
刈払い機の刃に絡まって草刈りの邪魔になったり、道路や線路に侵入したり、とても厄介な存在ですが、日本人との付き合いが非常に長いなじみ深い雑草でもあります。クズの特性から除草のコツまで、雑草博士が解説します!
クズの生態と成長特性
クズは春先からどんどん大きくなり、気が付くとあっという間にクズだらけになります。クズは、それだけ繁殖力の強い雑草です。
クズの植物としての特徴

クズは、マメ科の多年草です。クズは種子で増えるだけではなく、根からも再生することから、根を抜き取らない限り毎年同じ場所から生えてきます。
生育場所は、街中から郊外までの広範囲に生育しており、特に、人が侵入しにくい鉄道周辺や河川敷では一面がクズに覆われていることがあります。
また、クズはつるを伸ばしながら育つため、壁やフェンスに絡まったり、木や農作物に覆いかぶさるように拡大します。
繁茂と分布

クズは九州から北海道まで幅広く分布しています。クズは、大きく育つと茎が木のように太く、そして硬くなります。
芽を出したクズは10メートルくらい伸び、6月から9月頃になると紫色の花を咲かせます。また、クズの種子はダイズを小さくしたようなかたちをしています。
クズの名前の由来と花言葉

クズという名前は、葛粉の産地だった奈良県の国栖(くず)という地名に由来するという説がありますが、漢字で書くと「葛」という字が当てられます。
クズの花言葉は、努力、芯の強さ、治癒、活力、根気など複数ありますが、活力という言葉が一番クズの実態に近いかもしれません。ただ、活力が有り余るほどあるので、人間にとってはかなりの厄介者になっています。
クズの歴史と文化的意義
クズと日本人の付き合いはとても古く、1500年以上も前から身近な雑草として様々に活用したり、歌に詠まれたりしています。
秋の七草
以前、春の七草(セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベ、ホトケノザ、スズナ=カブ、スズシロ=ダイコン)を紹介しましたが、秋にも七草が存在します。
秋の七草は、今から1300年以上も前の奈良時代の貴族である山上憶良(やまのうえのおくら)が詠んだ歌に由来するとされています。
具体的には、オミナエシ、オバナ(ススキ)、キキョウ、ナデシコ、ハギ、フジバカマ、そしてクズの7種になります。現代でもススキとクズはあちこちに生えていますが、オミナエシやフジバカマはあまり見かけなくなっています。
クズの活用法
クズといえば、根から取り出したデンプンが葛粉(本葛粉)として葛もちや葛湯に使われてきました。ただ、最近、葛粉として売られているものの多くはジャガイモやサツマイモのデンプンから作られています。
これは、クズの根からデンプンを取り出す作業が非常に手間と時間がかかるためです。もちろん、本葛粉も購入することができるので、葛粉と食べ比べしても面白いかもしれません。
また、クズの根は葛根(かっこん)と呼ばれていて、風邪の際に処方される漢方薬・葛根湯(かっこんとう)の中に入っています。その他にも、丈夫な茎を利用して布も作られていました。
クズから作った布
クズの茎で作った繊維は葛布‥かっぷや、くずふと呼ばれており、生産地としては静岡県の掛川市が有名です。掛川の葛布は、医師で植物にも詳しかったシーボルトが200年前の日記の中でも触れています。
現代では、葛布を使った財布や日傘、名刺入れなどが販売されています。
クズに似た絡まる雑草
ここで、クズのように街路樹やフェンスに絡まる雑草をいくつか紹介します。クズと同じくとても厄介な雑草達です。
ヤブガラシ


ヤブガラシはブドウ科の雑草です。街中では、街路樹に覆いかぶさったりフェンスに絡まっています。「藪枯らし」という漢字の通り、藪を覆って木まで枯らしてしまうほど生育旺盛です。
花はとても地味ですが、なぜかスズメバチがよく集まっています。蜜をエサにしていると考えられていますが、もしかしたらハチを集める香りが出ているのかもしれません。
地上の茎や葉を刈り取ってもまた再生してしまうので、防除が難しい雑草です。
アレチウリ


アレチウリはウリ科の雑草で、日本には1950年代前後にやってきた外来種です。1度定着するととても厄介で、河川敷では全ての植物を覆うようにして広がっていることがあります。
しかも、花の周囲には無数のトゲがあり手に刺さるので注意が必要です。1度、トゲが刺さってしまったことがあったのですが、その時は、小さなトゲを抜くのにとても苦労しました。このため、アレチウリは特定外来生物に指定されています。
特定外来生物は、生きたままの移動や栽培が禁止されており、根が付いたままの持ち運びや、庭などへの移植は法律違反となります。個人の場合、最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金を科されます。さらに、法人の場合には最大で1億円以下の罰金が科されます。
ちなみに、以前に紹介した黄色い花を咲かせるオオキンケイギクという雑草も特定外来生物に指定されているので注意が必要です。
クズの除草方法
クズをどう除草するか‥正直、それほど選択肢は多くありませんし、手間もかかります。
除草剤
現在のところ、除草剤の使用が一番簡単なクズの除草方法です。ただし、クズは茎や葉だけを枯らしても根が生きていればまた再生してしまうため、根までしっかりと枯らす必要があります。このため、大型のクズの場合、定期的に散布をすることで徐々に減らすことができます。その際には、除草剤の濃度と散布回数をちゃんと守るようにしてください。
防草シート

写真のように、土壌を防草シートで覆ってしまえば、クズ以外の雑草も抑えることができます。ただし、防草シートで覆う前にしっかりと除草をしておくことが大切です。
そうしないと、防草シートが雑草に突き上げられて破れてしまうことがあります。また、防草シートは数年経つと劣化してくるため、定期的に交換する必要があります。当然、防草シートを交換するたびに経費と貼り直す手間がかかります。防草シートは、小さな面積であれば有効な手段ですが、大面積には不向きです。
地下の根を掘り起こす
クズの根を土から掘り出してしまえば、いくら強いクズでも再生することができません。ただ、クズの根は広範囲に広がっているので、掘り出すのはかなり過酷な作業になります。土に中途半端に残ってしまうとすぐに再生してしまうので、徹底して掘り出す必要があります。
時代に翻弄されるクズ
フェンスや木をあっという間に覆ってしまう一面を見ればクズは厄介者ですが、葛粉や葛布に注目すれば、とても役に立つ植物です。どんなことにも両面性があるのですが、クズの評価は時代とともに大きく変化しています。
グリーンモンスターとしてのクズ

アメリカでは、クズが大繁殖してしまい大きな社会問題になっていますが、このクズは、日本から持ち込まれたものでした。
持ち込まれた当時は、家畜の飼料や土壌の緑化用に使われ、とても役立つ植物という認識でしたが、農地に侵入したり森の木を枯らしてしまうなどの問題が大きくなり、時代とともに迷惑な雑草となってしまいました。
昔は奪い合い
日本では、栄養豊富なクズが馬の飼料としてよく使われていました。奪い合いにならないように、クズを刈り取る日が集落ごとに決められているほどでした。
馬は、現代の自動車や耕うん機のような動力源だったので、クズはまさにガソリンのような貴重な存在でした。しかし、現代では馬が大幅に減ってしまったため、クズをわざわざガソリンを使って刈り取って棄てています。
そんな様子を昔の人達が見たら、もったいないと思うかもしれません。
クズと上手く付き合う
クズに困っている方がほとんどだと思いますが、昔の日本人のように、クズの茎から繊維を取り出してみたり、根を掘り出して葛粉を作るなど、改めてクズと向き合ってみるのはどうでしょうか?
もしかしたら、我々が見落としているクズの利点や魅力が見つかるかもしれませんし、防除のヒントを発見できるかもしれません。どっちみち、これから先もクズとは長い付き合いになるので、どうせならば上手く、楽しく付き合っていきたいですね!