英ロングトレイル「COAST TO COAST」紫の絨毯とミニストーンサークル

2019.05.14

DAY 6【Shap to Kirkby Stephen 総距離33km】

昨夜未明にまたもやテントポールが風もなければ何も圧力をかけたわけではないのに、ポッキリと折れた謎の事件により、私たちは困惑した。結局、再び熟睡することができないまま、夜が明けてしまった。今日はさほどアップダウンはないものの、33kmの歩きが待っているというのに…。

ガイド本によると、休み時間抜きで、テントを背負っていない身軽な人のペースで7時間とあるので、私たちのペースではゆうに10時間はかかることが想定される。
不思議なことに、歩き続けて6日目ともなると、身体に疲労物質が溜まるどころか、体力がついてきたおかげか元気が漲っている。おそらく自然の中で過ごし沢山のマイナスイオンを吸い、太陽を浴びているのも手伝っているからに違いない。  

キャンプ場を出て、牧場を抜ける。

「おはようございます!」と羊たちに挨拶をしながら通り過ぎる。

前方の大きなM6 Motorway (高速道路)を越える。

ここでだいたいC2C3分の1を歩き終えたことになる。それにしても、都会の喧噪から離れていると、高速道路や工場という巨大な人工構造物に妙な違和感を覚える。

Shapのセメント工場。

この辺りには6000年前に作られたストーンサークルがあるとされ、ガイド本には左側に出てくると書いてあったが、残念ながら見つけられなかった。

Crosby Ravensworth Fellのあたりは石灰岩が溢れている。

そして、目の前の丘には紫色の絨毯が覆っている。

大きなボルダーがぽつんと。

色鮮やかな野花も咲き乱れる。

イギリスでは「荒野」のことをHeathと呼び、そこに咲くツツジ科の常緑低木はHeatherと呼ばれている。

ヘザーウサギがたまに、heatherの下の巣穴から巣穴へ穴から穴へ、飛び跳ねながら出入りする。

目を凝らしてよくみると小さな可愛らしい花が寄り添って咲いているのがわかる。

紫色、橙色、緑色の草原のグラデーションに息をのむ。

そして機会があるたびに膝をストレッチ。

羊横断注意のマーク。

羊の尻尾も愛嬌があり可愛らしい。

ようやく見えたストーンサークル!

Orton Scarに入る手前のスタイルと呼ばれる、家畜は通さず、人のみが越えることができる柵の一番高いところから右手を向くとストーンサークルが見えた。このあたりには沢山ストーンサークルがあるとされているにも関わらず、これまでなかなか見当たらなかったのでようやく実際に見ることができて満足。

平らな田舎道をしばし歩き休憩をしていると、背後から何度もすれ違っては挨拶を交わしてきた、犬を4匹引き連れたイギリス人の二人組が追いついてきた。

名前は、スティーブンとチャールズ、ということで、あだ名はキングとプリンスに決定。

二人は、それぞれが飼っている2匹の犬と旅をするために車2台を駆使し、毎日、その日の目的地点に1台を回しておき、もう一台でその日のスタート地に戻るという方法を取っている。そうすることで重いキャンプ道具を運ばずに済み、また場合によっては、犬と車中泊できるという。
イギリスのどこから来たの?と尋ねる。

キング「僕らは、Stonehedgeの近所に暮らしているよ。ただ、言っておくけど、僕らはカップルなわけではなく、それぞれ妻が自宅に待っているからね!」といかにもイギリス人らしいウィットでもって改めて自己紹介をしてくれた。そんな彼らと歩いていると、可愛らしい小屋と休憩スペースが出てきて、みんなで立ち寄ることに。

無人の売店。

手作りの菓子やジュース、コーヒー、紅茶の飲み物の代金をHonesty boxという箱に入れるというシステム。

地元のおばちゃま(想像するに)の手作りのパウンドケーキと温かい紅茶を頂きながら、ほっと一息ついていた。しばらくすると、昨日Shapのプールについて教えてくれたSharronが追いついてきた。彼女は歩くスピードが半端なく早く、リュックが赤いことからあだ名はレッド•ロケットとなった。歩いているとお互いに勝手にあだ名を付けてしまうものだ。そんな彼女は8月下旬の今回の旅を4月に既に計画し、宿もすべて押さえ、11日間で走破する予定だという。

スタート時点のSt.Beesで拾ったそれぞれの石を見せ合いっこした。

元気を盛り返したところで、再スタート!

早くもレッド•ロケット•シャロンには あっけなく追い越され,あれよあれよと言う間に彼女は丘を越え、遠い彼方へと消えて行った。

Yorkshire Daleエリアに近づいていくと石壁(Dry stone wall)が延々と続き、ただただ圧巻だ。

場所によっては600年も前から変わらず残っているこの石壁。
Yorkshire Daleエリアだけでも、計800KmあるとされるDry stone wallは地元の自然の石を利用し、モルタルなどといった接着剤を使用せずに積み上げて造られている。

壁の内側は細かい石で埋められ、最後に仕上げとして大型の石をコーピングストーン(笠石)として乗せ、強度を高めている。長い歴史と地元の素材を活用し、ひとつひとつ積み上げられた壁は周りの景色と見事に溶け込んでいる。

きれいに石を重ねられて作られた石壁。

歩くルートはたまに石壁を超える。

何kmも続く石壁。

すっかり毛を刈られた羊はブルテリアのようにも見える。

Scandal beckにかかる石作りのSmardale橋。

18世紀に荷馬が川を渡れるようにと建造されたという。このあたりは、Severals Villageという集落があり、有史以前より人が暮らしていたと見られているという。

未だ発掘作業がされていないが、考古学的にはすごく重要な場所とされている、とガイド本には書いてあった。

Smardale Gill 高架橋。

石灰石の採掘場跡。

ゆるやかな牧草地をKirkby Stephenを目指し歩いているとC2C仲間となったキングだけが自分の犬2匹を引き連れて追いついてきた。

垂直の階段を楽々降りる犬のウッディー。

「プリンスと犬たちはどうしたの?」と聞くと、プリンスのラブラドール・リトリーバー2犬のうち一匹が完全にへたばってしまい、にっちもさっちもいかなくなってしまったという。よってキングだけ、先の目的地に駐車しておいた自分の車に向かい、その車でプリンスを迎えに行き、プリンスはいったん犬を家に連れて帰る作戦だという。いくら散歩好きな犬でもあったとしても、ここまで毎日歩くことになるとは想定していなかったのであろう。。。

先を急ぐキングと犬のウッディーとミリー。

ちなみにキング曰く、犬たちとはこのC2Cを歩く前にトレーニングとして、1/30km以上歩く経験を積ませ、日頃も15km歩くことに慣れさせていたという。ラーチャー犬のウッディが6歳、ラフ・コリーのミリーが4歳という比較的まだ若いというのもあるので体力があることも計算に入れていたそう。

持ち物としては、犬用のファーストエイドキットを携帯していた。 万が一、足を傷つけてしまった場合の殺菌クリーム、バンデード、足を保護するゴム靴、余分のドッグフードに水を持ち歩いていた。後日談としては、大概、川や湖があるので、イヌ用の水は使わずに済んだという。ウッディは猟犬であるため、本能としては兎や羊を見ると追いかけるところだが、毎日歩きに歩いていたので、体力温存のためか追いかけるようなことはしなかったのでリードに繋がなくても大丈夫だった、という。(ただ、牧場内に入る際は犬をリードにつないでおく必要はある)犬たちは実際、人間が歩く3倍以上の距離を歩くとされ、毎晩、車中泊した際は、犬たちは爆睡していたという。最終日、ミリーは疲労困憊してしまったので、彼女だけ、犬用のデイケアセンターに預け、完走したと教えてくれた。

そんなわけで、先を急ぐキングと犬たちと別れを告げ、私たちはのんびりKirkby Stephenを目指す。

トンネル内のスタイルを越えるアリー。

ようやくキャンプサイト、The Pennine View Caravan and Camping Parkに到着! 

昨晩、無惨にも折れたテントポールはスペアスリーブで補修をして対処。

村の中心部の手前にあるため、村へのアクセスも良好。お腹が空いたので、早速パブで食事をしようとするも、村に2件しかないパブは、共にバンクホリデー(Bank Holiday) という国民の祝日で観光客が溢れていて入れない。幸い、フィッシュ•アンド•チップス屋さんが閉店する直前に滑り込みセーフとなり、テイクアウトをする。

ギットリと揚げられたタラとポテトの油分は砂漠に降り注ぐ雨のように、疲れた身体の細胞一つ一つに吸収されていった。

なんとか立っているテント。

足を上げて、ストレッチをしたいところだが、二度ある事は三度あるということで、またしてもテントポールが折れないよう、静かにシュラフに潜り込む。それにしても、そろそろ室内で寝返りができるベッドでのびのびと眠りにつきたくなってきた…。

 (実際歩いた距離36.1km、万歩計60,206歩)

写真・文/YURIKO NAKAO

プロフィール
中尾由里子

東京生まれ。4歳より父親の仕事の都合で米国のニューヨーク、テキサスで計7年過ごし、高校、大学とそれぞれ1年間コネチカットとワシントンで学生生活を送る。
学生時代、バックパッカーとして世界を旅する。中でも、故星野道夫カメラマンの写真と思想に共鳴し、単独でアラスカに行き、キャンプをしながら大自然を撮影したことがきっかけになり、カメラマンになることを志す。
青山学院大学卒業後、新卒でロイター通信社に入社し、英文記者、テレビレポーターを経て、2002年、念願であった写真部に異動。報道カメラマンとして国内外でニュース、スポーツ、ネイチャー、エンターテイメント、ドキュメンタリーなど様々な分野の撮影に携わる。
休みともなればシーカヤック、テレマーク、ロードバイク、登山、キャンプなどに明け暮れた。
2013年より独立し、フリーランスのカメラマンとして現在は外国通信社、新聞社、雑誌、インターネット媒体、政府機関、大使館、大手自動車メイカーやアウトドアブランドなどから依頼される写真と動画撮影の仕事と平行し、「自然とのつながり」、「見えない大切な世界」をテーマとした撮影活動を行なっている。
2017年5月よりオランダに在住。

好きな言葉「Sense of Wonder
2016 Sienna International Photography Awards (SIPA)  Nature photo 部門 ファイナリスト
2017  ペルー大使館で個展「パチャママー母なる大地」を開催

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