今も残る貴重な「ボラ」の郷土料理と刺身を食べに行った! | 日本の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2026.01.28

    今も残る貴重な「ボラ」の郷土料理と刺身を食べに行った!

    今も残る貴重な「ボラ」の郷土料理と刺身を食べに行った!
    愛知県海部郡蟹江町の尾張温泉郷。筆者が念願だった愛知県の郷土料理「いなまんじゅう」を今も供していたのは、同地の老舗料理旅館「湯元館」だった。愛知県名産の赤味噌にニンジン、ゴボウ、シイタケ、ギンナン、ユズの皮を刻んだものを混ぜ込んで作り、それを専用の注入器を使ってイナ(ボラの幼魚)の空洞部に充填する料理。具でお腹をまんじゅうのように膨らませるので、その名が付いた。さて、その味は? 刺身も食し、現在では貴重になってしまったボラを堪能した!

    いかにもボラの幼魚が回遊しそうな川だが漁船の姿はなかった!?

    2025年11月21日、JR名古屋駅から近鉄名古屋線に乗り換えて、急行だと1駅で近鉄蟹江駅に到着。そこから歩いて10分ほどで料理旅館「湯元館」へ向かう。このあたりは蟹江川、日光川、佐屋川という小さな川が合流して伊勢湾に流れこむ上流側で、いかにもボラの幼魚であるイナが群れをなして回遊しそうな立地である。しかし、見渡すかぎりでは漁船の姿はなく、近くにあった釣り堀もヘラブナ狙いだという。

    かつてはイナが回遊してきたと思われる蟹江川(愛知県海部群蟹江町)。
    江戸時代以降は漁業の町として栄え、蟹江町には魚河岸もあった。ボラのほか、ウナギ、シジミ、スズキ、アナゴなど「汽水域」ならではの魚貝類が揚がった。明治36(1903)年には蟹江町漁業組合が作られ、戦後に蟹江町漁業協同組合に改組して存続していったが昭和39(1964)に解散した。写真/蟹江町歴史民俗資料館所蔵
    昭和初期の魚河岸の付近。漁業の繁栄を物語る河岸や漁業協同組合の解散は、伊勢湾台風で大被害を受けたのをきっかけに昭和34(1959)年、名古屋港の南に高潮防波堤が築かれたことが遠因。これにより蟹江川に海水が上がってこなくなり、「汽水域」が消滅したのだ。写真/蟹江町の広報誌『まちから』(No.576)より

    愛知県名物の赤味噌を使った具をお腹に入れる「いなまんじゅう」

    遠赤外線でじっくりと焼かれる「いなまんじゅう」(愛知県海部郡蟹江町「湯元館」にて)。
    「いなまんじゅう」を焼く湯元館の服部浩二さん(愛知県海部郡蟹江町「湯元館」にて)。

    湯元館の代表取締役・服部浩二さんに「いなまんじゅう」を焼くところから見せていただく。下準備として、まず体長30cmほどのイナの鱗を取り、鰓のところからイナ包丁を入れて、背骨と背肉を切り離す。それと同時にイナ包丁を使って頭と尾の骨を折って、背骨を抜き取る。重要なのは、このときに魚体に穴が開かないように気をつけること。そうでないと、あとから味噌に混ぜた具を入れて焼いたときに味噌が吹き出してしまう。

    まんじゅうの餡にあたる具は、愛知県名産の赤味噌にニンジン、ゴボウ、シイタケ、ギンナン、ユズの皮を刻んだものを混ぜ込んで作り、それを専用の注入器を使ってイナの空洞部に充填する。鰓のところを竹串で止めると「いなまんじゅう」の完成だ。湯元館では「いなまんじゅう」を遠赤外線でじっくりと焼いていく。焼きが進むにつれて、赤味噌の具が熱せられて少し膨らんでいく様子がわかる。

    焼く前の「いなまんじゅう」(愛知県海部郡蟹江町「湯元館」にて)。

    具を入れるのに使う特注の包丁と注入器

    服部さんは、魚体を破かずに内臓を取り去るイナ包丁とその扱い技術や、具を詰める注入器が必要なので、とても一般家庭でできる料理ではないとおっしゃっていた。これら専門の道具は特注なので、大事に使っているとのこと。

    イナの内臓を取り去るイナ包丁(上)と、赤味噌に野菜を混ぜた具をイナに充填する注入器(下)。(愛知県海部郡蟹江町「湯元館」にて)
    イナ包丁(右)と注入器(左)を別角度で(愛知県海部郡蟹江町「湯元館」にて)

    白身と赤い血合いが美しい刺身はマダイにも見まがう

     「いなまんじゅう」が焼けるのを待つ間に、ボラの刺身をつくっていただく。体長60cm以上あるボラの鱗を落として、しっかりと血抜きをしたあと、3枚に下ろす。このときも胆嚢部分の「にが玉」を潰さないように注意するとともに、胃の幽門部である「へそ」は食べるために取り出しておく。

    透明感のある白身と、鮮やかな赤い血合いのコントラストが美しい。柵取りしたボラの身を刺身にするとマダイにも見まがうほどだ。実際に食べてみると、脂が乗っているがしつこくはなく、しゃきしゃきと歯切れもよい。これを予備知識なしに、ボラの刺身だとわかる方はよほど魚に詳しいといえよう。

    盛り付けられたボラの刺身。透明感のある白身と鮮やかな赤い血合いのコントラストが美しい(愛知県海部郡蟹江町「湯元館」にて)。

    現在は遠く南知多町に水揚げされたボラが届く

    きれいに盛り付けられた「いなまんじゅう」。左はモロコの佃煮(愛知県海部郡蟹江町「湯元館」にて)

    焼き上がった「いなまんじゅう」の熱々のところをいただく。イナの淡白な身に、しっかりと赤味噌の味がついて香ばしい。ちょうど魚の田楽の内と外をひっくり返したみたいだ。また具に刻まれた野菜が味を添え、とくにユズが香って風味豊かである。「いなまんじゅう」は、愛知県の海部郡や名古屋市の南部だけに伝わる郷土料理である。出世魚なので縁起がよく、かつてはお祝いごとなどに合わせて作られてきたという。

    現在の蟹江町で川と人の縁を今に伝えるのは須成祭だ。毎年8月第1土日に行われる。蟹江川を山鉾である祭舟が巡航する。また山鉾巡航に先駆け、豊かな川のシンボルである葭をご神体にした葭刈の神事が行われる。国の無形民俗文化財、ユネスコの無形文化遺産に指定されている。写真/愛知県の公式観光ガイドAichi Now  https://aichinow.pref.aichi.jp/spots/detail/321/

    しかしながら、もう蟹江周辺ではボラもイナも捕る漁師がいない。今回のボラやイナは、知多半島の豊浜港(愛知県知多郡南知多町)で水揚げされたものである。仲介してくださったカネヒロ水産という豊浜の仲卸は、名古屋市の柳橋中央市場にも店を出している。たまに愛知県内の居酒屋でお目にかかるボラの刺身もこのような限られたルートに乗っているのだろう。

    現在、湯元館のボラが水揚げとなる豊浜の様子。豊浜のカネヒロ水産は伊勢湾の魚の普及に熱心な若手が元気な仲卸。地魚料理店も経営している。写真/カネヒロ水産 https://kanehiro-s.jp

    湯元館 https://yumotokan.biz

    ※とくに表記のない写真は湯本貴和さんの撮影

    湯本貴和さん

    1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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