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2026.04.10

日本人が食べる「野草」の多くはイネやムギと大陸からやってきた植物だった!

日本人が食べる「野草」の多くはイネやムギと大陸からやってきた植物だった!
野生の植物を人が丹精込めて育て、品種改良などもおこなって「野菜」が生まれていった。一方、人に手を加えられることなく生活史を歩んできた野生の植物は「雑草」と呼ばれてきた。そんな雑草の中から選りすぐり、「野草」として日本人が古くから食してきた植物がある。じつは、この野草の多くは大陸由来の帰化植物なのだ! 京都の「摘草料理」の伝統を継承する料理人に学びながら、春たけなわの洛北・大原の里を歩いた。

写真/田の畔に生育する野生のセリ。

「春の七草」で元から日本に在来していたのはセリだけ!

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京都・大原の里にも、梅の花が咲く季節がやってきた。

京都洛北・大原の里には、洛中から少し遅れて春がやってくる。「春の七草」という言葉は、ご存じだろう。せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろの7つである。正月7日の朝に食べられる七草粥の材料として、いまではスーパーでパックとして売られることも多い。しかし、これらの植物は春先には、ちょっとした都市近郊の耕作地でもすべて揃う。もちろん大原の里もそうだ。

せりはセリ科のセリで、水辺や水気の多い田の畔に生育している。なずなはアブラナ科ナズナで、三角形の果実が三味線の撥のようなかたちに見えるため、ぺんぺんぐさとか、しゃみせんぐさとも呼ばれる。ごぎょうは、ハハコグサでキク科に属する。厄除けのために御形とよばれる人形(読み「ひとがた」)を川に流した雛祭りの古い風習が関係しているとされる。はこべらは、ナデシコ科ハコベ属の植物で、種名でいえば主にミドリハコベとコハコベである。ほとけのざは、キク科のコオニタビラコで、シソ科のホトケノザとは異なる。すずなはカブ、すずしろはダイコンで、それぞれ品種は非常に多いがアブラナ科の栽培植物だ。

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三角形の果実が三味線の撥のようなかたちに見えるため、ぺんぺんぐさとか、しゃみせんぐさとも呼ばれるナズナ。

「春の七草」のうち、元から日本に在来していたのはセリだけで、あとは栽培植物あるいは史前帰化植物と考えられている。史前帰化植物とは、古い時代に農耕とともに大陸から日本に渡来した外来植物のことである。この言葉の提唱者である前川文夫博士によると、史前帰化植物は3つのグループに分けられる。

前川文夫が提唱した史前帰化植物と中尾佐助が名付けた残存作物

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前川文夫(1908~1984)。東京帝国大学理学部植物学科の出身。成蹊学園の教師を経て東大助教授、教授を務めた。植物の地理的分布、進化に大きな業績を残す。一般向けの著書に『植物の進化を探る』(岩波新書 1969年)、『植物の来た道』(八坂書房 1998年)がある。写真/『植物学研究』(第59巻 第5号 1984年)より

1つ目のグループは稲作に伴って伝播してきた植物で、中国南部から東南アジアでイネが栽培されてきた水田という環境に適応している。このグループの植物は田植えの前後に芽生えて生長し、イネが刈り取られる前に実を稔らせて種子を散布させてしまう。水田や畦道に生育している植物の多くが、東南アジアの沼沢地や水田と共通種だ。水田稲作に伴っておそらくイネ籾に種子が混じって伝播してきた植物で、水田耕作のサイクルに一致して春に芽生えて夏から秋にかけて結実する生活史を持っている。タデ科やイネ科、カヤツリグサ科などの植物が多い。

第2のグループはムギ類の栽培伝来とともにやってきた植物である。日本では古くからイネとムギの二毛作が広くおこなわれていた。水田から水が落とされ、稲刈りがおこなわれると、このグループの多くが芽生えて刈り跡は緑の絨毯になる。稲刈り後に地表面に明るい光が射し込み、それを感じた種子が一斉に芽生えてくるからだ。イネが栽培されていない冬期の乾燥した水田にも生育する植物で、里山の春を彩る植物の多くはムギとともに伝来したものである。「春の七草」のうち、在来種のセリと栽培植物のカブとダイコンを除いた4種、つまりナズナ、ハハコグサ、ミドリハコベ、コオニタビラコのすべてはムギ栽培とともに日本に渡来した史前帰化植物であり、ヨーロッパの麦畑に見られる植物と共通している。コハコベは幕末から明治初頭にかけての時期に国内で普通に見られたとする記載もあるが、明治時代やそれ以後の帰化植物だという説もある。

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明治以後の帰化植物とも考えられているコハコベ。茎が紫色がかっているのが、ミドリハコベとの違い。

3つ目のグループは、時代は不明ながら中国大陸から有用植物として持ち込まれたもので、ヒガンバナやヤブカンゾウ、シャガなどである。これまでの2つのグループとは異なって、これらは球根で増えるもので人間が意図的に持ち込んだものらしい。通常の植物は染色体を2組持つ2倍体であるが、この3種はいずれも染色体を3組持っている3倍体である。減数分裂が正常に行われないため、不妊性で種子をつくらない。これらは救荒用食料として持ち込まれた可能性が高い。しかし、時を経るにつれて有用性が薄れ、来歴もわからなくなってきた。中尾佐助博士は、人為的に伝播しながら、その後顧みられなくなって、野生化して生き残っている栽培植物を「残存作物」と名付けている。いまは「雑草」扱いされているが、かつては立派な有用植物だったのだ。

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中尾佐助(1916~1993)。京都帝国大学農学部農林生物学科の出身。大阪府立大学助教授、教授を務める。栽培植物学、民族植物学を基礎に研究。ヒマラヤ山麓から中国西南部を経て日本に至る照葉樹林帯に着目し、照葉樹林文化論を提唱した。一般向けの著書に『栽培植物と農耕の起源』(岩波新書 1966年)、『現代文明のふたつの源流〜照葉樹林文化・硬葉樹林文化』朝日選書 1978年)などがある。写真/1958年ブータンにて。大阪公立大学
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京都・大原の直売所で売られるヤブカンゾウ(かんぞう)やヨモギ。

中東篤志さんから「摘草料理」の精神を学ぶ

このような現在はほとんど顧みられない植物の利用を「摘草料理」というかたちで継承・発展させてきた一家が京都にある。京都・花背の「美山荘」を代々営んできた中東(読み「なかひがし」)家である。「美山荘」は、奈良・春日大社の社家であった初代・中東庄吉郎さんが明治28年に峰定寺参りの宿坊として建立した。家業を継いだ三代目・吉次さんが独自の「摘草料理」を始め、その弟で美山荘の総料理長を務めた久雄さんは京都市で「草喰(読み「そうじき」)なかひがし」を開店。久雄さんの長男・克之さんは「草喰 なかひがし」で厨房を務め、次男・俊文さんは東京・西麻布でイタリア料理店「草片cusavilla」を営み、生まれ育った京都にも「ristorante DONO」を開く。三男・篤志さんは京都市内で京野菜の創作和食店「そ/s/KAWAHIGASHI」を営んでいる。今回は、篤志さんに中東家の摘草料理の精神を学ぶ。

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中東篤志さん(左)と筆者。洛北・大原の里を歩く。中東さんは父の下で幼少期から「摘草料理」を学び、高校卒業後は渡米。ニューヨークの精進料理店で副料理長、GMを務めた。帰国後は国内外へ日本食文化の発信する活動を開始。現在は料理人であり、カリナリーディレクター。イベントや料理店のプロデュース、食に関する地域プロデュースを活発におこなっている。写真/編集部
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中東さんが食材の産地を訪ね、料理を作り、文章を綴って2024年に上梓した『Percolate〜時を食し伝え残す』(写真/八木夕菜、出版/京都新聞出版センター)。写真/編集部

※写真はとくに表記のあるもの以外、すべて湯本貴和さんの撮影です。

湯本貴和さん

1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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