私たちは大都市や有名観光地を巡るよりも、自然の中をゆっくりハイキングしながら、“歩きでしかたどりつけない絶景”を探しに行くことがメインの旅のスタイルです。そして改めて感じたのは、ヨーロッパは「歩かないと見えない景色」が本当に多いということ。
そこで今回は、2025年に実際に歩いたトレイルの中から「これは絶対に誰かとシェアしたい!」と心から思えた絶景トレイルを6つ厳選してご紹介します。
車中泊旅だからこそ見つけられた秘境トレイルから、人気のアルプストレッキング、雄大すぎる国の最高峰ルートまで、バリエーションはさまざま。難しいコースばかりではなく、初心者でも楽しめるスポットもたくさんあります。「いつか行ってみたい」と夢を膨らませながら、ぜひヨーロッパの大自然を一緒にのぞいてみてください。
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1. スペイン【ルタ・デル・カレス】

まるで異世界に迷い込んだかのような景色が広がっているのが、スペイン北部のRuta del Cares(ルタ・デル・カレス)です。ピコス・デ・エウロパ国立公園の深い渓谷を流れるカレス川に沿って続く全長約12kmのトレイルは、一歩足を踏み入れた瞬間から非日常のスケール感に圧倒されます。
もともとは山岳地帯で暮らす人々が、小さな村同士を行き来するために作られた、断崖絶壁の道。それが1915年頃、カレス川の水流を利用した水力発電所の建設が始まり、水路補修用の道として71個もの手彫りトンネルや水路などがつくられました。
現在では登山道として生まれ変わり、エメラルドグリーンに輝く川に沿って歩きながら、峡谷をつなぐ橋を渡ったり、岩の中に掘られた70以上のトンネルをくぐるなど、まるで冒険映画の一場面のようなアドベンチャー感を味わえます。

崖沿いの道が多いですが、幅はしっかりしていて危険箇所はほとんどなし。高低差もあまりなく、全体的にフラットで歩きやすいですが、往復約24kmもあり、なかなかの健脚者向けです。ポンセボ→カインのルートを歩く場合は、ゴールのカイン村から四輪駆動車を手配してスタート地点へ戻ることも可能です。
ルタ・デル・カレスは一度足を踏み入れたら、二度と忘れられない絶景が広がる、迫力満点のトレイルです。
2. スイス【ハーダーグラート(アウグストマットホルン)】

スイスのハーダーグラートは歩き出した瞬間から「なんてところに道が続いているんだろう!」と思わず何度も立ち止まってしまう、絶景の稜線トレイルです。スイス中部のインターラーケンにあるハイキングルートで、標高2,000m前後の尾根道が続き、周囲にはアルプスの名峰やターコイズブルーの湖が広がる、スイスで“最も美しい稜線トレイル”の一つとして知られています。
フル縦走すれば全長約25kmのロングコース。そのため、私たちはハーダークラム展望台からAugstmatthorn(アウグストマットホルン)山までの約12kmの短縮ルートを歩きました。
どこまでも続く尾根道を歩きながら、右手にはブリエンツ湖が色鮮やかに太陽にきらめき、左手には可愛らしいスイスの家々が点在するのどかな牧草地が広がり、気分はまるで「アルプスの少女ハイジ」!そしてさらに奥には、数多くの登山者の憧れとなっている名峰アイガー・ノルトヴァンド(北壁)がそびえ立ち、その迫力に思わず息をのみます。

アウグストマットホルンへのラストスパートは、岩場の急登を登り、少しドキドキするようなスリルもありますが、それ以外はとても歩きやすい道です。視界いっぱいに広がる絶景を楽しみながら進み、まるで空中散歩しているかのよう。どこまでも続く稜線を歩きながら、アルプスの雄大さとスイスらしい風景を楽しめる最高のトレイルです。
3. アルバニア【コラブ山】

アルバニアのMount Korab(コラブ山)は、これまで歩いてきたヨーロッパの観光用に整備された山とはまったく違い、「ここぞ、ヨーロッパの秘境だ!」と静かに胸が高鳴る場所でした。アルバニアと北マケドニアの国境上にそびえる標高2,764mの山で、両国の“最高峰”でもあります。かつては登頂に制限があり、年に一度だけしか登れない“レアな山”でした。しかし、今ではその規制もなくなり、両国のルートから自由に登れるようになり、訪れる登山者も少しずつ増えてきています。

それでもまだそれほど観光地化はされていないため、山が本来持つ荒々しさと静けさがそのまま残っていて、私たちが2025年に歩いた中でも特に“ワイルドさ”を感じたトレイルでした。
登山口は、アルバニア北東部のRadomirëという山間の小さな村からで、車でアクセスできるものの、かなり山奥に入るので、この先何があるのだろうか、とワクワクするような場所です。
登山道は往復16kmありますが、緩やかな登りで危険箇所もなく、比較的誰でも登りやすいルートとなっています。登山者も少なく、静けさの中、ダイナミックな山々に囲まれた道を進み、大自然のスケールを感じずにはいられません。ヨーロッパアルプスの“つくりこまれた絶景”ではなく、手つかずの自然とワイルドさを肌で感じられる貴重な体験でした。
4. ルーマニア【モルドベアヌ】

2025年に私たちが歩いた中で、最も長く、険しい道のりで記憶に深く刻まれたのがルーマニアのMoldoveanu(モルドベアヌ)でした。ファガラシュ山脈の奥深くに位置する標高2,544mの山で、ルーマニアの最高峰でもあります。険しい山々に囲まれたその頂上へ向かうには、累計標高差約3,000m、往復30kmの距離を2日間のテント泊で歩かなくてはならず、かなり挑戦的でした。

しかもこのエリアはクマの生息地として知られているため、その中でのワイルドキャンプはいつも以上に緊張感と冒険心が入り混じる貴重な体験となりました。

重いバックパックを背負いながら、どこまでも続く絶景の稜線を何時間も歩き、ようやく辿り着いた頂上は、言葉に言い表せないほどの達成感でいっぱい。ルーマニアのワイルドな絶景に囲まれながら、人の足でしか辿り着けない場所の壮大さを、全身で味わえる場所がモルドベアヌでした。自然の厳しさと美しさを同時に教えてくれた、まさに“忘れられない一座”です。
5. ポーランド/スロバキア【リスィ】

ポーランド南部とスロバキア北部の2カ国にまたがるタトラ山脈は、“東欧のアルプス”と称されており、スイスやイタリアのアルプスには届かないスケール感ながら、その美しさと荒々しさはまさに格別です。そんなタトラ山脈の中でも特に象徴的な山がRysy(リスィ)。両国の国境上に位置する標高2,499mの山で、ポーランドの最高峰でもあります。
ポーランド側のルートは長距離で、鎖やハシゴが続くかなりの難関コース。上級者向けのため、私たちは比較的登りやすく、人気の高いスロバキア側から登ることにしました。

Štrbské Plesoからスタートし、往復約18km、標高差約1,300m。中腹までは景色を楽しみながら歩けますが、終盤になると“アドベンチャー要素”満載のルートに一転します。ハシゴや鎖、ゴロゴロした岩場を進むスリル満点のルートになり、スリルたっぷりです。慎重さが求められる岩場もありますが、焦らず登れば十分進めます。そして、鋭い岩場を登り切った先にはポーランドとスロバキア両国のタトラの峰々が360度に広がる大パノラマが迎えてくれます。ポーランド側のエメラルドグリーンの湖「Czarny Staw pod Rysami」が一望でき、太陽の光が当たるたびに湖がキラキラと輝き、山とのコントラストがなんとも幻想的です。

その眺めは、アルプスの壮観とはまた違う風格を持っていて、「東欧の隠れたアルプス」の魅力を強く感じさせてくれます。リスィは冒険心と自然の美しさを同時に体感でき、山好きなら一度は挑戦したくなる場所です。
6. フランス【ラック・デュ・ポンテ】

フランスアルプスと言えば、名峰モンブランのあるシャモニーやアヌシーといった有名観光地を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?しかし、そのような人気のスポットでは、夏のハイシーズンには人であふれかえり、景色よりもにぎやかさが先立ってしまうことも。
そこでおすすめなのが、こちらの穴場の湖「Lac du Pontet(ラック・デュ・ポンテ)」です。フランス南東部、エクラン国立公園内の小さな村Villar-d’Arène(ヴィラール・ダレーヌ)近くに位置し、湖の標高はおよそ1,980m。周囲には3,000〜4,000m級の峰がいくつも連なり、“アルプスらしさ”を全身で味わえるエリアになります。

湖までのアクセスはとても簡単で、片道1時間ほど。放牧された羊や牛たちがのんびりと草を食べている横を進みながら、なんとものどかな景色を堪能。カウベルのやさしい音が響き渡る中、心がふっとほどけるような癒しのひとときを過ごせます。
湖に到着すれば、雄大なアルプスの山々を一望することができ、風がピタリと止む瞬間を狙えば、まるで鏡のように山々の稜線が映し出される見事な「逆さアルプス」を見ることもできます。幻想的な光景に息を呑むほどです。

アクセスもしやすく、それでいてまだ多くの人に知られていないこの湖は、まさに“隠れ絶景”!知る人ぞ知る穴場の湖、ラック・デュ・ポンテで美しいアルプスを体感してみてください。
まだ見ぬヨーロッパの絶景を求めて!旅はまだまだ続きます
ヨーロッパには、まだまだガイドブックには載っていない美しいトレイルが無数に広がっています。そこには、日本では出会えないような壮大な景色や、歩いた者だけが味わえる特別な体験が待っています。
私たちはこれからも、キャンピングカーでヨーロッパを巡りながら、隠された絶景や知られざるトレイルを探し続け、シェアしていく予定です。次はどんな景色に出会えるのか、私たちの旅の続きも、ぜひ楽しみにしていてください。












