
それを追って、普段は同じく高所にいる雪豹も、雪の到来とともに村の近くに降りてくるのです。
【雪豹に会いに、インド・スピティへ 第8回】
美しき草食動物、アイベックスの群れ

成長したアイベックスの雄は、自らの背中に刺さってしまうのではないかと心配になるほどそり返った、巨大な2本の角を戴いています。身体や四肢は割とずんぐりしているのですが、険しい岩場でも自在に動き回れる俊敏さも持ち合わせています。
用心深くて、人間たちの前にはあまり姿を現したがらない雪豹と違って、アイベックスは比較的警戒心が薄く、僕のようにカメラを構えている人間がいても、不用意な動きをしたり大きな音を出したりさえしなければ、特に気にするそぶりもなく、思いがけないほど近くにまでやってきます。望遠レンズにそれほど頼らなくてもすむほどに。

意中の雌の気を惹こうとしているのか、互いの角をぶつけあって戦う、若い雄のアイベックスたち。キッバルの周辺では、10〜20頭くらいの規模のアイベックスの群れを見かける機会が多くありました。

短い鼻面を雪に埋めながら草をかじる、子供のアイベックスたち。幼い彼らがみな揃って成長できるとはかぎらないのが、この土地の自然の厳しさでもあります。
雪豹とアイベックス、対決の瞬間

雪原を進む、2頭の雪豹。彼らが一直線に目指しているのは、雪の斜面に集まるアイベックスの群れです。はたして、どうなるでしょうか……。

雪豹たちは二手に分かれて、一気にアイベックスたちとの間合いを詰め、襲いかかりました。雪煙を蹴立てて、飛ぶように逃げ出すアイベックスたち。この時の狩は結局、失敗に終わりました。雪豹といえども、獲物を捕まえるのは、けっして簡単ではないのです。

アイベックスにとって雪豹は天敵ともいえる存在ですが、もし、この土地から雪豹がいなくなってしまったら、アイベックスをはじめとする草食動物たちも、個体数が増えすぎて、餌となる草を食べ尽くしてしまい、衰退の道を歩むことになるでしょう。
この土地での野生動物たちの生態系は、非常に繊細なバランスによって保たれています。