
一度足を踏み入れたら、二度と忘れられない絶景が広がる、迫力満点のトレイルと、歩く者を魅了する風景の数々をお届けします。険しい峡谷に沿った道を進みながら、岩山に掘られたトンネルや橋を渡る、冒険心をくすぐるトレイルに挑戦してみませんか?
スペインの知られざる登山パラダイス:ピコス・デ・エウロパ国立公園

ピコス・デ・エウロパ国立公園は、ハイキングや登山に最適なスペインの自然保護区です。
私たち夫婦は、2年以上にわたってキャンピングカーでヨーロッパを旅し、各国を巡りながら70を超えるトレッキングに挑戦してきました。数々の絶景に出会ってきた中でも、特に印象深く、唯一無二の美しさを誇るのが、今回紹介する「ルタ・デル・カレス」です。
ピコス・デ・エウロパのルタ・デル・カレスはこんな場所!
ピコス・デ・エウロパ国立公園は、スペイン北部に位置し、「ヨーロッパのピーク」という意味を持ちます。アストゥリアス州、カンタブリア州、レオン州の3つの州にまたがる広大な山岳地帯です。標高2,600mを超える鋭い山々が連なり、初心者から上級者まで楽しめる多彩なコースが揃い、登山とハイキングの聖地として世界中のアウトドア愛好者に親しまれています。
そんなピコス・デ・エウロパの中で、最も美しいハイキングコースと称されているのが、Ruta del Cares(ルタ・デル・カレス)です。深い渓谷を流れるカレス川に沿って続くこのトレイルでは、峡谷をつなぐ橋を渡ったり、岩の中に掘られた70以上のトンネルをくぐるなど、まるで冒険映画の一場面のようなアドベンチャー感を味わえます。
コースの基本情報

ゴツゴツした岩肌むき出しのコースを歩き、わくわくが止まらない!
ルタ・デル・カレスは往復約24km、所要時間は7〜8時間。標高差は300mほどで、平坦な道が多く初心者でも挑戦しやすいコースです。ただし、一部の崖道や岩壁沿いの道は少しスリリングなので、高い所が苦手な人は注意が必要になります。
通常の往復ルートは24kmにも及び、なかなかの体力が必要です。そこで、体力に自信のない方や、時間を節約したい方におすすめなのが、ゴールのカイン村まで片道のみを歩き、そこから四輪駆動車を手配して戻る方法です。料金は1人40ユーロ(約6,400円)で、長い距離を歩かず、魅力的な風景と冒険感を存分に味わうことができます。
ルタ・デル・カレスへのアクセス「滞在はラス・アレーナスがおすすめ!」

ラス・アレーナスの町は小さいながらも宿泊施設やレストラン、お土産ショップ、スーパー、コインランドリーと施設が充実しているので、滞在に便利です。
ルタ・デル・カレスのスタート地点は、ポンセボスからになります。深い渓谷の小さな村で、駐車場の数にも限りがあるため、そこから車で10分のラス・アレーナスの町をベースにするのがおすすめです。トレイルのスタート地点へ向かうシャトルバスも運行しており、大きな駐車場や宿泊施設も豊富にあり、快適に滞在ができます。
ルタ・デル・カレスのハイキングスタート

透き通った川沿いを歩きながら、どんどん峡谷の奥へと進んでいきます。
出発地点は、ポンセボスのカイン川に沿って続く一本道からです。周囲は深い峡谷になっているため、早朝に霧が発生しやすく、薄い白いベールが岩肌を包み込み、なんとも幻想的な雰囲気を生み出していました。

出発地点のポンセボスの駐車場。すぐ満車になるので、早めに到着するのがおすすめ!
私たちは、1月の冬の時期に訪れたため、他の登山者はほとんどおらず、静まり返った峡谷の中をゆったりと歩くことができました。夏のハイシーズンには観光客で賑わい、コースに渋滞ができるほど混雑するので、落ち着いて自然を存分に楽しみたい方には、オフシーズンの平日が最適な時期です。

他の登山者も少なく、写真撮影には絶好のスポットでした。
最初の約45分間だけに緩やかな登りがありますが、その箇所を過ぎれば残りはほぼ平坦な道が続き、ゆっくりと景色を楽しみながら歩くことができます。周りは切り立った岩山と絶壁に囲まれ、足を止めて見惚れてしまうほどの美しさです。

どこを向いても絶景に囲まれ、感動が止まらない!
進むにつれて峡谷はどんどん狭まり、ルートも次第に険しくなります。手掘りのトンネルや岩壁を削って作られた道を通りながら、片側には深い川の断崖絶壁が広がり、アドベンチャー感が満載です。高い断崖沿いを歩く場面も多いですが、道幅は広く整備されており、慎重に歩けば誰でも安全にハイキングを楽しめます。

進むたびに、まるで別世界に迷い込んだかのような景色が広がります。

ゴツゴツした手掘りのトンネルをいくつも通り、探検心を掻き立てるコースです。
この地域は、野生のヤギが多く生息しており、ハイキング中にいくつもの群れを目にすることができました。特に、子ヤギが断崖絶壁の端を跳ね回る姿は、とても愛らしく、そんな光景を楽しみながら、贅沢なハイキングのひとときを過ごすことができます。

途中で見つけたヤギの親子。子ヤギが私たちに向かって「メーメー」と鳴いて、とても可愛かった!
歴史と自然が交差するハイキング

1915年頃につくられた古いトンネルが今も残り、過去の痕跡を感じながら歩くことができます。
ルタ・デル・カレスは素晴らしい景観だけでなく、歴史的背景も残す魅力的なトレイルです。1915年頃、カレス川の水流を利用した水力発電所の建設が始まり、岩壁を削って水道管やトンネルを掘る作業が行われました。この工事の過程で、71個のトンネルが作られ、その中には水路も通されました。当時はこの水路を利用して、物資の輸送や人々の移動にも使われており、発電所建設を支える重要な役割を果たしていたのです。

ルートを通る水路。こんな険しい山道にあるなんて驚きです。
現在では、ハイキングコースとして観光地化され、トンネル道と水路の痕跡を見ながら、当時の技術者たちの努力や山岳地帯での人々の生活の一端を感じることができます。
ゴールの「カインの村」でゆったり休憩

ロス・レベコス橋。橋を渡るときはスリル満点!
ハイキングの終盤に差し掛かると、標高が徐々に下がり、川が近づいてきます。このコースで最も有名なロス・レベコス橋を渡ると、水力発電所に向かう道が続き、長い岩掘りトンネルを通ります。トンネル内には、自然光を取り入れるための穴がいくつか開いていますが、距離が長く、内部は暗く湿っているため、懐中電灯を持参するのがおすすめです。

トンネル内は足元が滑りやすく、天井も低いので注意が必要です。
最後のトンネルを抜けると、カイン川の上流に到着し、ゴール地点となるカインの小さな村が見えてきます。景色を堪能しながらゆっくり歩いて約3時間半かかりました。

ゴールのカインに到着です。ここで休憩してから元来た道を戻ります。
美しい山々に囲まれたこの村には、地元のマーケットやレストラン、宿泊施設があり、ハイキングの後に休息するには最適な場所です。
ここでは、送迎車を利用して出発地点のポンセボスへ戻ることもできますし、同じルートを再び歩いて戻ることもできます。道のりは結構長いですが、往路では見逃してしまった風景や、時間帯によって峡谷に差し込む光の具合が変わり、同じ場所でも全く違った表情を見せてくれます。新たな感動を味わえるので、歩いて戻るのもとてもおすすめです。
ルタ・デル・カレスの景色は何度見ても飽きることはなく、何度でも足を運びたくなる、まさに人々を魅了するトレイルです。もしスペインを訪れる機会があれば、ぜひこの自然の驚異を体感できる冒険に挑戦してみてください。
