
ある日、ふと「どうせなら“ヨーロッパ各国の一番高い山”を狙ってみるのはどうだろうか?」そんな思いつきから始まったのが、私たちの“最高峰チャレンジ”です。体力やレベルに合わせて少しずつ挑戦を重ね、これまで9座の登頂に成功してきました。
そして今回挑むのは、ドイツの最高峰、Zugspitze。選んだルートは、Via Ferrata(鉄の道)と呼ばれる固定ロープやワイヤーを通る本格的なコースです。険しい岩場を登って、何時間もかけてようやくたどり着いた頂上。そこに広がっていたのは、雄大なアルプスの風景…ではなく、想像もしなかった、“まさかの光景”だったのです。
ドイツの最高峰「Zugspitze(ツークシュピッツェ)」とは?
ドイツは、全体的に広大な森やのどかな丘陵地が多く、そこまで高い山はありません。しかし、そんなドイツにもれっきとした”最高峰”が存在します。それが、標高2,962mの、Zugspitze(ツークシュピッツェ)です。
ドイツ南部・BayerischeアルプスのWetterstein山脈に位置し、山頂からは、晴れた日には400以上の山々を一望できる、まさに「ドイツの屋根」と呼ぶにふさわしい絶景が広がります。山頂はドイツとオーストリアの国境にまたがっており、その両国からロープウェイを利用して頂上まで簡単にアクセスすることができるため、登山者だけでなく観光客にも人気のスポットになっています。
【アクセス方法】歩かずお手軽観光で頂上へ!

①ドイツ側からロープウェイで頂上へ
ドイツのEibsee湖のほとりにある、Seilbahn Zugspitze駅からロープウェイを利用して登ることができます。所要時間は10分ほどで、標高約1,000mから山頂までダイナミックな景色を楽しめます。
- 料金:大人(往復)75€(約12,800円)、片道 44€(約7,500円)
②オーストリア側からロープウェイで頂上へ
オーストリアのEhrwaldからは、Tiroler Zugspitzbahnと呼ばれるロープウェイで山頂へアクセスできます。所要時間は10分ほどで、標高1,225mから一気に標高2,962mまでラクラク登ることができます。
- 料金:大人(往復)63.50€(約10,800円)、片道 41.50€(約7,000円)
※1€=171円計算(2025年8月17日時点)
【登山ルート】自分の足で登って頂上へ
ツークシュピッツェは、ロープウェイを使えば一気に山頂まで行ける“お手軽観光地”としても知られています。でも“最高峰チャレンジ”なのに、それじゃあ「登った」とは言えない!ということで、あえて登山ルートを選び、自分の足で頂上を目指すことにしました。
山頂を目指すルートはいくつかありますが、どれも険しい岩場を通る中〜上級者向けのルートで、体力、経験、装備が必要になります。その中から今回選んだのは、オーストリア側のEhrwaldからのルートで、標高差は大きいものの、距離が短く、比較的のぼりやすいルートです。とはいえ、途中にはVia Ferrataと呼ばれる専用装備を使った、鉄のはしごやワイヤーロープを通る箇所があり、なかなかハードルが高く、決して侮れません。
距離は片道6km、標高差1,700m、所要時間は約5~6時間ほど。頂上まで歩いて登って、下りはロープウェイを利用する行程になります。
ドイツの最高峰へ向けて、いざ出発!

登山のスタート地点は、オーストリア・EhrwaldにあるTiroler Zugspitzbahnのロープウェイ駅。ここには広々とした駐車場があり、料金は1日5€(約850円)とお手頃で、周囲にはホテルやレストランもあり、登山者の拠点としても使いやすい場所です。

開始直後は、車も通るような幅の広い砂利道を進みます。ただ、傾斜は見た目以上にきつく、序盤から足を使わされる感覚で、息も上がってしまい少し焦ります。

やがて道は本格的な登山道へと変わり、森林限界を超え、一気に視界が開けてきます。

どこまでも続く青空の中、目の前に広がるのは白とグレーの岩肌、そして足元には大小の石がゴロゴロと転がる滑りやすいトレイル。このあたりから、落石のリスクがあるエリアに入ったようで、周囲の登山者たちが次々にヘルメットを装着しはじめました。私もここで、装備を整え、気を引き締めてさらに歩みを進めます。


登り始めてから2時間ほどで、標高約2,200mにあるWiener Neustädter Hütteに到着。まだ、道のりはあと少しで半分。ゆっくりと椅子に腰を下ろし、美しい景色を眺めながら体力だけでなく精神的にも大きなリフレッシュになりました。

いよいよのVia Ferrataルートへ突入!

山小屋を出て再び歩き出すと、再びゴロゴロとした石の道になります。そしてしばらく登り続けると、いよいよVia Ferrataの区間に到着です。ヘルメット、ハーネス、ヴィアフェラータキットを装着し、ワイヤーロープにカラビナをかけながら進みます。ルートの難易度はAB(ドイツ基準)で、比較的初級とはいえ、油断は禁物です。

実際に登り始めると、カラビナの使い方や足の置き場に気を取られ、精神的にも集中力が求められます。途中、スクランブリング(手足を使って岩をよじ登る動き)を必要とする箇所もあり、緊張感は一層高まります。また、狭い岩のトンネルのような自然の通路をくぐり抜ける場面もあり、思わず「おおっ」と声が出てしまうほどのアドベンチャー感満載です。


海外あるあるなのか、ところどころワイヤーがサビついていたり、ぐらついている場所もあり、「本当に大丈夫か…?」と心配になる場面もありました。でも、そんな不安をよそに、登山道には子どもから年配の方までさまざまな登山者の姿があり、皆それぞれのペースで、慎重に、でも確実に登っていく姿に背中を押されます。

そして終盤、ついに、オーストリアとドイツの国境となる稜線に到着。ここまで来ればあと少し!足はすでにパンパンだけれども、その先に見えた頂上へ向けてあと一歩踏ん張ります。

登り切った頂上で待ち受けていたのは…?

約4時間半、険しい岩場を登り続けてついにドイツのてっぺん、標高2,962mのZugspitzeの山頂に到着です。本来なら、登り切ったものだけが味わえる、雄大で静かなアルプスの景色を想像していました。しかし、目の前に広がっていたのは、想像を遥かに超える「山の上のテーマパーク」のような光景でした。

山頂には、オーストリア側・ドイツ側それぞれのロープウェイを使って、楽々アクセスしてきた観光客が大集結し、歩くのもままならないほどの混雑ぶり。レストランや売店、ビアガーデン、お土産ショップ、宿泊施設と、山の上とは思えないほど設備は充実していましたが、人・人・人でごった返し、何をするにも行列ができていました。この日は平日だったにもかかわらず、8月のハイシーズンということもあり、このような混雑となっていたのです。

さらに衝撃だったのが、Zugspitzeの“本当の頂上”である、金色の十字架が立つ岩のピーク。本来ならほんの数分で登れる小さな岩場なのですが、その入口には1時間以上待ちの長蛇の列ができており、その多くはロープウェイで登ってきた観光客でした。登山装備もないまま、記念写真だけを撮りたい人たちで大混雑していて、正直、並ぶ気にもなれませんでした。
そのまま、最後のピークには登らず、少し景色を眺めてからロープウェイで下山することにしました。


登ったからこそわかった「ただ頂上に立つだけが”登頂”ではない!」
アクセスが整備されたことで、多くの人に山の景色を楽しんでもらえるのは素晴らしいことだと思います。けれど、あまりに人が集中しすぎた結果、本来味わいたかった、登った後の達成感や、自然の神聖さがどこか薄まってしまったように感じたのも事実です。
山頂での景色が全てではありません。登っている途中の岩場、手足を使って登りきったVia Ferrata、時に恐怖を感じながらも一歩一歩頂上に向けて進んだその「道のり」こそが私にとっての「登頂」だったと思います。
今回のドイツの最高峰は、自分の足で登ったからこそ、特別な意味がある。そう思わせてくれる、記憶に残る登山となりました。これからも、キャンピングカーで旅を続けながら、体力と技術の許す限り、ヨーロッパ各国の最高峰を目指していきたいと思いますので、次なる冒険も、どうぞお楽しみに!