ヨーロッパの大河・ライン川をたどって目にしたものとは?「もうひとつの源流」にバイク&ハイクで行ってみた | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

海外の旅

2026.10.27

ヨーロッパの大河・ライン川をたどって目にしたものとは?「もうひとつの源流」にバイク&ハイクで行ってみた

ヨーロッパの大河・ライン川をたどって目にしたものとは?「もうひとつの源流」にバイク&ハイクで行ってみた
ライン川はヨーロッパの大河として日本でも有名ですが、その源流がスイスにあり、しかも主な場所が2箇所存在することはあまり知られていないのではないでしょうか。

以前、主流とされる「フォルターライン(Vorderrhein)」の源流へは行ったことがありますが、ふたつあると聞けば、もう一方も訪ねたくなるのが人情。

そこで今回は、もうひとつの源流である「ヒンターライン(Hinterrhein)」の源流域、そして締めくくりとして、このふたつの川が出会い「ライン川」となる合流地点へと足を運びました。

いきなり、スイス軍の射撃訓練場?!

ハイクのスタート地点まではバイクで到着。秋分を過ぎたばかりとはいえ、山に挟まれた谷にはまだ日差しが届かないうすら寒い朝8時、歩き始めました。

今回のハイキングは、最初の4キロほどが少し変わっていました。そこはスイス軍の射撃訓練場の敷地内なのです。平坦で歩きやすいのはいいのですが、軍用道路と兼用のハイキングコースには、訓練の残骸と思しき鉄片がところどころに転がっています。

こんなものが転がっています。
誤射?
当然、訓練のある日はこのコースは歩けませんし、こんな注意書きも…。
近づいてよく読むと…最後のフレーズが”they will shoot”!?

「本当に必要な場合はあなたを撃ちます」と書かれています。私が歩いた日も軍用車がパトロールしていました。

基地を抜けると景色もコースの表情も一変します。ここからが本格的な山歩きです。

岩肌に取り付けられた鎖を伝って進む斜面があったり、アップダウンを繰り返し、ポールが活躍するコースになったり。

命綱とも言える鎖。
アップダウンを繰り返しながら登る。

登る間、左手には常に谷川が見えます。足元に気を配りながら、ときどき立ち止まって耳を澄ますと流れの音が聞こえます。地図上ではその細い流れに、すでに「ヒンターライン」と川の名前がついていて、何やら意地を感じます。
というのも、宿泊したB&Bの女将さんと前日、こんなやりとりをしました。

女将「今回はなんでここを選んだの?」(確かに、Nufenenというかなりマイナーな小さな村です。)

私「以前フォルターラインの源流に行ったので、今回はヒンターラインの源流を見る目的で…」。

女将「いいわねぇ。世間じゃ、あっちが源流って言うけど、“私たち”はこっちだって源流だと確信してるわ」。

地図上では、かなり上流から「ヒンターライン」となっている。

ハイキングに戻りましょう。

季節は秋の始まり。斜面にはビルベリーの葉が赤く色づいています。夏とは違ったカラフルな景色がなまった体に喝を入れてくれます。

ビルベリーは秋の色。

標高が高まるにつれ深まるその彩りや渓谷の流れに目を奪われ、何度もカメラを構えてしまいました。気づけば標準所要時間の倍近くを費やして、ようやく中継地点のザッポルトヒュッテ(Zapporthütte、標高2276メートル)に辿り着きました。

150年前は氷河の脇だった山小屋

これ以上はないと言える天候に恵まれていたので、外のテーブルで朝食の残りで作ったサンドイッチを開き、ひと休み。小屋の管理人が、電気の機械ではなく、モカポットを使っていれてくれたコーヒーは、まさに絶品。

小屋でのコーヒー。

この小屋が建てられたのは、1872年。当時は今、渓谷になっているところが氷河で埋まっていたといいます。壁に飾られていた1950年代の写真には、小屋の背景に氷河が写っています。約70年前までは、小屋の裏手200メートルほどのところまで氷河が迫っていたというのです。管理人の話に耳を傾けつつ、彼女が指差す方を見ると、氷河はほんのかけらとなり、高い崖の上に残るのみでした。悠然と刻まれる地球の壮大な時間に思いを馳せる一方で、そのペースを狂わせる「温暖化」という言葉が脳裏をよぎり切なくもありました。

氷河のかけら。
古い写真。小屋の背後の白いところは氷河。

見知らぬハイカーに感謝

小屋で短い休憩をとった後、さらに歩みを進めました。ここから先が今回のハイキングの目的地であるヒンターラインの源流域です。コースのマークは、一般登山道を示す「赤白」から「青白」に変わります。これは山歩きの経験や適切な判断力が求められるコースであることを示します。

青白マーク。

実際に歩き始めると、傾斜は比較的緩やかで体力的にはむしろ楽でした。しかし、視界が開けるだけに油断は禁物です。氷河が後退しながら残した平らな谷の底に整地された道はなく、コースを見失わないよう神経を使う必要がありました。小屋との往復3時間、他のハイカーとすれ違うことは一度もありませんでした。出会ったのは好奇心旺盛なマーモットの子供だけ。

源流への道。

そんな心細さを和らげてくれたものがあります。過去にここを歩いたハイカーたちが残してくれたケルンです。石を積み上げたケルンは、この場所では単なる遊びではなく、コースを見失うことを防ぐための目印。岩と枯れ色の草地と細い流れが広がる単調な場所で、進む方向を教えてくれるケルンを見つけるたびに、見知らぬハイカーたちとの絆を感じ、思わず「ありがとう」を口にしていました。

平坦なところでは青白マークは見つけにくいので、石を積んだケルンが心強い目印になる。
誰かが運んできた手製の標識。「設置」が許されないのか倒したまま。オランダの河口まで1222km。

川が生まれる場所

視界の開けた堆積地を歩き続けた末にたどり着いた源流域は、氷河が最後に登っていったであろう急峻な山肌に囲まれた岩場。山肌の至るところから清水がいく筋も流れ出し、寄り集まり、何本もの小さな流れを作っていました。

源流域。岩肌に囲まれ、なんとなく神聖な空間。

朝8時に出発してから、ここまで約6時間半。よく歩いたご褒美は、座り心地のいい岩。ラインの生まれるせせらぎ。そして足元には手を伸ばせば触れられる澄んだ水があります。冷たい。でも優しい。この流れもやがて一本の川になり、海へと続く…。…地球はデカい。

これもライン川の源流。顔を洗わせていただきました。

しかし。秋分を過ぎたばかりのこのあたりの日没は19時半前。時間を考えると、そろそろ戻らなければ闇夜の軍事施設を歩くことになる。あの黄色い注意書きを思うと、それはちょっと遠慮したい。飲むことは控えましたが、源流の水で顔を洗い、帽子を濡らし、下りのエネルギーを頂戴して引き返しました。帰路は小屋を挟んで標準所要時間通り、1時間半+2時間半で暗くなる前に下山できました。

2つの流れが出会う場所へ

翌朝、B&Bの女将にハイキングの報告をし、バイクを走らせ、ライヒェナウ(Reichenau)という小さな町へ向かいました。この町でヒンターラインとフォルターラインが合流し、私たちが知る「ライン川」となって流れ始めます。
合流の様子は印象的でした。ふたつの川が、そこで一度滞留し、緩やかにたゆたう情景は、まるで新しい旅立ちを前に、何か相談をしているようにも見えました。

穏やかな出会い。手前がフォルター、奥がヒンター、左奥が流れ出していくライン川。
流れが緩やかなのでビーバーも暮らせるようです。

帰り際、ふたつの流れがひとつになり、「ライン川」となって流れ出していく河原で、丸く削られた小石を一つ拾いました。愛おしいそれは、まだ革ジャンのポケットに入ったままです。

興味本位で大河ラインの源流を訪ねましたが、期待以上のハイキングになりました。普段何気なく橋の上から眺めている身近な川も、溯っていけば、きっと始まりに行き着くはず。
もしそこに歩いて行ける道があるのなら…。

著者画像

伊藤康弘さん

スイス在住ライター

スイスの山の中腹にある全寮制の学校で寮監、教員として長年勤務。現在は退職したものの、澄んだ空気と景観に魅了され、スイスに居座る至って普通の日本人。遅ればせながら自分の目でこの国や周りの国を見ておこうと地味に活動中。100カ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

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