日本人のドキュメンタリー監督が、 中国全土でナンバー1インフルエンサーになれた理由
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    2023.05.18

    日本人のドキュメンタリー監督が、 中国全土でナンバー1インフルエンサーになれた理由

    Weibo (中国版Twitter)522 万⼈、抖⾳(中国版TikTok)70 万⼈(23年1月時点)、番組のアカウントを含めると1000万人を超え、中国全土でナンバー1インフルエンサー(Weibo 旅⾏関連のランキング。23年1月時点)となっている竹内亮監督。なぜ、そんなことが可能に? ドキュメンタリーの演出家として日本からキャリアをスタートさせた、彼のドキュメンタリー映画4本を上映する「竹内亮のドキュメンタリーウィーク」が開催されます。来日した監督をキャッチ、完全独占取材を敢行しました!

    『再会長江』。右が竹内亮監督。

    竹内亮(たけうち・りょう):1978年千葉県出身。中国・南京在住。ドキュメンタリー監督・番組プロデューサーとして『ガイアの夜明け』(テレビ東京)、『世界遺産』(NHK)などを制作。2007年ギャラクシー賞テレビコンペティション奨励賞受賞。2013年に中国人の妻と中国に移住。2021 年 Newsweek の「世界が尊敬する日本人 100」に選出。

    リアルないまの日本文化を伝えたい、ドキュメンタリーを撮りたい

     見本に持参した「ビーパル」本誌を手に取り、「日本って紙が多いですよね、中国では紙の雑誌ってほとんど見たことがないです。現金を触ったのも久しぶりで。日本に帰ってくるとなにもかもが違いますね」と竹内亮監督。
     竹内監督は2013年に、中国人の妻と中国・南京に移住。きっかけは2011年に放送された、NHK『長江 天と地の大紀行』の撮影で長江の源流から河口の上海まで旅したことだった。当時、既にWeibo もあって情報化は進んでいたはずなのに、地元の人と話すと、「山口百恵は最近どうしてる?」「高倉健は?」といまだに聞かれた。

    「中国の人は、あまりに日本を知りませんでした。それで日本文化を中国に紹介するドキュメンタリーを撮りたい、リアルないまの日本文化を伝えたいと。 『我住在这⾥的理由(私がここに住む理由)』では日本に住む中国人と中国に住む日本人の暮らしぶり、そのありのままの様子を記録して伝えています。私の妻が中国人というのもありますが、日本のマスコミが伝える中国のイメージにはバイアスがかかっているというか、偏っているように思えて。なるべくそれを排除したいなと」

     『我住在这⾥的理由(私がここに住む理由)』はこれまでに200人近くを取り上げ、7年で6億回(2023年4月まで)再生を突破。18年から5年連続で中国最大SNSのWeibo で「影響力のある十大旅行番組」となった。2020年コロナ禍の南京市に密着した『新規感染者ゼロの街』が2000万回再生、ロックダウン解除直後の武漢を取材した『お久しぶりです、武漢』は4000万回再生を記録している。

    『お久しぶりです、武漢』。コロナ禍の武漢を3年間独自取材。動画に登場した主人公たちの3年後を追加取材した特別版。

     竹内監督のドキュメンタリーは独特。中国語がペラペラな監督本人が画面に登場し、ドキュメンタリーという‟台本のないストーリー”をぐいぐいけん引していく。
    「本来、僕はあくまで監督でレンズの後ろにいる人間。でも自分が出演したほうが面白いかなと思って。単純に外国人だし、中国人からすると日本人ってまだまだわからない存在だから。そんな考えだったので、まさか、自分がインフルエンサーになるとは思っていませんでした」

    取材対象者はweiboで募り、リラックスした雰囲気で撮影ができる

     決しておしつけがましくないのに、どこにいっても誰とでもすぐに馴染み、誰もが不思議に思うことをごく自然に不思議に思ってつぎなる行動に移す。だから映画は、普通の人が普通に驚いたり面白がったりするさまを記録したよう。すべてがナチュラルで、真実味があって。監督のキャラのせいか気軽に観られるけれど、そこには虚飾を配した表現だからこその説得力があり、強く引き付けられる。

    「もともと、まったく人見知りをしません。日本にいたときから、空気を読まない性格で。敬語を使え!と言われたりもしましたが、中国語には敬語がないのでその点はラクです(笑)。だから映画のなかでも普段通りにやっているだけ。だっていまこうしてしゃべっている僕は、映像のなかと違いませんよね?俳優ではないので、キャラクターをつくったら、観てくれる人に絶対バレますから」

     取材対象者はWeibo で募る。そのせいなのか、例えば『お久しぶりです、武漢』では日本料理店のオーナー、看護師ら登場する人びとは初対面の監督を前に、ごくリラックスした雰囲気で心を開いてみせる。その記録はまさに「素顔の中国」。それはお隣の国の、まるで知らない現在の姿。

    「関係性がゼロの相手のドキュメンタリーを撮るにはふつう、最初は壁があります。でも僕の場合は相手がWeibo のフォロワーですから、作品を好んで観てくれている人ばかり。なんでも撮っていいよ!という関係性を築くまでに時間をかける必要がなく、いきなりその壁を越えられます。僕のキャラもあるでしょうが」

    『大涼山』。四川省の山奥、1400mの崖の上にある村を訪れる。貧しい少年たちはサッカーに夢を託す。サッカー少年とも、すぐに仲良し。

     そんなふうにドキュメンタリーを撮り続けるためには、Weibo のフォロワー数を減らすわけにはいかない。

    「フォロワー数を増やす努力はずっとしています。毎日、新しいなにかを提供しないと増えないので大変です。でも、単純にフォロワーとの交流は楽しい。そのフォロワーたちが、取材対象者になったりするのも面白い。いま中国の妊婦さんを撮っていて。出生率が下がるいま、なぜ産むのですか?と取材させてもらった、その妊婦さんも全員、僕のフォロワーです。妊婦さんを撮ります!と言うと何百通と応募がくるので、そのなかから面白そうな人を選べばいい。これって、SNS時代の新しいクリエイティブの仕方だなと」

     『大涼山』では四川省の山奥で素朴な生活を営む少数民族を訪ねたり、『ファーウェイ 100面相』では世界に散らばるファーウェイ社員を撮りに行ったり。竹内監督の守備範囲は幅広い。今後やりたいことは? と尋ねると、「いっぱいあります、やりたいことだらけ」と即答。

    「フォロワー数ってだんだん伸びるのではなく、面白い作品をつくると(階段みたいに)がん!と増える。完全な実力社会ですから、ず~っと面白い作品をつくり続けるだけ。それ以外にありません」

    「竹内亮のドキュメンタリーウィーク」
    ●期間/5月19日~5月25日まで、角川シネマ有楽町にて。
    *開催期間中、竹内亮監督によるトークイベントを開催予定。
    ●上映作品/『再会長江』『お久しぶりです、武漢』『大涼山』『ファーウェイ百面相』

    取材・文/浅見祥子

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