
それまで、スピティ各地のゴンパ(チベット仏教の僧院)では、僧侶たちによる雪乞いの祈祷が行われていましたが、それらの祈祷が無事に成就したことを受け、スピティのキッバル村では、キー・ゴンパという僧院から戻ってきた村の使者を出迎える儀式が行われました。
女性たちが手にしているのは、カタと呼ばれる儀礼用の白絹のスカーフです。
【雪豹に会いに、インド・スピティへ 第6回】
スピティの女性たちの、伝統的で艶やかな盛装

出迎えの儀式に参加していた、スピティ特有の盛装をしたキッバル村の女の子。肩にかけているのは、トルコ石をびっしりとちりばめたヘッドギア。これを頭にかぶると、銀の装飾で顔が覆われてほとんど見えなくなります。
ようやく雪に覆われた、冬のスピティの風景

キッバルは、スピティの中心地カザから北西に十数キロ離れた場所にある村です。村の標高は約4200メートルに達し、400人弱の村人たちが暮らしています。まとまった積雪のあった日の翌朝、村のあちこちでは、屋根や玄関先、道路などで雪かきに精を出す村人たちの姿が見られました。

キッバルの村の周辺はワイルドライフ・サンクチュアリ(野生動物保護区)に指定されており、アイベックスやブルーシープ(バーラル)といった草食動物たちや、狼や雪豹などの大型肉食獣が生息しています。
冬になると、それらの野生動物たちは、雪が深くなる高い山の上から、村のある付近にまで下りてくるため、その姿を撮影しに、多くの撮影者たちが集まってきます。

野生の雪豹の撮影に本格的に取り組む際の拠点として、僕はこのキッバルを選び、この後、約1か月間、村の民家にホームステイさせてもらう形で滞在することになりました。
スピティを象徴する壮麗な僧院、キー・ゴンパ

キッバルから7キロほど南、標高が4、500メートルほど低い場所に、チベット仏教ゲルク派の僧院、キー・ゴンパがあります。この僧院の創建の由来は定かではなく、11世紀頃に、この地にカダム派の僧院が建てられたのが始まりとも伝えられています。
17世紀頃には、キー・ゴンパはゲルク派の僧院としてこの地で機能していたようですが、19世紀にはジャンムーのドグラ軍の侵攻によって、僧院は壊滅的な被害を受けてしまいます。その後も地震や火災などによって、キー・ゴンパは破壊と再生を何度もくりかえしてきました。現在の僧院の建物の大半は、比較的最近になって再建されたものだそうです。
このように周囲が一面の雪に覆われたキー・ゴンパの姿を写真に撮るなら、雪が降った夜の翌日、晴天の朝が狙い目。この日はまさに、思っていた通りの風景を撮影することができました。