多角的革新起業家・吉田基晴氏×BE-PAL編集長・沢木拓也SPECIAL対談!「自然派の完成を社会に活かせ!」 - 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.05.30

    多角的革新起業家・吉田基晴氏×BE-PAL編集長・沢木拓也SPECIAL対談!「自然派の完成を社会に活かせ!」

    多角的革新起業家・吉田基晴氏×BE-PAL編集長・沢木拓也SPECIAL対談!「自然派の完成を社会に活かせ!」
    『BE-PAL』2022年6月号から24年5月号まで連載、多くの共感と感動を呼んだ「四国の右下 にぎやかそ革命」がついに1冊の本になった。

    環境と経済、働き方・暮らし方を含む"しあわせ"の定義が問い直される今、主人公、吉田基晴さんの語る経営哲学はますます重みを増している。

    自然の摂理に学べば、ビジネスにも必ず潮どきのようなチャンスが来る

    吉田基晴(写真右)
    1971年、徳島県日和佐町(現美波町)生まれ。複数のIT企業を経て、ITセキュリティソフト開発販売、地方創生支援、里山再生を担う3つの会社を故郷で経営。
    沢木拓也(同左)
    1971年、名古屋市生まれ。大学時代はワンゲル部。ビーパル配属を熱望し小学館へ入社、5年目に念願かなう。コミック誌などを経て、2018年より本誌編集長。

    沢木:リモートではお話をさせていただいたことはあるのですが、対面でお会いするのは今日が初めてですね。あらためてよろしくお願いします。

    吉田:こちらこそ。沢木編集長は、美波町は初めてですか?

    沢木:じつは何度か来ているんですよ。ビーパルでずっと連載をされていたカヌーイストの野田知佑さんのお住まいが美波町で、野田さんの家には何度も遊びに来ていたんです。
     
    ところが町の中心部は歩いたことがなくて。吉田さんが手掛けた空き家を活かしたサテライトオフィス誘致、起業家支援の取り組みを知ったのは野田さんの原稿がきっかけでした。
     
    ある日若い女性が遊びに来たのだけれど、イノシシを見事に捌くのに驚いたという話でした。彼女は美波のIT企業に働いていて、狩猟が大好きだという。

    その企業は、パソコンとWi-Fi環境があれば柔軟な働き方ができるITビジネスの強みを活かし、美波町を拠点に“昼休みにサーフィンができる会社”として人材募集をかけ、都市で暮らす自然志向の人たちの心をとらえているという話でした。
     
    彼女だけでなく、美波町には若い移住者が多く、個性的な店も次々できているとも野田さんは書いていました。面白いなと思って調べて浮上したのが吉田さんだったんです。

    吉田:なるほど、そういうことでしたか(笑)。連載時にも触れていただきましたが、野田さんは僕にとって今も憧れの大人なんです。あんなかっこいい旅がしたいと、大学を休学してオーストラリアを釣り放浪しました。その野田さんが僕の生まれ故郷に終の棲家を構えられ、僕もやがてUターン移住してきた。不思議な縁を感じます。

    沢木:私は吉田さんと同じ53歳です。ビーパルは40~50代の読者も多いのですが、吉田さんが四国の右下の過疎地域で展開しているビジネスは、同世代に明るい未来像を示せると直感し、連載を決めました。

    経営も自然に学ぶべき時代になってきた

    吉田:ビーパルというとアウトドア・ギアの最新情報や、川漁師やマタギのような人たちの技を掘り下げたりした記事という印象がありますが、僕の話はビジネスですから“な、なんだ? 今度の連載は”と思った方も多かったのでは(笑)。

    沢木:そんなことはないんですよ。じつはビーパルは創刊当時から地方に寄り添ってきました。都会から移住した人たちを折に触れ取り上げてきましたし、創刊号ではカヌー通勤というライフスタイルを紹介しています。田舎の一軒家を借りて編集部にしたこともあります。

    吉田:僕らが推進してきたサテライトオフィスの大先輩じゃないですか(笑)。

    沢木:ただ田舎をリスペクトするだけでなく、地方創生という言葉が生まれる前から地方で起こり始めた6次産業化やグリーンツーリズム、団塊世代の定年帰農といったうねりもウォッチングしてきました。

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    四国の右下木の会社を含め、吉田さんが経営する3つの会社は移住者の比率が高い。「みんなで仕事を作ってきました」(吉田さん)

    ブータンのGNH(国民総幸福度)という概念が話題になったときは、自然派の幸福実感を調査したこともあります。これなんかは、まさに今でいうウェルビーイング(※1)です。
     
    吉田さんが美波町でやっていることも、じつは経済と自然の関係、働き方や暮らし方のありようの再定義であり、社会への提言だと思うんです。

    吉田:ああ、良かった。今さらですが安心しました(笑)。

    沢木:吉田さんの取り組みや思考方法を知るにつけて感じたのは、“ああ、この人は根っからの自然派経営者なんだ”ということでした。たとえば釣りを例に、ビジネスにも必ず潮どきのような良い巡り合わせがくると信じ、プロジェクトを次々と成功へ導いていきます。
     
    吉田さんの経済・経営、働き方に関する考え方は、おそらくビーパルの読者が、資本主義社会とはこうあってほしいという理想なのだと思います。

    吉田:そう思っていただけたらとても光栄です。

    故郷の里山への思いが製炭業への進出を後押し

    沢木:偶然とは思えないのですが、連載が始まったころからSDGsやESG(※2)投資といった流れに加え、ネイチャーポジティブが世界経済のキーワードになってきました。環境に悪いことをいかに減らすか。マイナスをゼロに近づけるのが企業の環境対策でしたが、プラス、つまり再興に転じなければだめだという経営概念です。
     
    そんな潮流の到来を見越していたかのように設立したのが、荒廃した常緑広葉樹の里山を、備長炭を切り口に回復させる林業の会社でしたね。ビーパルで同時進行したこのルポは、ハラハラドキドキ、紆余曲折のリアル・ドラマでしたが、見事にネイチャーポジティブに帰結しています。最初から意識されていたのでしょうか?

    吉田:はじめ作ったサイファー・テックという会社の武器はITでした。2番目のあわえという会社は、自治体を支援する地方創生ど真ん中の会社ですが、ここでもITは有力な武器です。3つ目が林業の四国の右下木の会社ですが、こちらはITとは対照的な汗くさい会社です。
     
    木の会社を始めようと思ったとき、僕自身はネイチャーポジティブなんて言葉を聞いたことがありませんでした。マーケティング的にそんな時代が来ると読んだわけでもなく、ただただ故郷の自然への思いなんです。

    里山の生態系は人の営みが作り上げたものです。このあたりの木は、かつて樵木といって薪や炭として京阪神に送られていました。ところが戦後のエネルギー革命で需要が途絶えます。
     
    帰ってきてみると、子どものころに駆け回って遊んだ里山は荒れてしまっていた。今なんとかせんともっとひどいことになるぞという本能的な危機感が、木の会社を作らせました。

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    伐採したばかりのウバメガシを抱えてみる沢木。「想像していたより重い。重いからこそいい備長炭になるんですねえ」

    沢木:僕らアウトドア派は薪や炭の価値をよく知っていますが、こと産業という視点に立つと、市場は極めて小さいといわざるを得ません。にもかかわらず、吉田さんは必ず勝機は訪れると信じ、備長炭に的を絞って森の再生に着手しましたよね。
     
    そうこうするうちネイチャーポジティブの概念が急速に広がりました。一方、既存の備長炭市場では、職人の高齢化と担い手不足によって商品が足りなくなる“備長炭ショック”とでも呼ぶべき現象が起き始めました。
     

    肌感覚で自然を知る国民が増えなければネイチャーポジティブの実現は難しい

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    吉田「どんどん焼いて山を若返らせます!」
    沢木「この炭で焼いた料理が食べたい!」
    連載終盤から稼働が始まった樵木備長炭の窯。使うほど里山に活気が戻り生物多様性も高くなる"環境性能"という価値提案は、料理のプロの心に届き始めている。
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    樵木備長炭の樵木とは、かつて四国南東部で行なわれていた燃料生産林業の呼称。持続可能性の象徴として商標に採用した。
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    美波町日和佐地区は歴史ある町だが、空き家が多い。若い移住者を呼び込むことで過疎でありながらも活気ある町になった。

    沢木:そのタイミングで木の会社の窯は動きだし、環境共生の理念をブランド化した『樵木備長炭』が焼き上がり始めて。
     
    今、料理人が続々と美波詣でをしているそうですね。“持っている”という言葉を超えた見事な潮読みだと感心します。
    吉田:備長炭は非常に手間暇のかかる炭なので、高価になります。しかし、熱源としてのポテンシャルは非常に高い。今までの備長炭というのは、いわばこうした性能評価でした。そのステータス性が都会の高級店の客単価を支えてきたわけです。
     
    しかし、持続可能性という視点で伐採や製造の舞台裏を見ると、高級備長炭を使っている=見識の高い店、とは必ずしもいえないことに気付きました。
     
    野菜や肉、魚も同じことですが、店と客の関心が料理の味止まりだったとしたら、生産者のこだわりや努力、背後の自然で今起こっていることは社会に伝わりません。

    炭にも性能だけではない評価軸も必要じゃないかと考えたんです。動機が“故郷の里山の荒廃をなんとかしたい”だったので、僕は最初から環境性能をブランドに掲げることを考えていました。
     
    問題は、炭の背景の木や森にまで関心を持つ料理人や食通なんておるんか? ということです。周りからはやめとけといわれ続けました。盆栽にしては規模がでかすぎるぞと。

    沢木:盆栽? どういう意味でしょう。

    吉田:吉田個人の趣味だという皮肉です。林業はそんなに甘くないぞという忠告ですね。地方創生の会社のあわえもそうですが、僕がこの美波町で考えた自分たちのミッションは、分断されたしくみを紡ぎ直し、社会の良い面を引き出すこと。

    自然資本を大切に、上手に使えば、田舎は可能性の宝庫だというのが僕の持論ですが、趣味的な里山整備じゃなかったようだと理解されだしたのは最近です(笑)。
     
    僕たちの備長炭が欲しいという方には、一度は伐採現場や窯を見に来ていただくことを取引条件にしています。僕たちもそのお店に食べに行きます。互いの考えを理解し合えれば、単なる取引先ではなく同志になります。おいしいものを通じて大切なことを社会に発信する“共創者”になってほしいんです。
     
    炭の性能や食材を語れる料理人はたくさんいますが、原料のウバメガシが生えている山の景色や窯の火色、煙のにおいまで語れる料理人って素敵だと思いませんか。お客さんに対するそのメッセージには、必ず自然と地方の今、持続可能な一次産業の姿なども含まれるはずです。
     
    実際、一緒に山を歩き、窯の火を見た料理人の方々は、皆さん仕事の景色が変わったという意味の感想をおっしゃいます。

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    お試し滞在施設の戎邸を借り、リモート会議に出席する沢木。「会議室で顔を合わせるよりずっといいね」

    うわべだけの「ようこそ、日本へ」はもう通用しない

    沢木:地炎地食という取り組みも進めていますよね。

    吉田:地元で採れた食材は地元の薪炭で調理して食べるのが昔は当たり前でした。それが戦後、外国からタンカーで運んできたガスや、高圧鉄塔で送られてくる電気で調理するスタイルになりました。そういう時代だからこそ、エネルギーも自給できるんだということを知ってほしいんです。

    アウトドア派の方には言わずもがなですが、薪や炭の火のほうがはるかにおいしいし、インバウンドを関係人口として意識した場合も、こういうこだわりは大事だと思います。

    沢木:本物の日本を見たい、質のいい体験をしたいと希望する外国人は多いですからね。

    吉田:うわべだけのウェルカム・トゥ・ジャパンはもう通用しないと思います。世の中のしくみを紡ぎ直す、というのはデザインをし直すということです。端的にいうとガス台で焼いた地元食材のごちそうと、炭も地元で焼いたごちそうがあったら、どちらに感動しますかということ。僕には“食材だけでなく燃料まで地元産だなんて、なんてクールなの!”という、いろんな国の言葉が聞こえてきます。
     
    じつは森というバックグラウンドまで、さらには炭という熱源までも視野に入れたガストロノミー(※3 )ツーリズムって世界にはまだないんですよ。今までの取り組みは序章。これからが本章だと思っています。

    沢木:地方創生って、新しい布を織ることのように思われがちですけど、端切れ状態になってしまっているものも、上手に紡ぎ直せば魅力的になるという吉田さんの考えは目から鱗です。
     
    田舎の可能性というと、今まではキャンプ場とか、農業体験、移住といったパートごとに切り分けて考えがちでしたが、もっと大きな視野で複合的に見ることの大切さを知りました。吉田さんのそういう俯瞰力はどこで培われたものなんですか?

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    吉田さんの郷土愛は子どものころの野遊びに培われた。
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    「虫捕り。エビすくい、ウナギ釣り、アユ突き。少年時代の日々が忘れられなくて帰ってきたんです」。この価値を地域の人にこそ知ってほしい。そんな思いが移住者誘致や里山再生型林業の原動力に。

    吉田:俯瞰力というよりは直感なのかもしれません。子どものころに自然の中で遊ぶことで、いろんなことが体に染みついてきたと思うんです。魚はどういうときどう動くのかとか、クワガタはどういう時間活動をするかとか。

    いろいろなものに法則や摂理や理由があるわけで、僕は何事も自然現象になぞらえて見る習慣があります。大事なことはすべて自然から学んだ、という感じでしょうかね。
     
    ここ数年でいうと、がんが再発して治療方法を変えなければならなくなったことや、妻を事故で亡くしたこともあり、物事の見方の深度が変わりました。諦観の境地といいますか。
     
    事業面では少々のアクシデントにはひるまなくなりましたし、解の複雑な課題に直面しても悩まなくなりました。突破力はついたかなという気はします。

    沢木:過疎に直面する地方や地方創生を推進する国に対して伝えたいことはありますか。

    吉田:SDGsや生物多様性はなぜ大切なのか。論理的に語れる日本人はたしかに増えたと思います。しかし、感覚的に把握している人はまだまだ少ない。
     
    理論で自然の価値を理解した人たちに、どうすればセンス・オブ・ワンダー(※4)の機会を与えることができるか。環境の回復を前提としたこれからの経済を考えるとき必須になるのは、自然についての知識や能力です。

    国民全体を分母、変容を促すキーパーソンを分子とすれば、自然の脆さもありがたさも肌感覚で知る分子側の人たちをいかに増やすかが課題です。

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    ごく最近、移住者が開業した本格ハンバーガーの店。「過疎地なのに大繁盛。美波町ではよくある珍現象です」(吉田さん)
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    過疎化なのに飲食店多し!

    沢木:連載の中では、吉田さんがモデルになった映画『波乗りオフィスへようこそ』のセリフが印象的でした。地元の子どもたちが“田舎にはかっこいい大人がいない。だから別なかっこ良さを探しに都会へ出てしまうのだ”という言葉でした。

    吉田:移住政策のなかで、じつは大きな潜在力を秘めているのがUターン人口だと思います。僕が子どものころ、アユを突いたりウナギを釣ったりするのが上手な大人はヒーローでした。野田知佑さんもそんなことを書かれていますよね。なので、僕は早く大人になりたくて仕方がなかった。大人になれば、本格的な漁具も買えるぞと(笑)。

    沢木:そして、サケが生まれた川へ帰ってくるように故郷へ導かれたわけですね。
    吉田:かっこいい大人というのは、日々を味わうように笑顔で暮らしている人のことだと思うんですよ。本当の意味で凛々しくてチャーミングな人たち。
     
    田舎ではお天気の挨拶も深い意味を持ちます。都会だと傘がいるかいらないかくらいの意味しかありませんが、田舎では米や野菜の生育を意味したりもする。漁師さんにいたっては天気を予測する能力も持っている。
     
    端的にいえば、そういう人間力こそが田舎の人のかっこよさだったと思うのです。しかし、田舎の人自身がそういった骨太さを捨て都会との同質化を望んできた。今は自然豊かな地方でも、パパママ世代はもう子どもに野遊びを教えられません。
     
    体に染み込むようなセンス・オブ・ワンダーを未来の担い手にいかに体験させるか。田舎が都会に勝る部分があるとしたら、そこだと思います。

    絶賛発売中!『移住で地方を元気にする IT社長が木の会社を作った理由』

    著者 かくま つとむ
    定価1,760円(税込)
    四六判/240ページ 
    小学館刊

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    人口減少社会との向き合い方、地方ビジネス、自然と人間の新しい関係など、今日的課題解決のヒントに満ちた異色のアウトドア書。

    詳細はこちら

    ※1/ウェルビーイング 身体的・精神的・社会的の3つの要素が満たされている状態。
    ※2/ESG 持続可能な成長を実現するため企業が順守すべき3要素。
    ※3/ガストロノミー 美食文化。
    ※4/センス・オブ・ワンダー 自然の神秘さや不思議さに目を見張ることのできる感性。

    ※構成/かくま つとむ 撮影/矢島慎一

    (BE-PAL 2025年6月号より)

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