誰も行かないところへ行き続ける辺境ノンフィクション作家――その著作の中でもとくにハラハラドキドキする『西南シルクロードは密林に消える』の冒険性
探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL3月号掲載の連載第32回は、辺境ノンフィクション作家・高野秀行さんです。
「人が行かないのには理由がある。それはリスクが高いということ。だから、僕の行動は結果として冒険的になってしまう」という高野さんが、人が行かないところに行く理由とは何か、関野さんが迫ります。
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
高野秀行/たかの・ひでゆき
1966年東京都生まれ。1989年、早稲田大学探検部在籍時にコンゴでの活動を執筆した『幻獣ムベンべを追え』(現在集英社文庫所収)でデビュー。辺境探検をテーマにしたノンフィクションや旅行記を中心に著書多数。最近著に、『イラク水滸伝』(文藝春秋)。そのイラクの探検により、「2023植村直己冒険賞」を受賞。
密入国の連続で窮地に
関野 西南シルクロード踏破の旅では、中国からミャンマー、さらにミャンマーからインドへも密入国です。
高野 まずいだろうなとはわかっていましたが、ほかに方法がなかったのでやむを得ませんでした。ナガ人のふりをしてコルカタに着くと、あとは僕ひとりでなんとかするしかありません。インドのビザもなければ入国スタンプもないパスポートで、どうやってインドから出国するか?日本にいる探検部の先輩などに電話で相談しても、妙案は浮かびませんでした。
結局領事館に出向いて事情を話しました。領事は驚愕し、「警察に出頭するしか方法はない」といいました。「でも、よくて懲役5年ぐらいは覚悟してほしい」という言葉に絶望的な気持ちになりました。警察では、ゲリラと一緒に国境を越えてきたというのはさすがに隠したほうがいいと考え、「ミャンマーの山奥を旅行していたら間違って国境を越えちゃいました」と説明しました。
でも、そんなウソは小一時間でバレてしまい、結局全部正直に話しました。すると、拘束されて数日後、急に「日本に帰れ」といわれたんです。何が何だかわからないけれど、強制送還とはいえ日本に帰れるのは願ったり叶ったりです。おそらく、外国人が国境をゲリラと一緒に勝手に越えてきたということが公になると、イミグレーションを管理する内務省の上のほうの人の首が飛んでしまうので、「大事になる前にこいつを出国させよう」ということだったのだと思います。
関野 同じ旅を今再現できますか?
高野 絶対無理です。今はもちろん当時でさえ、もう一回行ってもああはなっていないでしょう。たまたま運が良かったから踏破して帰国できたのであって、こんなのを冒険といったら冒険家の人たちに怒られてしまいます。僕自身、冒険しているつもりはなく、人が行っていないところに行って謎を解きたい、未知のものを探りたいという思いで動いているだけなんです。
この続きは、発売中のBE-PAL3月号に掲載!
公式YouTubeで対談の一部を配信中!
以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。