ホップとクラフトビールで福島の都路に人を呼び戻せ! ホップジャパンの挑戦 | BE-PAL

ホップとクラフトビールで福島の都路に人を呼び戻せ! ホップジャパンの挑戦

2021.07.28

左から、地場産のライ麦を使ったIPA「Abukuma RED」、小麦の「Hop Japan White」、セッションIPA「Hop Japan IPA」、ヘイジーペールエール「Abukuma GOLD」、ローストした麦芽を使用したIPA「Abukuma BLACK」。

地域に根づいたクラフトブルワリーを紹介するシリーズ。第15回は福島県田村市のホップジャパン。福島第一原子力発電所の事故後、避難指示区域に指定された町に残されたグリーンパーク都路(みやこじ)に、ホップ畑とブルワリーを開いた本間誠さんにインタビューした。

 クラフトビールで起業するなら第1次産業だ

その施設は町のお荷物だったそうだ。キャンプ場をメインとした一大アウトドア施設「グリーンパーク都路」は震災前から赤字続きだった。

20113月、福島第一原子力発電所から30km圏内の都路町に避難指示が出た。20144月。指示は3年ぶりに解除されたが、町に戻る人は少なかった。グリーンパーク都路に遊びに来る人などいない。7年が経って今、ここでホップが生産され、クラフトブルワリーが稼動している。

ホップジャパンはその名のとおり、ホップの生産を事業の柱にした会社だ。代表の本間さんは元東北電力の社員。50歳を前にアメリカ・シアトルへ旅をして、クラフトビールの魅力に取り憑かれて帰国すると会社を退職、クラフトビールで起業することにした。2015年のことだ。

「すでにクラフトビールのお店やブルワリーはたくさんありましたから」

同じことを始めても商機はないと冷静に判断。50歳を前に起業するのだ。クラフトビール業界全体を俯瞰してビジネスの芽を探した。

「ふつうクラフトビールをやろうとなると、第3次産業(ビアバーの経営)から入る人が多い。その次に第2次産業(ビール製造)に進む。第1次のところは、だれも手をつけていないんですよ」

ホップジャパンの代表、本間誠さん。日本産ホップを盛り上げるキーパーソンでもある。

 ホップは今でも北海道や岩手県、山形県、宮城県などで栽培されているが、その収量はわずかだ。1970年代までは、国産のビールには国産ホップを使われていたのだが、どんどん海外産に切り替えられた。安く、大量に仕入れられたからだ.現在、国産ホップの使用量は全盛期の1割にも満たないという。その収穫のほとんどを、大手ビールメーカーが買い付けている。それによって国産ホップは何とか生き残っているが、ホップ農家は後継者も少ない。

その一方、国産ホップを使いたいというクラフトブルワリーは増えている。しかし、小さな独立系ブルワリーがホップ農家から自由に買い付けることはむずかしい。本間さんはここに商機を見つけた。大手ビールメーカーとは別の販売ルートを持った国産ホップを生産すること。

本間さんが起業したのは、福島ではなく仙台だった。本間さんの地元、山形県では今もホップを生産している。だが、先述のようにホップ農家の取引先は大手ビールメーカーである。それでも、このままでいいのかと問題意識を持っていたホップ農家の担い手が、国産ホップの将来を語る本間さんに力を貸してくれた。

「そうか、ホップはクラフトビールで注目されているのか」

農業経験のない本間さんに、ホップの栽培方法を一から教えてくれた。

人の来ない公営キャンプ場でブルワリー?

本間さんは山形県やお隣の宮城県でホップ農家を育てて販路を開拓……そんな事業計画を描いていた。しかし福島県の金融機関が出資する「福活ファンド」事業に選ばれたことを機に、福島県に移転した。

どうせやるならホップだけじゃなくクラフトブルワリーもつくってくれ。ビールも売ってくれ。それが市や復興庁からの希望だった。場所も斡旋してくれた。それが田村市のグリーンパーク都路だ。広大な高原。阿武隈山脈を見晴らす豊かな自然。ホップを作る土地もいくらでもある。しかし、原発事故から4年。避難指示区域が解除されてから1年。

「正直、迷いましたね」と本間さんは振り返る。以前から閑古鳥が鳴いていた公営キャンプ場である。「山の奥だし、本当に人が来るのかなと」。それでも、「せっかくやるなら社会が活気づくような何かをやりたいという気持ちもあり、思い切って飛び込みました」

もともとホップ栽培という第1次産業を軸に起業した本間さんだが、ブルワリー(第2次産業)、ビールの販売(第3次産業)と、事業はいきなり6次化することになった。

阿武隈高原で始まったホップジャパンのホップ畑。

202011月、ホップジャパンのブルワリーがオープンした。本間さんがグリーンパーク都路に拠点を移してから、実に足かけ5年がかかった。土地の問題、資金の問題……、難産だったようだ。

現在、ホップを栽培しているのは農家の人ではない。田村市の元副市長である。

田村市も1970年代ころまでホップの生産地だった。前述のとおり、その後、国産ホップは衰退の一途をたどる。身を以てそれを経験した農家に、今またホップを栽培しませんかと持ちかけるのはむずかしい話だった。田村市の元副市長は、ホップジャパンの計画に当初から賛意を示していた。大のクラフトビールファンということもあり、自らひと肌脱いでくれたそうだ。さらにその人脈で、今では3名がホップを栽培している。

自家栽培したホップを使うクラフトブルワリーは年々、増えている。ホップジャパンでは田村産生ホップ100%使用の「Abukuma GREEN」を造っている。収穫したホップを即日、冷凍して保存し、ほぼ通年製造されている。夏の収穫直後には、冷凍しない生ホップを使ったビール「Abukuma Fresh 」が造られる。摘みたてのホップ、造りたてのビール。クラフトファンにはたまらない。田村市では大麦、小麦も生産している。本間さんはいつか、原料オール福島のビールを造ろうと思っている。

信州早生、かいこがね、ソラチエース、カスケード、マグナム、ナゲットなどのホップを栽培中。オンラインショップで購入できる。

ゼロ次化を目指すブルワリーと町の循環型モデル

もともとホップ生産が軸だった事業が、原料生産からビールの販売まで広がり、すでに6次産業化を実現しているホップジャパン。この先は、ビール製造から出る廃棄物をリサイクルすることで資源を無駄にしない循環型モデルを構想している。資源だけでない。人の流れ、町の物産が循環するモデルだ。本間さんはこれを6次化から「ゼロ次化」と呼んでいる。

醸造過程で出る大量のモルト滓。畑に撒くといい肥料になる。近くの牧場の牛たちのエサにもなる。都市部のブルワリーではお金を払って処理してもらわなくてはならない産業廃棄物が、ここでは有用な資源になる。

また、残ったビールのアルコールを利用した発電を福島大学と共同研究中だ。

「たとえば宴会会場などで大量にビールが余って廃棄されることがあります。そういうビールをわれわれで回収し、燃料として使う。発電量としては微々たるものかもしれませんが、そういうリユースをすることによって、ものを最後まで大切に使おうという意識が高まればいいなと思います」

グリーンパーク都路に来れば何かやっているね!

2021年春には、ホップジャパンはパーク内で使われなくなっていた宿泊施設を改修してロッジをオープンさせた。砕いた生ホップがふんだんに入ったホップ風呂が人気だ。ホップの香りにはリラックス効果があるといわれる。風呂上がりには新鮮なクラフトビールが飲める。

グリーンパーク都路のキャンプサイト。週末は予約が取れないほどの人気スポットに。

定期的に開かれるマルシェは町の人々でにぎわう。

長いこと閑散としていたキャンプ場も、ホップジャパンで運営を引き受けることになって復活した。今では福島県のキャンプ場の人気ベストテン入りするほどのにぎわいを見せる。

地元の農産品が集まるマルシェが自然発生的に開かれるようになり、今では第3日曜日に定期開催されている。ミニゴルフ大会やホップ収穫祭などのイベントも開かれるようになった。この7月にも、キャンプ場で地域のカフェが集まったイベントが開催されている。

「ここで獲れた小麦とホップの酵母をパン種にしたベーカリーの出店も計画中です。スペースはまだまだありますし、そういうお店や起業家が、ここに集まってくれるといいなと思っています。地域の方たちに、グリーンパーク都路に来れば、クラフトビールが飲めるだけじゃなくて何かやってるね、そんなふうに思ってもらえる場所にしたい」

いまだコロナ禍は去らないが、都路町へは着実に人が戻ってきている。

かつて町のお荷物扱いだった施設が、町の人たちが集まる場所に生まれ変わりつつある。そのきっかけになったのがホップ栽培であり、クラフトビールのブルワリーである。クラフトビールのもつ可能性は、本間さんが予想した以上に広がっている。

ホップ畑で収穫体験、その後できたてクラフトビールで乾杯。至福の時間。

福島県田村市都路町岩井沢北向185-6 グリーンパーク都路内
https://hopjapan.com

 

私が書きました!
ライター
佐藤恵菜
ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@ダイムやSuits womanでも仕事中。
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