今回挑むのは、ポーランドの最高峰!スロバキアとの国境にそびえる標高2,499mのリスィ山は、日帰りで登れるものの、岩場や鎖場が続く中級者向けの山。しかし、登り切った先には、青い湖と鋭い岩稜が織りなす絶景の連続が待ち受けていました。タトラ山脈の美しい景色と共に、1日の登山レポートをお届けします。
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ポーランドの最高峰「Rysy(リスィ)」とは?

ポーランドの南端、スロバキアとの国境に連なるタトラ山脈は、中央ヨーロッパ屈指の名峰地帯として知られています。豊かな自然と澄んだ湖、美しい高山植物が魅力で、四季を通じてハイカーや写真家たちに愛されています。その中でもひときわ人気を集めているのが、ポーランドで最も高い山、標高2,499mのRysy(リスィ)です。
山頂はポーランドとスロバキアの国境線上にあり、その両国の登山ルートからアクセスが可能です。ポーランド側からのルートはMoskie Okoの駐車場からスタートで、往復約26km、標高差約1,600mとかなりのロングコース。鎖場やハシゴが連続する箇所もあり、難易度も高く、上級者向けのコースになります。
一方、スロバキア側は、Štrbské Plesoからスタートし、往復約18km、標高差約1,300m。鎖場やハシゴがあるものの、ポーランド側と比べると距離も短く比較的登りやすい、中級者向けのコースとなっています。登山口へのアクセスも良好なことから多くの登山者が利用する人気のコースです。
今回私たちはこのスロバキア側からのルートで登ることにしました。「比較的登りやすい」とはいえ、油断は禁物。急な岩場や滑りやすい箇所も多く、しっかりした登山靴とヘルメットといった装備をしっかり整え、気を引き締めて登っていきます。
森を抜け、湖をめぐり、”ポーランドのてっぺん”を目指してスタート!

登山のスタートはŠtrbské Plesoという美しいリゾート地です。スキー場の他、ホテルやレストランも並び、1年を通して観光客の姿も多く見られます。

今回はホテルの駐車場にキャンピングカーを停めましたが、1日20ユーロとちょっとお高め。けれど、このエリアではここが最安値。朝からしっかり整備された駐車場に車を置ける安心感には代えがたいものがあります。

序盤は静かな森林の中を進む穏やかなトレイル。木々の間から差し込む朝の光が心地よく、道もよく整備されていて歩きやすいです。
しばらく進むと、美しい山上湖”Popradské Pleso”へと続く道に差し掛かります。湖畔には山小屋やレストランが充実していますが、そこへ行くには少し寄り道になってしまい、今回は時間を優先してそのまま先へ進むことにしました。時間がある方は、下山時に行ってみるのがおすすめです。

湖を過ぎたところで、登山道脇にたくさんのガスボンベや燃料タンク、食料などの物資箱が積まれているのを発見。気になって看板を読んでみると、なんと標高2,250m地点の山小屋まで、物資を人力で運ぶボランティアを募集中とのこと。自分のリュックだけでも十分重いのに、ここにある荷物は10kgどころか、軽く30kgを超えそうなものばかり。

登っていくうちに、実際にその荷を背負って登る人たちと何人もすれ違いました(中には女性の姿も!)。背中に巨大な荷をくくりつけ、汗を流しながらも笑顔で登っていく姿は本当に逞しく、頭が下がります。こうした人たちのおかげで、山小屋の運営が成り立っているんですね。


さらに進んでいくと、標高を上げるごとに森が途切れ、視界が一気に開けてきます。振り返ると、遠くにタトラ山脈の鋭い峰々が連なって見え、その景色に思わず立ち止まって写真を撮らずにはいられません。

さらに登ると湖が姿を現しました。このルートの魅力のひとつは、こうして次々現れる美しい湖たち。岩と湖のコントラストを楽しみながら、少し休憩。この先はいよいよ鎖場の始まりなので、気を引き締めて進んでいきます。
スリル満点の鎖場を超えて待っていたのは、山頂からのご褒美絶景!

湖を過ぎたあたりから、登山道はいよいよ本格的な岩場に突入。標高が上がるにつれて風も冷たくなり、空には少しずつガスがかかってしまい、せっかくの景色が白い霧に包まれてしまいました。登山ではこうした天気の変化もよくあること。「きっとそのうち晴れるよ!」と気を取り直して進んでいきます。

そんな中、前方にうっすらと見えてきたのが、このルートの最大の難所、急な岩壁に取り付けられた鎖場とハシゴの区間です。ここでは混雑を避けるために上りと下りのルートが分かれているものの、人気の山だけあってすれ違いも多く、無視して上りルートから下ってくる人もいたりでちょっとぐちゃぐちゃしています。緊張感が走る中、両手を使って一歩一歩慎重に進みます。

10分ほどで鎖場を抜け、階段上になっている岩場をさらに進めば、「Chata Pod Rysy」という山小屋に到着します。ここでは宿泊のほか、トイレや軽食、レストランも完備されているので、休憩に最適です。暖かい小屋内で一休みし、エネルギーを補給したら、いよいよ最後のアタックへ向かいます。


山小屋を出ると、頂上までは約1時間。ここから先は、急な岩場が続き、「スクランブリング」と呼ばれる、両手両足を使って岩をよじ登るルートになります。頭上から小石が転がってくることもあるので、ヘルメットの着用が推奨されています。

途中には「ヒール禁止!」の看板が現れ、なんともユーモアたっぷりで思わず笑ってしまいました。しかし、実際に登山客の中には街歩きのような格好の人もちらほら。人気の山だけに、観光感覚で登ってくる人も少なくないようです。

岩場の箇所は手の置き場もしっかりあり、注意して登ればそこまで難しくありませんが、人が多いのが最大の難関。登山経験のない人も多く、前の人が滑り落ちてこないかと、ヒヤヒヤする場面もありました。


そんな中でも焦らず、慎重に手足を使いながら少しずつ高度を稼いでいき、ようやくポーランドの最高峰・リスィ山の頂上に到着!

到着のタイミングでガスが徐々に晴れ、青空がのぞきはじめました。スロバキア側とポーランド側、どちらの景色も360°のパノラマで広がり、思わず息をのみます。山頂は思った以上に狭く、鋭い岩の上に人がひしめき合った状態で、立っているのもやっと。西にも、東にも峰々が続いており、スリルたっぷりです。記念撮影をする人々で混み合っていて少し危なそうなので、私たちは早々に登頂の写真を撮り、少し北側の岩峰へと移動しました。
そして移動して大正解!そこは人も少なく、まさに絶景の穴場スポット。眼下にはポーランド側のエメラルドグリーンの湖「Czarny Staw pod Rysami」が一望でき、太陽の光が当たるたびに湖がキラキラと輝き、山とのコントラストがなんとも幻想的です。

岩の上に腰を下ろし、持ってきたサンドイッチでゆっくりと景色を楽しみながらランチタイム。ポーランドとスロバキア、2つの国をまたいで味わう達成感と、景色に胸がいっぱいになりました。

登ってわかったリスィ山の魅力!

下山は上りと同じルートをたどり、往復でおよそ8時間半かかりました。
リスィは日帰りでも楽しめる山ですが、鎖場や岩場といったスリリングなポイントも多く、やはり登山経験者向けになります。装備をしっかり整え、天気を見極めて挑めば、その先には最高のご褒美が待っています。タトラ山脈には、これまで歩いてきたアルプスの山々とはまた違う“何か”がありました。どこか素朴で、野性味がありながらも繊細な美しさを感じさせる場所でした。
キャンピングカーでヨーロッパ各国の最高峰を巡る私たちの挑戦は、まだまだ続きます。次はどんな山が待っているのか、次回も素敵な山のレポートをお届けしますので、どうぞお楽しみに!








