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    2026.01.19

    歴史と文化が交錯する街——オクラホマ州タルサ【100周年を迎えるルート66の点と線・その4】

    歴史と文化が交錯する街——オクラホマ州タルサ【100周年を迎えるルート66の点と線・その4】
    名曲『ルート66』は「西に車で行くならルート66だよ」という歌詞(筆者訳)で始まります。しかし、このルートを地図で俯瞰すると、ひたすらにカリフォルニアへ向かって西へ、西へ、と一直線に向かっているわけではないことに気づきます。

    ルート66はシカゴを出発してからしばらくは南へと下り、イリノイ州をほぼ南北に縦断し、ミズーリ州に入ってから南西へと斜めに向きを変え、オクラホマ州を横断するころになって、はっきりと西方向への横向きになります。

    ただシカゴとロサンゼルスを繋ぐことだけがルート66の目的だったなら、もう少し北側に寄った直線コースを取ったでしょう。この遠回りには理由があります。

    ルート66が計画・制定された20世紀初頭のアメリカにおいて、オクラホマ州タルサはけっして素通りできない経済の要所だったのです。その結果、ルート66はタルサの中心部を横断することになり、現在の市内には多数の標識や関連スポットがあります。
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    ●前回はこちら

    映画『バグダッド・カフェ』の舞台を訪ねる【100周年を迎えるルート66の点と線・その3】 | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

    ルート66。ちょうど真ん中あたりにタルサがある。

    石油ブームと、もうひとつのウォールストリート

    オクラホマ州タルサは、石油によって急成長した街です。それもルート66が制定される直前の時期でした。1900年代初頭、それまで農業州だったオクラホマ周辺で油田が相次いで発見されると、突如として「世界の石油首都」と呼ばれるまでに変貌しました。

    タルサにも人と資本が流れ込みました。その繁栄ぶりは、今もこの街のダウンタウンに残るアールデコ建築群、そして市内を通る鉄道線路から想像することができます。

    タルサ市内中心部。

    2023年に公開された映画『Killers of the Flower Moon(キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン)』はこの時代のオクラホマで石油産業に群がる人々の姿を描いた作品です。マーティン・スコセッシが監督し、主演はレオナルド・ディカプリオ、共演はロバート・デ・ニーロという豪華なキャスティングにもかかわらず、興行成績はあまり振るいませんでした。3時間26分という長大な上映時間が敬遠されたのかもしれません。

    ■映画『Killers of the Flower Moo』公式予告編  

    つい最近、2025年11月に公開されたばかりの映画『Sarah’s Oil』もオクラホマ州での石油ブームを描いた作品です。主人公は実在の黒人女性サラ・レクターさん。先住民の子孫であったことから与えられた土地に石油が湧出し、レクターさんは11歳で大富豪になりました。1913年のことです。

    ■映画『Sarah’s Oil』公式予告編  

    石油ブームの時代、黒人たちは厳しい差別の中にありながらも、独自の経済圏を築き上げました。その中心だったのが、タルサ北部のグリーンウッド地区、通称「ブラック・ウォールストリート」です。銀行やホテル、新聞社、診療所が立ち並び、黒人による黒人のための街が確かに存在していました。

    全米でも例の少ない成功を収めたこの地区でしたが、1921年のタルサ人種虐殺事件によって壊滅します。武装した白人暴徒がグリーンウッド地区を襲い、数百人単位の死亡者を出しました。被害者のほとんどが黒人でした。アメリカ史上最悪とも言われる人種暴動事件です。

    グリーンウッド地区。

    現在、「グリーンウッド・ライジング記念館」が事件の歴史を伝えています。2021年に設立された、まだ真新しい建物です。

    マザーロードが紡ぐ文学とフォークソングの系譜

    オクラホマはその後も苦難の歴史が続きます。ルート66が制定された1926年にはまだ石油ブームは続いていましたが、1929年に始まった世界大恐慌とほぼ時期を同じくして、オクラホマの産油量は減少に転じ、石油価格の下落とともに投機的な石油ブームは終息していきました。1930年代に入ると、アメリカ中西部から南部一帯を襲った、「ダストボウル(砂嵐)」がさらに追い打ちをかけました。

    父祖から受け継いだ土地を失い、故郷を追われたオクラホマの人々が「約束された土地」と信じたカリフォルニアを目指す。そのための道路がルート66でした。ジョン・スタインベックは『怒りの葡萄』でこの道路を「マザーロード」と呼びました。

    オクラホマ出身のフォークシンガー、ウッディ・ガスリーは『怒りの葡萄』のストーリーを歌にしました。主人公トム・ジョードの名がタイトルです。

    同曲が収録されたアルバム『ダストボウル・バラッズ』は後世のミュージシャンたちに大きな影響を与えました。ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランもそのひとりです。2024年公開の映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』を観た人は、若きディランが晩年のガスリーを病院に訪れるシーンを記憶していると思います。

    ■映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』公式予告編

    ガスリーとディランの博物館がグリーンウッド・ライジング記念館のすぐ近くに並んで建っています。オクラホマとは縁もゆかりもないディランですが、ガスリーの隣ならと自身の博物館建設を了解したそうです。

    ちなみに「ザ・ボス」ことブルース・スプリングスティーンもガスリー、ディランの系譜に連なるミュージシャンです。1995年には『The Ghost of Tom Joad』(トム・ジョードの亡霊)というタイトルの、ガスリーに敬意を表したアルバムを発表しています。2025年公開映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』で描かれたアルバム『ネブラスカ』に続く、アコースティック・アルバムです。

    ■映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』公式予告編  

    現在でも、タルサという街を歩くと、アメリカの歴史が発する光と影が折り重なって見えてきます。繁栄と破壊、希望と怒り、その混沌のなかをルート66という道路が貫いている。そんな印象を受けます。

    タルサ市内のルート66関連スポット地図。

    大草原のなかのハートランド

    タルサの市街地から少し離れると、ルート66からの視界は一気に広がります。なだらかな起伏のある大草原がどこまでも続いています。グレートプレーンズ特有の広大な、そして穏やかな風景です。

    悲しみと怒りに満ちたタルサの歴史とは対照的に、時間の流れを緩やかに感じさせる大地です。アメリカのハートランドとも原風景とも呼べるでしょう。 カリフォルニアやニューメキシコの砂漠と比べると、緑が豊かなためでしょうか。癒される、と感じる人もいるかもしれません。

    タルサ郊外。

    2026年のルート66制定100周年に合わせて、タルサでも記念イベントが年間を通していくつも予定されています。そのための専用ウェブサイトまでできているくらいです。

    なかでもアウトドア愛好家向きのイベントかもしれないのは、2026年11月に行われる、その名もずばりのルート66マラソンです。大会ホームページには100周年のロゴも描かれています。

    もっとも、コース地図を見る限り、マラソンコースとルート66が重なるのはほんの一部のようなのですが、それはそれ、オクラホマの大地を自分の足で進み、空の広さや風の匂いを感じることができるはずです。

    角谷剛さん

    米国在住ライター(海外書き人クラブ)

    日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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