今回、サトウキビ畑の中を走る20㎞のMTBレースに参加したので、その様子をご紹介します。
子どもから大人まで家族で楽しめる自転車レース、その実態とは?
3月になり、街のあちこちでエントリーを促す広告を見かけるようになった自転車レース「aQuellé Tour Durban 2024」。公式サイトによると“ダーバンで一番人気の週末サイクリングレース”とのことで、今年は“Make Life Better, Ride a Bike(意訳:自転車に乗って、より良い人生を)”をテーマに、MTBレースとロードレース、グラベルレース、トレイルランの4つのレースが設定されました。
ちなみに、このイベントの収益はすべてダーバンで活動するNPO法人に寄付され、貧しい子どもたちの食事など、地域コミュニティへの支援活動に充てられます。
ダーバンは、南アフリカでもインド洋に面したビーチリゾートシティで、ロードレースでは街のランドマークであるモーゼスマヒダスタジアムから海岸沿いの自動車専用道路を往復します。
しかし、私が今回参加することにしたのはサトウキビ畑の中を走る20kmのMTBレース。詳しい事情は後述しますが、ダーバンといえば“青い海”と“サトウキビ畑”!以前海岸沿いのプロムナードはレンタサイクルで走ったので、もうひとつの“サトウキビ畑”に心が惹かれます。ダーバンに住む南アフリカ人の友人が参加することも決め手になりました。
レース前日には、サポートするサイクルショップにて選手登録が行われました。受付番号と名前を告げ、計測チップの入ったナンバーカードと、参加記念のTシャツを受け取ります。受付の際、今回初めてMTBレースに参加することをスタッフのお姉さんに伝えると「大丈夫!このイベントは子どもたちも楽しめるファミリーイベントよ。楽しんで!」とにこやかにウィンク付きで返されました。まわりを見渡すと、幼稚園児かもしれない小さな子どもの姿もあり、ほっと一安心です。
いよいよ当日。この日の予想最高気温は30℃、雲ひとつない青空が広がる快晴です。週の前半に降り続いた雨も落ち着き、イベント主催者曰く「オフロードサイクリングに最高のコンディション」とのこと。出発地点が家からわずか3.5km先の場所ということもあり、朝はウォームアップを兼ねて自転車で向かいます。
会場に着くとレース参加者だけでなく、応援の家族や各サイクリングチームのサポートメンバーで大混雑。すでにトレイルランと40kmレースの一部がスタートしており、私も友人と合流して出発時間を待ちます。
そしてついに20kmレースのスタート! 早速急こう配の道なき道を進むことになり、周りの参加者と「これは大変だ」「想定外だ」と笑いあいながらペダルを漕ぎます。
最初は団子状態だったものの、徐々に差がついてきて、気づけば周囲の人はまばらに。小さな子どもや、(私のように)走り慣れていない参加者も多いからか、急こう配では自転車を押して上る人たちがいたり、景色が良いポイントで休憩がてら写真撮影に興じたりと、それぞれが“ゆるく”楽しんでいます。
印象深かったのは、走り方をサポートするスタッフがいたこと。その場所はレース開始から約3km進んだ、コース最高地点の標高146メートルの場所。
一気に42メートル下る、なんと6.7度の急こう配! 恐怖で自転車を降りたり、ブレーキを強く握ってのろのろと進んだりする(初心者の)参加者たちに対して「タイヤではなく、少し先を見て! 進行方向に目を向けて!」と大声でアドバイス。同時に「あなたは待っていなさい、あなた先に下りなさい」とぶつからないように誘導もしていました。
MTBレースコースの大部分は、Sugar Cane Road(サトウキビ道路)という、主に農作業に使用される未舗装の道。実は南アフリカの主要農作物のひとつであるサトウキビは、その9割がダーバンのあるクワズールー・ナタール州で生産されています。
イギリス植民地時代に始まったサトウキビ生産のため、同じく当時植民地支配されていたインドから多くの人が労働者として連れてこられました。その影響でダーバンは世界最大のインド人コミュニティがある街としても知られており、ダーバンにはインドの影響を受けた文化が多く残っています。
現在、サトウキビの生産は黒人の労働によって支えられています。レース中にも農作業を行う人たちの姿があり、声をかけたり手を振ったりと応援をしてくれました。
友人がリタイア!? 迷子率10%&多発する救援要請
なんと、レース前半で友人の脚が軽い肉離れに! ゴール地点にいる家族に連絡し、迎えに来てもらえるかイベント主催者に相談したところ、救援要請が相次いでいるため30分くらい行けないとのこと。仕方がないので、上り坂では自転車を降りて歩き、無理せずゆっくりと進むことにしました。
しかし、朝は涼しかった気温も29℃まで上がり、日本と比べて紫外線が7倍ともいわれる南半球の太陽が体力を奪います。ようやくたどり着いた10km地点の給水所で、ついに友人が「私はここで救援を待つから、あなたは先に行って」と無念のリタイア宣言。ゴールでの再会を約束し、私はひとりで先に進むことになりました。
30分くらい走ったでしょうか。ゆるやかなサトウキビ畑の坂を上り終わったところで、なんと前方からリタイアするはずの友人の姿が! どうして!?
「ショートカットしちゃった」と笑う友人と(そんなのアリ?)、再びゴールを目指します。
さらに30分ほど走ると、日陰を発見! 軽く休憩していると、ついに救援車がやってきました。と、思ったら荷台にはすでに5人ほどの参加者が。「救援要請が多すぎてもうこの車には乗れない。すぐにもう一台やってくるから」とのこと。まもなく新しい車が来て、友人を乗せます。友人の自転車を乗せた後、ドライバーは私に対して「君も乗りなさい。私はイベント主催者だ」と言い、私も無念のリタイアとなりました。
救援車に乗って揺られていると、ゴールまでが驚くほど長く感じます。私が身に着けていたスマートウォッチによると、走行距離はもうすぐ22km。前述したように、家から3.5km走ってきたので残りは2㎞ほど…?
しかし、どう考えても残り2㎞の距離ではありません。これは帰宅後にルートマップを見返して分かったことですが、私たちは途中40kmコースを走っていたよう。まっすぐ走っていたら最後まで走れていたかもと思うと残念ですが、なんと、道を間違えていたのは私たちだけではなかったのです。
救援車内での話によると、この日のレースの参加者は全体で約1,000人。そのうち10%の100人ほどが道を間違えたり、迷子になっていたりしていたそう。暑さや怪我による救援要請も、その時点で70人から届いているとのことでした。
途中、迷っている男性を一人ピックアップし、ゴール直前で全員降ろされます。ドライバーは「あとは下るだけだから、気をつけて」と次の救援のために去っていきました。
最後の坂を下ると、ゴール地点で待っていたスタッフがメダルをくれました! これはもしかして完走した…ってコト!? スタートから4時間近く、だいぶ時間はかかりましたが、タイムが記録されており、リタイア扱いにはなっていないようでした。
ダーバン、そして南アフリカはようやく秋に入りました。これから春先にかけて各地で開催される、大小様々な自転車レースにも注目です。