「七世代先を考えて自然の声を聞く」SDGsにつながるネイティブ・アメリカンの教え | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2021.08.02

    「七世代先を考えて自然の声を聞く」SDGsにつながるネイティブ・アメリカンの教え

    世界的な聖地・パワースポット、セドナに住んで24年になる写心家・NANAさんは、セドナの大自然をガイドしながら、住んでいる人だけが触れられる四季折々のセドナの大自然を写真に収めています。先日、大自然に抱かれたセドナにも、アリゾナの山火事の影響がありました。気候変動の影響がますます深刻なダメージを与えている今、私たち個人個人は、何ができるのでしょうか?

    山火事の煙で、太陽が美しくも不気味な色を放つ一瞬。

    ――先日のアリゾナの山火事はなかなか鎮火せず、かなり広い範囲で燃え広がりましたね。

    NANA――先日までは、山火事の煙がセドナの自宅の窓から入ってきていました。アリゾナ州は4月くらいから乾季に入り、雨季に入る7月中旬までは下草は枯れた状態なんです。6月中旬からセドナも連日40度を超え、セドナとフェニックスの間に位置するチノヴァレーあたりから北アリゾナにかけて、5か所ぐらい同時に落雷による山火事が起こったんです。

    モンスーンは、メキシコ湾から上がってきて雨をもたらす季節風ですが、本格的なモンスーンの前は、雨雲が雨を降らせても、乾燥しきった地上まで届かないことがあるんです。日本では考えられませんが、上空に雨のカーテンが見えるんですよ。地面がカラカラに乾いて下草が枯れ、しかも油分が多い針葉樹の多いこの地域では、雷が落ちて発火すると、一気に燃え広がってしまうんです。道もなくて消防車が入っていけないので、消化活動が遅れます。消火ヘリが消火に当たっても、人間による消火活動はたかが知れていて、焼石に水状態なんです。 

    キャセドラルロックの左手後方に地上に届かない雨が見える。

    ――山火事は、経済活動が原因の温暖化や気候変動も関係しているんですか?

    NANA――アリゾナでも気候変動は感じています。近年、モンスーンの雨が非常に少なくなって、タバコやキャンプファイヤーによる山火事も起こりやすくなっています。雷による自然発火は、人間から見れば自然災害ですが、温暖化で、世界中で山火事が頻繁に起こっているそうですから、自然界のサイクルにも人間が影響を与えていると思います。

    「自然を破壊しているのは人間だ」という想いから、「環境保護活動は地球のためにやる」と考える人も多いかもしれませんが、地球は人類が滅びても生き続けますが、私たち人間は空気や水がなくなったら生きていけないですからね。地球の環境破壊で困るのは、私たち自身だ、ということをもっと自覚するべきだと思います。

    エアポートメサから遠くまで湧き上がるような山火事の煙が広がっているのが見えた。

    NANAーー先日、私の娘と「娘の子どもが大人になって、その先の子どもたちが生きる世界はどうなってしまうんだろう?」と話していたんです。あと7年以内に温暖化を抑えないと地球は壊滅へと向かうかもしれないと言われていますよね。私たちは、未来の子どもたち、また、その先の子どもたちに、「自然の変動には人間が関与している」と伝えることを忘れてはいけないと思います。

    私の娘は「利益追求型の資本主義経済が続くかぎり環境は良くならないだろう」と言っていましたが、ホピの預言の岩絵で描かれている「頭と体が分かれている人たち(自分の利益のみを求めてアタマだけで考える人たち)」が、「自分が生きている間だけ地球が保てばいい」と考えるとしたら、環境保護を訴える人たちは「あと7年以内に地球の温度の上昇を抑えるべきだ」と温暖化に関係がある大企業を責める前に、考えるべきことがあると思います。企業も消費者のニーズで成り立つ経済活動で支えられていますから、私たちも便利性ばかりを追求する生活ではなく、一人でも多くの人が自分たちが「何を買うか」を再確認することが必要なんじゃないかと思います。環境に負荷をかけ続ける大企業の商品を何も考えずに使う時代を終わらせるには、先の世代の子どもたちが生きる世界への影響まで考えて、気づいたことを実行していくことが大切だと思います。

    ――個人で気づいたことを実行するには、どうしたらいいんでしょう?

    NANA――たとえば、「環境保護のために何を食べたらいいか」を考えて、買うものを変える。アメリカでは、農地の約70%が家畜の餌のために使われ、年間260万エーカー(約1億4,000万㎡)の森林が家畜用の穀物生産のために切り開かれています。1秒間にテニスコート20面分の天然林が消失していることになるんです。一酸化二窒素やメタンガスを含む温室効果ガスで比較すると、牧畜で発生する二酸化炭素は、野菜や米などの穀物を作る時に出る二酸化炭素の140倍だそうです。ある科学者は、「人類が乳製品や肉食を抑えるか止めれば温暖化は防げる」と言っています。ちなみに私は、40年前にアマゾンの熱帯雨林が牧畜のために減少していることを知って、肉食をやめました。できることは小さいかもしれないけれど、自分でできることをしようと思ったんです。私たちは、わかっているけどやれていないことがたくさんあると思います。

    セドナには至る所から三億年前に閉じ込められた古代水が湧き出ている場所があり、私たちもその湧き水を汲みに行く。

    NANAーーペットボトルも、やめようと思いながらつい買ってしまいますよね。私はツアーでご案内する方に、「継ぎ足すお水はセドナの湧き水をこちらで用意しますから、ご自分のボトルを持ってきてくださいね」とお伝えして、基本的には使い捨てのペットボトルは使いません。大手のツアー会社がサービスでペットボトルをたくさん用意するのは、本来、自然をガイドする人のやるべきサービスではないと思います。

    あらゆるドリンクがペットボトルで売られているので、私とパートナーはジュースも買うのをやめました。オレンジやグレープフルーツを買って絞って飲んだり、いろんなフルーツでスムージーを作ったりしています。自然の声を聞くということは、まず、自分にできることをすることから始まるのではないでしょうか。

    ――相変わらずコンビニではペットボトルが売られていますが、日本のそんな環境で暮らしていたら、自然の声を聞くことは難しいのではないでしょうか?

    NANA――自然の声を聞くことは、私たちの中から湧き上がる声を聞くことだと思います。気候危機の報道に絶望する必要はないけれど、きちんと認識して危機感を持つことは大切だと思います。常識に従うよりも、自分の心が「正しい」と感じることをやる方が、地球に生きる生命として、人間の正しい道なんじゃないでしょうか。

    「地球のために」と大きなスローガンを掲げても、「自分一人で何ができるんだろう?」とわからなくなったり、「一人では大したことはできないだろう」と感じてしまうこともあると思います。まずは自分の体が喜ぶことをしているかどうかを、頭ではなく、自分の体に聞いてみるといいと思います。本当に自分の体に良いことであれば、すべての生命の母体である地球にとっても良いことなんですから。

    体が喜ぶ食べ物は、どんな環境から来るのかを考えてみてください。空気や水も同じです。山火事が起こって窓から煙が入ってくると、ふだん何気なく吸っている澄んだ空気が決して当たり前じゃないことに気づきます。濁った空気や水を毎日摂っていて、体に良いわけがないですよね。「必要不可欠な空気や水に影響を与えているのが私たち自身なら、今、自分にできることはなんだろう?」と考えてみるべきじゃないかと思うんです。

    山火事の煙の中の夕陽。夜、窓を開けて寝ていると煙の匂いが漂ってきた。

     

    ーーたしかに病気で体に異常が起こると、健康の大切さに気づきますね。

    NANA――正常な気候といっても、私たち人間にとって都合のいい気候のことをさしているのかもしれませんね。さまざまな災害も、地球が全体のバランスを取る作用として起こしているのかもしれません。空気が熱せられて熱くなりすぎれば台風やハリケーンが、または一部のプレートに溜まり、それが解放されれば地震が起きる。それは地球にとってエネルギーの分散でも、そこに人間が住んでいると「災害」と呼ばれるわけです。だけど、海の生物がここ40年で半減したり、世界中の珊瑚の半分が死滅している現状を考えると、地球がバランスを取っているだけとは考えにくい。やはり、私たち人間の経済活動や生活環境が影響していない、とは言い切れないでしょう。

    超局所的な雨。まるで天使が雲の上からジョウロで水を注いでいるかのようだ。

    ――ネイティブの人たちが言うように「七世代先を考えて自然の声を聞く」ためにはどうしたらいいでしょう?

    NANA――次世代の人たちを「自分の子供」のように、本当に自分事として捉えられるのは、母親だと思います。ですから、ネイティブの人たちは、将来を見越した行動を決断する時には女性たちに聞くそうです。先の先の子供たちのことを考えられるのが女性だということは、性別に関係なく、女性性がサステイナブルな世界を考えるための鍵になると感じます。女性性を「受容性」や「共生観」と言い換えてもいいかもしれません。だから、七世代先を考えて自然の声を聞くには、男性も女性も、自分の中の女性性に目覚めることなんじゃないかと思います。

    ーー1万年以上続いた縄文の社会も母系的な文化だったと言われていますね。

    NANAーー女性原理は母系社会的で部族的な意識に繋がり、男性原理はシステム的な国家意識に繋がっているんじゃないかと思うんです。共生意識と支配意識と言い換えられるかもしれません。何かを支配して奪い取るだけでは、永続的に続けられないでしょう。人間は一人では生きていけないし、自然がなければ生きられない。「人類はやっと気づき始めた」と言う人もいるけど、私はそれは嘘だと思います。そんなことはもう、大昔から人間は知っていて、ただ、今になって、「一つの国や地域を超えてグローバルに行動を起こしていかなければならない時が来た」と、多くの人がやっと感じ始めたような気がします。

    七世代先を考えて自然の声を聞くためには、遠い未来のことではなく、今、自分が吸っている空気、飲んでいる水、食べている物がどこから来て、それが本当に健康なものなのかを意識することから始まるんじゃないかと思います。生命を大切にする女性原理、部族意識、共生意識を持って生きることが、結果として、七世代先の子どもたちが生きる世界につながっていくと思います。

    「共生」とは、遠い未来に生きる子供たちとも分かち合うこと。ツジグット遺跡から見る風景は、そう思わせてくれる。

    ――まさにそれはSDGs(持続可能な開発目標)にもつながることですね。どんなことでも、他人事ではなく自分の事として考えることが大切なんですね。

    NANA――そうですね。長期的で広い視野を持って、自分と世界との繋がりを見る、ということだと思います。私たちを母なる大地、マザーアースが育んでくれていることを常に心に思って感謝すること。ネイティブの人たちは、自分たちは自然の中ですべての命と共存していることを常に心に留めて、感謝の祈りを捧げてきましたが、それは自然の中で生き残って行くための心構えでもあったと思います。そう考えると、共生共存は、今生きている私たちだけのことではなく、未来の子供たちとの分かち合いでもあるんです。

    セドナのハイキングトレイルの入り口には「私たちは生きています! 踏まないで!」と書かれた標識があります。それはセドナの大地に生きる苔の一種を指しているんです。セドナの乾燥しきった赤い砂のような土には、所々に黒いポチポチが見えるところがありますが、実は水分を待っている苔で、とても苔には見えないので注意書きがあるんです。乾季には黒い点々にしか見えなくても、水をかけると一瞬でモコモコしてきます。言ってみれば、何十年もかけて微生物たちが育てた畑のようなもので、そこに植物が生えてほんの少しの陰を作ると、また苔が生えて、そこにまた植物や灌木が生えてくるという命の循環が生まれます。自然を観ていると、「共生はこういうことなんだなあ」と感じることがよくあります。

    乾燥していると土の一部にしか見えないが、水をかけると瞬時に膨れ、苔だとわかる。

    NANAーー乾燥した場所に生えるサボテンも、わずかな水分で育ち、緑色の茎節の部分や実の中に水分を蓄えています。トゲトゲで身を守っているにも関わらず、その棘をもろともしない動物たちの貴重な食料になり、ネイティブの人たちもサボテンの実や果肉の部分の棘をとって食べていました。

    乾燥した場所に生えるサボテンも、わずかな水分で育ち、緑色の茎節の部分や実の中に水分を蓄えています。

    NANAーーセドナよりも標高が低いフェニックスなどの乾燥地帯では、背の高い木は野生では生えず、標高1000m以下だけで育つサワロカクタスという、よく西部劇に出てくる巨大なサボテンがあります。そのサボテンが多くの鳥や動物が巣を作る場所になっているんです。アリゾナのような乾燥地帯で植物が育つのは大変なことで、必要以上に木を伐ったりするのは、自分たちが生き残れなくなることに繋がります。雨が多い日本やアジアの国や熱帯雨林では、どんどん草や木が伸びるので、逆に伐採が進んでしまったのかもしれません。

    アリゾナの過酷な環境にいると、ホピ族の伝承で「人間は豊かになると神への感謝を忘れてしまうから、自分たちは神への感謝をしなければ生きていかれないような土地に導かれた」と言うのも、よくわかります。そして、この世界を護っているとされるマサウ(神の意志を伝える大精霊)が「母なる大地を大切にお世話をすれば、母なる大地も私たちを護り、必要なものはすべて与えてくれる。それだけが、私の掟だ」と人々に告げたと言われていることを思い出します。

    セドナには川が流れていますが、川に近い場所とレッドロックの岩山では全く植生も住む生き物も違います。コントラストが激しい自然で生きる生き物たちを間近で観ていると、他の生き物たちと共に、母なる大地で「共生共存」することの大切さを実感させられます。

    ーー厳しい自然では、生命同士がつながっていないと生きられないんですね。

    NANAーー日本にいても同じだと思いますが、豊かな自然に守られた環境にいると、逆に意識して自然の声を聞こうとしないと忘れがちになるかもしれませんね。だけど、日本人は昔から自然に親しんで、素晴らしい俳句や歌なども残してきたでしょう。日々、自然の声に心を傾けて、自分もその自然に帰属しているということを感じていたと思います。結局、私たちは自然に帰着していく。私は、写真を通してそんな自然からのメッセージを伝えていきたいと思います。山火事をきっかけとして、改めてそう感じました。

    ホピの預言では、希望あふれる世界も、絶望的な世界も、人間はどちらの世界も創れ、私たちが取る行動次第で世界が変わる可能性が示されています。私たち一人一人が、自分がどんな世界で生きていきたいかと考えるときに、自然の声を感じて、体と心に自然の感覚を取り戻し、母なる大地と調和を持って謙虚に生きることは、とても大切だと思います。

    ホピの村を訪ねた帰り道、幻想的な虹が出た。ミラクルはきっと起きる。

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     NANA プロフィール 

    東京生まれ。高校卒業後、スウェーデンに渡り、美術学校へ。その後、ストックホルム大学で、スウェーデン語と民族学を学ぶ。帰国後、アメリカ人と結婚し、アメリカ、アリゾナ州セドナに移り住む。セドナの自然を案内しながら、セドナ、そして北アリゾナの自然を撮り続けている。その他、ウエディング写真、ホームページ用写真、記念写真の撮影も行いながら、大自然の美しさを通して、命の尊さを伝えたいと想っている。写心(写真)家・ガイドの他に、誘導瞑想、エネルギーワーク、地元のサイキックなどのセッションの通訳、そして自らもヒューマンデザイン・リーディングというセッションを行う。

    NanaさんのHPは、sedonana.com  

    インスタグラムは、sedonanaworld

    写真/NANA

    構成/ 尾崎 靖(エディトリアル・ディレクター)

     

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