日本で唯一のプロハイカーとして、世界各国の数百kmから数千kmにおよぶロングトレイルを次々と踏破している斉藤正史さん。2022年12月から2023年1月には、1カ月以上かけて台湾を巡りました。そんな斉藤さんによる「台湾トレイル体験記」をお届けします。vol.9は、台北市内を一周する「台北グランドトレイル」についてです。
台湾の正月は短い!
台北では、12月31日にカウントダウンイベントや花火が打ち上げられます。そんなこともあり、年末の台北市内の宿は軒並み3倍くらいの値段に変わっていました。
そして、1月1日辺りからはどこも空室が目立ち、もとの値段に変わっていくのでした。といったことから、台湾の正月は短い、といわれています。僕は、1月2日に台北市内のホテルに移り、今度はホテルを拠点にして台北グランドトレイルを歩く事にしました。
台北グランドトレイルとは?
2018 年 9 月にオープンした、台北グランドトレイル。これは、台北市が作ったトレイルになります。台北で最も風光明媚な国立公園を通り、最も人気のある陽明山などを越える 92 km のルート。ハイキングには既存のトレイルや道路が使用されますが、ハイカーが快適にアクセスできるように、ルートに沿って新しい標識や施設が設置されています。総距離は92kmで、標高差は1120mあります。
1月2日トレイル始め
トレイル協会の皆さんとのトレイル始めです。本来は、1日で1セクションを歩き、一週間かけて徒歩ルートを歩き終える予定でいました。しかし、よくよく聞いてみると、アクセスのしにくい場所もあり、1セクションだけ歩くとなると時間をもてあましそうな感じでした。じゃあ、1日2セクション、計3日で歩きましょう!という事になり、トレイル始めはトレイル協会の皆さんと歩く事になったのでした。
セクション1は穏やかな道のり。トレイル協会の面々と、日本のトレイルや台湾のトレイルについて話しながら歩くと、日本も台湾も事情は似通っていることに気付きました。話しながら歩いていると、急な登りが現れ、「MASAさん先に行ってもいいですよ」と言われ、普通のペースに戻すと、一気に先に進んでしまいました。やはり、体がハイカー仕様になっているのに加え、荷物があまりないこともあり、どんどん地元ハイカー達も追い越していきます。
やがてセクション1終了ポイントへ行く道と、セクション2に行く道の分岐点に差しかかりました。そこで1組の老夫婦に出会い、英語で少し会話していました。登山が好きでヨーロッパにも行っている様子で、色々と写真を見せてもらいました。「セクション2に行くの?この天気だと危険だと思うよ」と言われたので、トレイル協会の人と一緒なのでと伝えると安心した様子で、彼らは下山していきました。
荒天決行でトレイル続行
東屋で協会の面々が揃い、セクション2へ足を進めました。多少の悪天候でも行かない選択肢はなさそうです。この頃から雨が強く降り始めて来ました。セクション2は幾つかの山頂を通るのですが、半端ない雨と風でした。
次第に通訳の楊さんが遅れ始めました。突風の山頂をやりすごし山麓で待つ。何回か繰り返すと、雨具を着ているとはいえ、叩きつけるような雨風に早い時間で全員がビショビショに濡れていました。先に僕が歩き、ある程度したら待つ。皆が追いついてきてはまた歩く、を繰り返していました。
言葉も無く、皆、黙々と歩きます。山頂をおり、道路沿いの道に出ても一向に雨は止みませんでした。国立公園エリアで、標高も高く、濡れた服が体温をどんどん奪っていきます。小油坑遊客服務のビジターセンターに着く頃には辺りがうっすら暗くなり始めていました。バス時間まで時間があったので、ビジターセンターのコーヒーショップで皆がホットコーヒーで体を温めていると、通訳の楊さんは一人冷えたジュースを飲み干していました。
激しい雨の中、バスに乗り込む。マイクロバスのようなバスでしたが、山麓で1度バスを乗り換えると、なんと冷房が…。台湾のバスは季節や気温を問わず冷房をきかせるという噂は聞いていましたが、ますます体が冷え切っていくのでした。
そして、MRTの駅に着くと全く雨が降った気配もなく、僕たちだけがずぶぬれでした。きっと、なんであの人たち濡れているのだろうと思われたかもしれませんね。
こうして、僕のトレイル始めは、強風・雨・視界ゼロという、前途多難なスタートを切ったのでした。予報では3日間雨です…。それでも、宿を拠点にして歩けるって幸せだな。そう感じずにはいられませんでした。
翌日も楊さんと視界の無いなか、トレイル最高到達点である楊明山・山頂で飛ばされそうな強風と雨に打たれ、ただひたすら歩く辛いセクション3と4の1/2を歩いたのでした。
次回は「台北グランドトレイル」ゴール編です。