってくるため、アイゼンを装着して再スタートしました。

急登が続き、体力も気力も試されます。幸い、登ったのは日曜日で、前日に多くの登山者が入っていたようでした。トレース(踏み跡)がしっかり残っていたおかげでルートが分かりやすく、体力の消耗も最小限に抑えることができました。
それでも雪の量には驚かされます。ザクザクとした雪を踏みしめながら歩く感覚は、やはり雪山ならでは。

やがて、頂上直下にある最後の湖と山小屋に到着。残念ながら小屋は閉まっていたため、そのまま先へ進みます。

そしてここからが、このルートの最難関。岩場の登りに差し掛かりました。

雪のない状態であればそれほど難しくはない岩場ですが、この日は岩が雪に覆われ、非常に滑りやすい状況でした。設置されている補助用のワイヤーロープを頼りに、両手もしっかり使いながら、一歩ずつ慎重に登っていきます。

緊張感の続く場面でしたが、なんとか岩場を登りきり、ブルガリア最高峰の頂上は、もうすぐそこまで迫っていました。
ついにブルガリアのてっぺんへ!そこで待っていたのは…


雪に覆われたムサラ山頂に、ついに到着です。長い道のりを登り切った達成感と、無事にたどり着けた安堵感の両方が一気に押し寄せてきます。その直後…登頂の疲れを一瞬で吹き飛ばす、信じられない光景が目に飛び込んできました。

なんと、大雪に囲まれた頂上に、一匹の猫がいたのです。しかもその猫は寒さに戸惑う様子もなく、雪の上をヒョコヒョコと歩き回っています。周囲に飼い主がいる様子もなく、「なぜ、こんな場所に?」と思うほど堂々とした佇まいで、その姿にただただ唖然としてしまいました。

山頂の標識を見ると、そこには猫の写真と説明が。どうやらこの猫は、ムサラ山の“マスコット”的存在のようです。とても人懐っこく、訪れる登山者に抱っこされたり、写真を撮られたりと大人気。

下山時に、ムサラ小屋のオーナーに話を聞いてみたところ、猫の名前は Murli(ムルリ)。なんと、山頂に住み着いてからすでに5年ほど経つのだそうです。ムサラ山頂には気象観測ステーションがあり、数年前にそこの気象観測官が連れてきたのがきっかけで、ずっとこの場所で暮らしているとのこと。
晴れた日には、下にあるムサラ・レイクまで降りて小屋の猫たちと遊び、また自分の足で山頂へ戻ってくるのだとか。まさに“登山猫”。凄すぎて言葉も出ません。「ムサラ山の主」と呼ぶにふさわしい猫でした。
最高峰には、予想もつかない物語が待っている
雪に覆われたムサラ山への登山は、正直なところ楽な道のりではありませんでした。行程時間約10時間のロングルートに加え、深い雪と寒さ、そして緊張感のある岩場。体力も気力も試される一座でしたが、登り切ったときの達成感は格別でした。
そして何より印象に残ったのは、山頂で出会った猫のムルリです。ただの“最高地点”ではなく、思いがけない物語が待っている場所でした。
これからもヨーロッパをキャンピングカーで旅しながら、各国の最高峰に登るチャレンジは続きます。どの最高峰にも、その山ならではのドラマがあります。次は、どんな景色に出会い、どんな物語が待っているのでしょうか。








