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宝石箱のような珊瑚礁

ツアモツ諸島は、南太平洋に浮かぶ環礁群で、「この美しさに恋をしない人はいない」。そう思えるほど、海の宝物を集めたような場所でした。数年かけても回りきれないほどの数があるため、今回私たちが3週間で巡ることができた環礁は、4つのみでしたが、ツアモツ諸島の美しさを体感することができました。



火山島で高い山があり、淡水にも恵まれたマルケサス諸島とは対照的に、ツアモツ諸島は常に水不足の不安を抱える土地です。私たちのような旅行者は、「この景色があれば何もいらない」と呑気なことをいっていられますが、この環境で生きていくことは決して簡単ではなさそうです。それでも、地球上にこれほど美しい場所が存在し、そこに人の営みがあることに、改めて驚かされます。

現在の主な産業は、観光業、真珠の養殖など。ランギロア環礁では、なんと世界で唯一、珊瑚由来の土壌で育った葡萄でワインの生産も行われています。珊瑚の島では想像以上に色々なことが可能なようです。


「危険な群島」と呼ばれた理由
ツアモツ諸島は、その昔「危険な群島(Dangerous Archipelago)」として船乗りたちに恐れられてきました。海面からわずかに隆起しているだけの環礁は、遠くからは視認しにくく、周囲には浅瀬や暗礁が無数に潜んでいます。海図が未発達だった時代、この海域を航海するには、卓越した航海技術とよほどの幸運が必要だったことが想像されます。
技術が大幅に発達した現在でも、この海域での航海は決して易しいものではありません。実際に、航行中は水中に潜む大型の珊瑚や浅瀬を見落とさないよう、潮位や太陽の角度を読みながら進み、まさに緊張の連続でした。
ここに比べれば、太平洋横断の大海原のほうが、よほど気が楽だったかもしれません。しかし、ひとたび錨を下ろせば、そこにはバリアリーフに守られた静かな世界が広がり、旅の苦労を一瞬で忘れさせてくれます。

海の上に道を示す冒険者
この危険な環礁群を正確に測量した最初の西洋人は、かの有名な海洋冒険家のジェームズ・クックでした。日本でいえば、伊能忠敬が精度の高い地図を後世に残したように、海の上でもまた、海図があって初めて「安全な道」が生まれます。それは、無数の船乗りたちの挑戦と失敗が積み重なって形づくられた、経験の結晶でもあります。
現在では、海図に加えてサテライト画像も使えたりと、航海の安全性はぐんと高まりました。自然の厳しさには変わりがなく、危険も多いヨット旅ですが、先の航海者たちへの感謝の気持ちを忘れずに海に向かいたいものです。

楽園に刻まれた影
現在の姿からは想像もつきませんが、ツアモツ諸島はかつて核実験の舞台となった歴史があります。ムルロア環礁とファンガタウファ環礁では、1966年から1996年にかけてフランス政府による核実験が190回以上も行われました。その結果、放射性降下物がフランス領ポリネシア全体に降り注ぎ、多くの住民が被曝し、今なお後遺症に苦しむ人もいます。
地球上で最も隔絶され、最も美しい場所のひとつでの暮らしが、核実験によって脅かされていたという事実。この美しい海を前にすると、その悲惨さに胸が締め付けられます。
さらに近年では、地球温暖化による海面上昇で、環礁そのものの存在にも影響が出始めています。一見この世の楽園のように思えるツアモツ諸島ですが、そこにはさまざまな影が刻まれています。過去は変えられませんが、これからの景色をどう守るかは、今を生きる私たちの選択に委ねられているのかもしれません。

ダイバー以外にはまだまだ知られざるツアモツ諸島ですが、海のそばで過ごすのが好きな方なら、その魅力にきっと心を奪われるはずです。私たちにとっても、ヨットで巡る旅の醍醐味を味わえた、忘れられない思い出のひとときとなりました。
それでは、また次回!







