「粟国島」の古民家に宿泊。リゾートではない沖縄をめぐる旅で感じたこと | 日本の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

日本の旅

2026.03.25

「粟国島」の古民家に宿泊。リゾートではない沖縄をめぐる旅で感じたこと

「粟国島」の古民家に宿泊。リゾートではない沖縄をめぐる旅で感じたこと
2026年1月後半に沖縄県粟国島(あぐにじま)へ2泊3日の小旅行をしました。那覇市の北西約60kmの海上に浮かぶ面積7.65平方kmの小さな島です。島全体がひとつの村(粟国村)を構成しています。

いくら南国・沖縄とはいえ、1月は冬には違いありません。マリンスポーツや観光をするには完全にオフシーズンです。もっとも、粟国島はもともとリゾート開発のようなものがほとんど行われておらず、その代わりに沖縄の自然と伝統が濃く残る島だと聞いていました。それが訪問を思い立った理由でもあります。

那覇空港近くの泊港から粟国島へフェリーが1日1往復しています。片道約2時間です。空の便もありますが、こちらは週4日の運航です。我々(私と妻のことです)は日程との折り合いからフェリーで向かいました。
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魅力的なキャンプ場もあるけれど…

粟国港に停泊中のニューフェリーあぐに。

粟国港には、フェリーの発着時刻に合わせて村営コミュニティバス「アニー号」が待機しています。島内唯一の公共交通機関で、島内主要各地を巡回します。

もっとも、我々がこのバス(運賃100円!)を利用することはありませんでした。船酔いした私がロビーのソファーでぶっ倒れていた間に、バスはとっくに港を出発していたからです。

仕方なく、がらんとした港から村の集落へと向かってふらふらと歩き始めました。とはいっても、前述したように、ごく小さな島です。徒歩でもとくに問題はありません。

港のすぐそばに集落があり、私が予約しておいた古民家宿「星のクラス」がその集落内にあることも分かっていました。港からの距離は約1.5㎞。散歩がてらに歩いているうちに船酔いも治っていきました。

ところで、粟国島には立派な村営オートキャンプ場があります。島随一の美しいビーチ「ウーグの浜」(長浜)に面しているだけではなく、キャンプ道具のレンタルも充実していて、手ぶらで訪れても海辺のキャンプが楽しめるということです。

宿泊場所を選ぶ際にこのキャンプ場はかなり魅力的な選択肢でした。後日のことになりますが、実際に足を運んでみたところ、実に快適そうな施設ですし、まことに素晴らしい立地です。

広々と整備されたテントサイトの向こうには白い砂浜と青い海が広がっています。こんなところにテントを張って、波の音を聞きながら眠ってみたい。そんな風に思わない人はあまりいないでしょう。とくにBE-PAL読者には少ないのではないでしょうか。

粟国島オートキャンプ場。

じゃあなぜ、キャンプをしないで屋根のある家に泊まったのか、については大きな理由はありません。強いていえば、週間天気予報で降水確率がやや高かったということはあります。ご存知の通り、キャンプというものは天気が悪いとあまり楽しいものではなくなりますので。

それでも、アウトドア愛好家としてはやや後ろめたい気持ちがあったことは確かです。ソロキャンプ料金は1泊2000円、古民家の宿泊料は1泊1万円。カネを使ってラクをしてフトンで寝るのか。お前もダラクしたもんだな。ケッ! という声がココロの底から聞こえていたというのはまったくの嘘ではありません。

しかしながら、予約した民家に到着し、近所にお住いのご主人からカギを受け取り、家の中をぐるりと見回した頃には、そんな後ろ向きの気持ちはきれいに雲散霧消していました。

家屋の造りは映画やテレビドラマで見るような沖縄の古い民家そのもの。門にはシーサーが置かれ、敷地内にはトゥージと呼ばれる水瓶まであります。

内部の設備は現代的にアップデートされていますが(ウォッシュレットもWi-Fiもある)、それでいて実に生活感が溢れる雰囲気です。まるで沖縄に親戚がいて、その家を訪ねているような気分でワクワクしました。

古民家宿「星のクラス」入口。
トゥージ。かつて水道がない時代に水を貯めるために作られた。

そしてなんと、キッチンの壁には沢木耕太郎さんのサイン入り色紙がさりげなく飾ってありました。ご主人によると、沢木さんは本当にこの家に滞在したことがあるらしいのです。島を舞台にした『ナビィの恋』という映画(1999年公開)の映画評を書いたとのことです。

色紙には日付が入っていませんので、沢木さんが訪問された時期が映画公開の前か後かは分かりません。そんなことは私にとってはどうでもよく、何と言っても、沢木さんといえば、あの沢木さんです。

バックパッカーにとって不朽の名作である『深夜特急』の著者です。私もボロボロになるまで読みました。あの沢木さんも泊まったのだから、私の選択は旅人として何ら恥じるものではないのだ、と大威張りで自慢することができるはずです。

沢木耕太郎さんのサイン入り色紙。

静かな島を歩く

家の周囲は同じような造りの家屋が並んでいます。小さな畑や雑木林も所々にあります。道路は狭く、軽自動車がぎりぎり通れるくらいの幅しかありません。

島の南側中央部に集落があり、そこに我々が泊まった家もあるのですが、これは徒歩で旅行するにはとても便利な立地でした。食料の買い物も観光もすべて歩いていけるのです。

島の北半分は農地や牧場が広がっているようで、我々はそちらへは向かいませんでした。その代わり、南側の道路はほとんど踏破したと思います。とはいっても、外周12kmの島ですので、大した距離ではありません。

前述した「ウーグの浜」(長浜)、夕陽スポットとして名高いマハナ展望台、鍾乳洞がある洞寺公園、断崖絶壁のヤヒジャ海岸など、粟国村役場発行の観光パンフレットに掲載されていた観光スポットのほとんどを歩いて見て回ることができました。

マハナ展望台からの眺め。

それらの眺望はまことに素晴らしかったのですが、島でもっと印象的だったのはその静けさです。集落には空き家が目立ちました。というか、空き家の方が多いのではと思いました。何時間も歩いて、ほとんど人とすれ違うことがなく、車も数えるほどしか見ませんでした。

我々が島を訪れた2026年1月31日時点での村内人口は662人。これは粟国村が発刊する『広報あぐに令和8年3月号』から引用した正確な数字です。
(参考)『広報あぐに令和8年3月号

同じく村が発刊する『2025年版 粟国村村勢要覧』によりますと、もっとも人口が多かったのが1910年(明治43年)で5,292人、約30年前の1995年でも968人だったということですので、以前はもっと多くの人が住んでいたはず。日本の多くの地方が直面する過疎化の問題はここ粟国島でも深刻なようです。
(参考)『2025年版 粟国村村勢要覧

申し訳ないことに、無責任な訪問者に過ぎない我々にとっては、その静けさもまた島の魅力になってしまうのですが。

空き家のひとつ。

名画『ナビィの恋』について

夜は家に置いてあった『ナビィの恋』のDVDを観て過ごしました。粟国島ってどんなところ?って興味があるけど、今は忙しいなどの理由で訪問するのは難しい。そんな人には、この映画を強くおススメします。

ナビィとは粟国島に住むひとりのおばあちゃんの名前です。若い頃に悲恋の末に分かれた元恋人と約60年振りに再会するというストーリー。

舞台はずっと島とその周りの海です。スクリーンに映し出される風景は、ほんの数時間前に我々が見て回ったものとまったく同じようでした。それどころか、主人公ナビィの家は我々が泊まった家のすぐ近所でした。たぶん100mも離れていなかったでしょう。

ナビィと家族が住んでいた家の近所。

ナビィを演じた平良とみさんは、後にNHKの連続テレビ小説『ちゅらさん』で一躍有名になったそうです。しかし、私自身は主人公よりもその夫の恵達という名のおじいちゃんの佇まいに強く惹かれました。

長年連れ添った妻が、身も心も過去の恋人に引き寄せられていく。そんなときに男はどのように振舞えばよいのでしょうか。妻を責めるか、泣いて縋るか、相手の男をぶん殴るか。それとも「寝たふりしている間に出て行ってくれ」とジュリーのように歌うべきなのか。自分ならどうすると答えの出る人はいますか?

恵達がどうしたかはストーリーの重要な部分ですので、ここでは触れません。もし自分が同じ状況に置かれたならば、あんな風に振舞える男になりたいと、私が心から感じたことだけはお伝えしておきます。ハンフリー・ボガートや寅さんのように優しく、ハードボイルドで、ユーモラスでもあり、そして限りなく誠実な人です。

ストーリー上で重要な意味を持つ通称「ナビィの浜」。

恵達を演じた登川誠仁さんは本職の俳優ではなく、沖縄民謡界の大御所と呼ばれた歌手だったそうです。惜しくも2013年に亡くなりました。もし私にその資格があれば、この人に助演男優賞とか新人賞とかを贈りたかったと思います。

我々は粟国島を訪れてから『ナビィの恋』を観ましたが、むろん順序が逆になってもまったく問題ありません。この一文を読んで、そのどちらか、あるいは両方をしてみたいと思う人がいれば嬉しいですね。私はぜひ再訪したいです。次回はもっとゆっくりあの家に滞在してみたいな。キャンプをする日を混ぜてもいいかな、なんて考えています。

粟国村公式ウェブサイト:
https://www.vill.aguni.okinawa.jp/index.html 

角谷剛さん

米国在住ライター(海外書き人クラブ)

日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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