映画『炎はつなぐ』の監督に聞く。「へ~!」がいっぱいな職人の世界 | 映画 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

映画

2026.03.14

映画『炎はつなぐ』の監督に聞く。「へ~!」がいっぱいな職人の世界

映画『炎はつなぐ』の監督に聞く。「へ~!」がいっぱいな職人の世界
15年以上に渡り、全国150か所もの職人を取材してきた写真家の大西暢夫監督。そこから養蚕農家、和紙職人ら、14か所の職人の技を記録した映画『炎はつなぐ』が公開されます。「職人の話ならいくらでもできます」という監督に、撮影こぼれ話を聞きました!
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『炎はつなぐ』(配給:シグロ)
●監督・ナレーション:大西暢夫 ●撮影:大西暢夫、今井友樹 ●7/19~ポレポレ東中野ほか全国順次公開
© 2025 シグロ/大西暢夫

和ロウソクは芯が技アリ!

和ロウソクについて、特徴的なカタチのイメージくらいしか持たない人がほとんどでしょう。現在、日本でロウを出荷する会社は全国で4軒。それぞれロウの抽出方法から違います。映画では圧縮法を取り上げていますが、いまはガソリンに含まれる化学薬品(ヘルマル・ヘキサン)を使って抽出するのが主流で、それだと原料の98%ほどのロウが取れます。圧縮法では約20%しか取れません。

和ロウソクの芯は竹ひごに和紙、その上に灯芯草(とうしんそう)の髄を数本まき、それを薄く伸ばした真綿で覆います。ロウは意外と‟終点”が早くて。真綿のことは養蚕農家をずっと取材してきたので詳しかったのですが、難関は灯芯草でした。水でふやかした灯芯草の髄をナイフを使ってシューっと抜いていく、「灯芯引き」の職人は映画に登場するおばあちゃんたちがギリギリ現役で。本当に地味な仕事ですが、僕の取材を通して改めて、和ロウソクづくりで自分がいないと大変! と理解できたそうで、「自分の立ち位置が見えた」と喜んでくれました。

知られざる墨職人の仕事

450年ほど続く「古梅園」。職人さんは全身真っ黒!

おばあちゃんたちの引いた灯芯草は、奈良市にある「古梅園」でも多く使われます。小さく巻いた髄が菜種油を吸い上げて燃えた火から煤をとり、集めた煤を膠(にかわ)で固め、習字に使う「油煙墨(ゆえんぼく)」をつくる。このとき、灯芯草のサイズやまき方によって煤の質は変化します。

灯芯草をぎゅっと小さく固くまくと燃えるのに時間がかかるので、煤は細かいパウダーになる。煤が細かいと練るのもものすごく固いのですが、これが「漆墨(しつぼく)」という高級な墨になります。

食欲旺盛なお蚕さん

養蚕農家のおばあちゃん、80代でバリバリの現役。働き者!

映画に登場した養蚕農家には1か月間、つなぎを着てカメラを持って、撮影しながら泊まり込みでお手伝いしました。ひたすら桑の刈り取りです。朝、トラックの荷台いっぱいに積んだ桑が午後にはなくなる。お蚕さんが小さいときは新芽の柔らかい葉をみじんぎりにして与えます。人間でいう離乳食ですね。その頃は朝8時の時点で、既に3回目の餌やりだったりします。僕は1か月ほどでしたが、映画に登場する農家さんは年に4回繭を出荷するのですから大変な労働です。

またお蚕さんの出す糸は、季節で変わります。春は葉が柔らかいので、糸も柔らかい。そこで春糸はお琴などの和楽器に、それで秋は糸がゴワゴワになるので帯などに使います。

ミツマタ農家は焚火の達人!?

ミツマタを大鍋で蒸すには火加減が大事。焚き火好きなら興味津々。

和紙の原料であるミツマタ。3年ほどかけて育てて伐採し、大鍋で蒸し上げて皮をむく。難しいのは真冬、氷点下になる屋外で大鍋を沸騰させることです。それには、火の置き方が大事で。40℃くらいならいいでしょうが、沸騰させ続けなければいけません。しかもお鍋の真ん中だけで端っこの温度が低いとダメで、全体が均一にゴトゴトいうほど沸騰させる必要があります。

神聖な空気が漂う蒅(すくも)づくり

葉藍の山を切り返す。葉藍を積む高さ、藍にかける水の量などを判断する職人が「水師」。その判断で、すくもの出来が左右される。まるで日本酒造りの杜氏のよう。それにしても、聞いたことのない職種が続出。

藍染のもととなる染料「蒅」をつくるのは全国で5軒だけ。徳島県の新居製藍所では藍を葉と茎に分け、葉は太陽にあてて乾燥させ、枝は細かく砕いてウシやブタやニワトリのフンと混ぜて藍の畑のたい肥に。乾燥させた葉藍はすくもをつくるための作業部屋、「寝床」に堆積して山をつくり、ムシロで覆って発酵させます。ひと山3トン、それを1日かけて切り返し、約100日かけて完成させます。

寝床にはピリッとした雰囲気が漂います。水師が水をまくとき、他の作業員は(体の前に手を組んで)見ている。基本的に手は出しません。

寝床の床は、淡路島の河原の土を叩いてつくります。やがて土の上に膜が出来て水を吸わなくなるので、3年にいちど土を全部入れ替えます。そうした教えが先祖から引き継がれ、いまのようなカタチに行きついたと。そこにはちゃんと意味があるのです。

昔は現代のように宅急便もありませんから、必要なものを遠くから取り寄せるわけにはいかず、さまざまな職人技は近所で完結させるしかありませんでした。そうして知恵を進化させていった、その塊が職人技なのだと思います。

大西暢夫監督。

●プロフィール

1968年生まれ、岐阜県出身。写真家・映画監督・作家。2025年日本写真協会賞受賞。「炎はつなぐ」(毎日新聞出版)も上梓。

浅見祥子さん

映画ライター

雑誌『BE-PAL』(小学館)、『田舎暮らしの本』(宝島社)、web「サライ.jp」(小学館)、「シネマトゥデイ」などで映画レビュー、俳優&監督インタビューを執筆。また、『芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら』などの書籍ほか、赤楚衛二『A』、菅田将暉『着服史』、小関裕太『Y』、藤原大祐『FeaT.』、菅井友香『たびすがい』(すべてワニブックス)などでインタビューを担当。

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