いかにもボラの幼魚が回遊しそうな川だが漁船の姿はなかった!?
2025年11月21日、JR名古屋駅から近鉄名古屋線に乗り換えて、急行だと1駅で近鉄蟹江駅に到着。そこから歩いて10分ほどで料理旅館「湯元館」へ向かう。このあたりは蟹江川、日光川、佐屋川という小さな川が合流して伊勢湾に流れこむ上流側で、いかにもボラの幼魚であるイナが群れをなして回遊しそうな立地である。しかし、見渡すかぎりでは漁船の姿はなく、近くにあった釣り堀もヘラブナ狙いだという。



愛知県名物の赤味噌を使った具をお腹に入れる「いなまんじゅう」


湯元館の代表取締役・服部浩二さんに「いなまんじゅう」を焼くところから見せていただく。下準備として、まず体長30cmほどのイナの鱗を取り、鰓のところからイナ包丁を入れて、背骨と背肉を切り離す。それと同時にイナ包丁を使って頭と尾の骨を折って、背骨を抜き取る。重要なのは、このときに魚体に穴が開かないように気をつけること。そうでないと、あとから味噌に混ぜた具を入れて焼いたときに味噌が吹き出してしまう。
まんじゅうの餡にあたる具は、愛知県名産の赤味噌にニンジン、ゴボウ、シイタケ、ギンナン、ユズの皮を刻んだものを混ぜ込んで作り、それを専用の注入器を使ってイナの空洞部に充填する。鰓のところを竹串で止めると「いなまんじゅう」の完成だ。湯元館では「いなまんじゅう」を遠赤外線でじっくりと焼いていく。焼きが進むにつれて、赤味噌の具が熱せられて少し膨らんでいく様子がわかる。

具を入れるのに使う特注の包丁と注入器
服部さんは、魚体を破かずに内臓を取り去るイナ包丁とその扱い技術や、具を詰める注入器が必要なので、とても一般家庭でできる料理ではないとおっしゃっていた。これら専門の道具は特注なので、大事に使っているとのこと。


白身と赤い血合いが美しい刺身はマダイにも見まがう
「いなまんじゅう」が焼けるのを待つ間に、ボラの刺身をつくっていただく。体長60cm以上あるボラの鱗を落として、しっかりと血抜きをしたあと、3枚に下ろす。このときも胆嚢部分の「にが玉」を潰さないように注意するとともに、胃の幽門部である「へそ」は食べるために取り出しておく。
透明感のある白身と、鮮やかな赤い血合いのコントラストが美しい。柵取りしたボラの身を刺身にするとマダイにも見まがうほどだ。実際に食べてみると、脂が乗っているがしつこくはなく、しゃきしゃきと歯切れもよい。これを予備知識なしに、ボラの刺身だとわかる方はよほど魚に詳しいといえよう。

現在は遠く南知多町に水揚げされたボラが届く

焼き上がった「いなまんじゅう」の熱々のところをいただく。イナの淡白な身に、しっかりと赤味噌の味がついて香ばしい。ちょうど魚の田楽の内と外をひっくり返したみたいだ。また具に刻まれた野菜が味を添え、とくにユズが香って風味豊かである。「いなまんじゅう」は、愛知県の海部郡や名古屋市の南部だけに伝わる郷土料理である。出世魚なので縁起がよく、かつてはお祝いごとなどに合わせて作られてきたという。


しかしながら、もう蟹江周辺ではボラもイナも捕る漁師がいない。今回のボラやイナは、知多半島の豊浜港(愛知県知多郡南知多町)で水揚げされたものである。仲介してくださったカネヒロ水産という豊浜の仲卸は、名古屋市の柳橋中央市場にも店を出している。たまに愛知県内の居酒屋でお目にかかるボラの刺身もこのような限られたルートに乗っているのだろう。

湯元館 https://yumotokan.biz
※とくに表記のない写真は湯本貴和さんの撮影








