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電気水道電話ナシの幸せ生活!映画『ふたりの桃源郷』が3週間限定アンコール上映。

2017.04.21

(C)山口放送

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『ふたりの桃源郷』

(製作著作/山口放送)

●監督/佐々木聰 ナレーション/吉岡秀隆 
●5/20~6/9 東京・ポレポレ東中野で公開

https://www.mmjp.or.jp/pole2/

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 山奥を切り開いて〝土に生きた”老夫婦の25年間を綴るドキュメンタリー映画『ふたりの桃源郷』が、公開一周年を記念して、5月20日より3週間限定でアンコール上映される。キネマ旬報ベストテン文化映画部門第1位ほか多くの映画賞を席巻、全国各地の劇場と自主上映で6万人超を動員した作品を、再び劇場のスクリーンで観られる貴重な機会となりそうだ。

 映画の主人公は、「自分たちが食べるものは自分たちの手で」と還暦を過ぎて故郷の山口県岩国市の山に戻り、農的生活を営む田中寅夫・フサコ夫婦。

 昼間は畑で汗を流し、収穫した野菜を分け合って食べ、夜は寝室に改造したバスで肩寄せ合って眠りにつく。

 ときに厳しい山での暮らしを強固な意志で”桃源郷”に変える二人の姿に見入るうち、いかに老いて最期を迎えるか? 誰にとっても他人事でない命題を改めてつきつけられる。

 監督を務めた佐々木聰さんは山口放送に所属し、情報番組を担当するディレクター。25年に渡って取材・放送されたドキュメントを再編集したこの映画の撮影現場とは、どのようなものだったのだろう?

 

――田中寅夫・フサコ夫婦との出会いから教えてください。

「自分たちが食べるものは自分たちの手で」――還暦を過ぎて故郷の山口県岩国市の山に戻り、農的生活を営む田中寅夫・フサコ夫婦。昼間は畑で汗を流し、収穫した野菜を分け合って食べ、夜は寝室に改造したバスで肩寄せ合って眠りにつく。ときに厳しい山での暮らしを強固な意志で”桃源郷”にかえる二人の姿に見入るうち、いかに老いて最期を迎えるか? 誰にとっても他人事でない命題を改めてつきつけられるドキュメンタリー映画『ふたりの桃源郷』。

監督を務めた佐々木聰さんは山口放送に所属し、情報番組を担当するディレクター。25年に渡って取材・放送されたドキュメントを再編集したこの映画の撮影現場とは、どのようなものだったのだろう?

――田中寅夫・フサコ夫婦との出会いから教えてください。

「25年前、最初にご夫婦を取材したのは僕の一回り年上の先輩でした。3年ほど取材して制作された番組を観たのですが、そのときにお二人は80歳手前くらいで、それから何年も経っていて。お二人はまだこの生活を続けているのか? お元気だろうか? という疑問が、私が新たに取材を始めるきっかけでした」

――最初の番組から7年後、佐々木さんは平成13年に取材を始められますよね。映画を観ていても、7年後のお二人はかなり年を取られたなという印象でしたが?

「特におじいちゃんは顔がとにかく全然違う、歩くのもままならないほどでした。畑仕事もほとんどできなくなっていましたが、集中して力が出てくるんでしょうね、重たいオノで薪割りする姿を見てビックリしたんです。その姿に、ここで生きたいという凄味を感じました」

――基本的にはおじいちゃんがあの生活を望み、おばあちゃんはそれについていく感じだったのですか?

「そうですね」

――寅夫さんがそうした生活を志すのは戦争体験がきっかけに?

「……恥ずかしながら僕はそのことを、お二人が亡くなったあとに気づきました。未熟だったんですね。取材中は”昔懐かしい生活を送りたい”という郷愁のようなものかと思い、おじいちゃんに理由を尋ねると、”いやワシらは歯を食いしばってここを耕したんだ”という話になる。取材中にはしばしば、”石の上にはなにもできないけど、土があればなんでもできる。土はすごいんだ”という話が出てくる。いま思えば、それこそが大切なことだったんですね。亡くなってはじめて、いちばんの口癖だった”食べるもんだけは自分で作り出さなきゃいけない”という言葉の意味がす~っと自分の中に入ってきました」

――三女の恵子さんが夫と営む寿司屋をたたみ、ご夫婦の世話をするために故郷に帰りますよね。それもなかなか出来ないことだなと。

「恵子さん夫婦もおじいちゃんの畑を継いで初めて、おじいちゃんが僕らに取材させた理由がだんだんと明確になったようです。”食べるもんだけは自分で作り出さなきゃいけない”というのを自分なりに伝えたかったからかなと。思い返せばおじいちゃんは、僕らがペットボトルのお茶を持ってきているのも、う~ん……と言ってましたから。それで山で採れた草をお茶にして飲ませてくれて、うまかろう? と言ったりして」

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――お二人はずっと仲が良かったのでしょうか?

「ときどきはケンカもしてましたよ。おじいちゃんが畑でキレイに種を撒いていると、おばあちゃんが後ろに下がりながらそれを踏んでいって。するとおじいちゃんがうわ~! と言い出す(笑)。昔はおばあちゃんも負けずに言い返したみたいですが”なんか言いよる”ってどこかへ行っちゃう。でも……映画の中で物忘れがひどくなったフサコさんが、おじいちゃ~ん! と叫ぶシーンがありますよね。おじいちゃんが亡くなったあと取材にいくと、いっつもあんなふうに姿を探していました。本当に仲が良かったし、互いを想っていらっしゃったのだと思います」

――映画は後半いかに老いるか? 最期をどう迎えるか? という問題に視点が映りますよね?

「最初にご夫婦を見い出した先輩は”老人の自立”をテーマに取材していました。そこから僕は二人があの山で生きていく姿、その凄味のようなものを撮ればいいのかなと思い、なんとかここまでやってきました。ですからお二人が老いていくこと、その場にいてカメラを向けさせてもらうことに辛さはありませんでした。むしろ……僕はこの取材を始める少し前に、実の祖父母を立て続けに亡くしたんです。ですからあの山へ行くこと自体がじいちゃんばあちゃんに会いにいく感覚で。実の祖父母になにもできなかったことの罪滅ぼし、とまで言わなくても、お二人に会えるのがうれしかったんですよね。おじいちゃんのガサガサした手とか、年を重ねた方独特の匂いやしゃべり口に触れたくて」

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――老人ホームに入り、体調を崩した寅夫さんを見つめるフサコさんの宙を見据える表情なども印象的でした。一緒に時間を過ごすなかで、撮影はどのように始まるのですか?

「カメラマンは3~4人が担当しましたが、あれはなかでもいちばん長回しをするカメラマンでした。自分の存在を消し、粘り強く撮るタイプ。あの日は訪ねて行ったときからおじいちゃんの調子が悪かったんですよ。カメラマンは持ってきたテープの量なんて関係なく、着いた瞬間からカメラを回し始めました。”佐々木の心が動いている、これは撮らないと”と思ってくれたみたいで。スタッフとは事前にコミュニケーションをとり、ご夫婦と同じ時間を過ごして喜怒哀楽をごろごろと一緒に転がってきているから、向いている方向が同じなのだと思います。音声も自分の気配を消す忍者みたいな男が録ってます(笑)」

 

――15年間取材をして、寅夫さんフサコさんや恵子さん夫婦から影響を受けた部分は?

「誰しも祖父母や親を亡くした経験がありますよね。そういうとき、僕もそうですが”なにもできなかったのは仕方なかった”と片づけてしまいがちだけど、目の前に恵子さんご夫婦のようにそうではない人たちがいて。やっぱり人として努力しなきゃいけないというのを取材へ行くたびに感じていました。実際には電話する回数が増えるくらいですけど」

――取材しながらも、いろいろと考えてしまいそうです。

「山へ行く日は朝からスイッチが入り、行きの車中から誰もが身内話を始めます。それで取材の帰りはいつもご夫婦がずっと手を振ってくれるのですが、車に乗ってしばらくは皆が黙っています。それで林道が終わったくらいから”俺がしゃべりたい””俺が”とみんながしゃべり出す(笑)。観る人には、そうした感動をそのまま体験していただきたい。ふつう番組をつくるときは起承転結を考え、視聴者にはここを感じてもらいたいなどと考えますが、これに関してはそうした考えをハメこんではいけないだろうと。作りこみ過ぎず足さず引かず、を心がけました」

――映画の元になったドキュメントはさまざまなかたちでなんども放送されたそうですが、どのような反響がありましたか?

「みなさんそれぞれに感じ方が違って、自分とオーバーラップさせるんですよね。あのご家族から僕らは大事なものをもういちど見つめ直すスイッチを入れてもらうのだなと。お二人は清潔さやひたむきさ、僕らが”こうありたい”と思うものを持っていらっしゃったのだと思います。以前大先輩に言われてここ数年で実感したのですが、ドキュメンタリーって”かくあるべき”を示せないと、哲学がないとダメだなって。その人のスピリットに共鳴してそれを伝える、大上段に構えるとそういうことだろう…ってすいません、偉そうなことを言って。でも頭で理解できても心に届くものがないと、いまの時代になかなか人は振り向いてくれないですよね」

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――そうしたドキュメンタリー映画を地方で撮ることになんらかの強みがあると思いますか?

「僕らはもともとドキュメンタリー番組の映画化が目標ではありません。情報番組内の10分の特集が日々の仕事だとしたら、それを月に4~5本やって。その積み重ねでそろそろ1本の番組にしようという話になり、そうしたことを何度も繰り返して再編集し、今回映画になりました。あくまで地域の身近なことをお伝えするのがベースです。東京にいて地方を取材する場合は長くてもきっと数年で終わりますよね。僕らはその地にずっと暮らしていて、真面目にやって日々勝負しているからこそ、つぎもまた取材させてもらえる。番組づくりを目的にすると取材者と被取材者になってしまうけど、結局は人と人です。放送されたもので信頼を得られれば、いい緊張感がずっと続く。その繰り返しで、それは確かに地方だからこその強みなのかもしれません」

 

――山口県内の新規就農者の取材を続けているそうですね。農業をうまく軌道に乗せた人に共通点はありますか?

「農家さん巡りをして4~5年になりますが、生産自体がうまくいかないとか収入が少ない等、誰もが”うまくいってる”わけではありません。作物が充分に収穫できても、それをただ農協に持って行けばいいというわけではありませんよね。農業の”業”の部分、いかに売るか? が問題で。でも農業って自分の手を使って汗を流し、努力して作物を実らせてそれを食べる。努力して自分の手でなにかを生み出すという仕事で、目の前の人がそれを食べて美味しいと言ってくれると、そこに喜びを感じる。とてもシンプルでわかりやすいところがあります。

それでみなさん”自分たちが食べるものは自分たちの手で”と、『ふたりの桃源郷』のおじいちゃんと同じようなことを考えているんです。農業者にとって食の安全等という問題はわかりきったことで、街で暮らす人間がわかっていないんですよね。自分で食べるものを自分でつくることの意味を”やってみればわかりますよ”と、年若い農業者に言われたりして。それで僕も二畝ほどのちっちゃい畑を借りて大根やジャガイモをつくってみましたが、二畝ってけっこう広い。おじいちゃんの畑なんていつでも土がふっかふかでしたけど、そのすごさも自分でやって初めてわかりました。耕し方が足りないからニンジンも細~くなっちゃうし、大根は石にあたって途中で成長が止まったりして、こりゃあ大変だ! と(笑)」

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――例えばどんな方を取材されたのでしょう?

「そうですね…取材当時26歳くらいの女性で、お米農家さんとか。彼女は山口を出て東京の大学に行き、一人暮らしをしました。コンビニでお弁当を買ってレンジでチンして食べるという生活に”これは私じゃない”と感じて。東京では楽しいこともたくさんあったけど、それでぽんっと故郷へ戻り、おじいさんから広大な田畑を継いだんです。おじいさんは収入を安定させるために田畑を広げたそうですが、彼女は生産性を追及するやり方に疑問を抱いて有機栽培を始めて。子どもを産んで、さらに”食”への思い入れを強くしたそうです。そうした姿を取材して情報番組で紹介するとかなりの反響があり、もういちど取材に行きました。すると今度は鼻水を垂らしながら号泣するんですよ、”農家は大変なのに、それをわかってないですよね”って。とてもチャーミングな女の子なんですけど」

――放送を観て、彼女自身はそう感じたと。

「確かにその放送ではそこまで掘り下げられなかったし、自分はもっともっと農業について勉強しなきゃいけないなと思いました。ウルグアイラウンドとはなにか? TPPはどっちを向いた協定なのか? 等、表面的なことしか知らないし、農家の多くは補助金漬けで、そうじゃないと農業が立ち行かない。そうしたことを農家さんはみなさん知っていますが……本当にいろいろと考えさせられました。人間にとって本来は農家さんのように”自分が食べるものは自分で”というのが真理に近い在り方のような気がしますが、実際には街で生活する人たちの生き方が主流になっている。僕らのように地方の街に暮らす人間も改めて考えなきゃいけないなと思ったんですよね」

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監督=佐々木 聰(ささき・あきら)

1971年5月5日生まれ、山口県出身。平成7年山口放送入社、テレビ制作部配属。報道記者を経て、平成19年より情報番組のディレクターを担当。ドキュメンタリーを制作している。平成22年放送文化基金賞(放送文化 個人・グループの部)受賞。平成27年度(第66回)文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。その他「奥底の悲しみ」シリーズで日本放送文化大賞グランプリ、民放連賞(報道)最優秀賞、文化庁芸術祭優秀賞、「笑って泣いて寄り添って」シリーズで文化庁芸術祭優秀賞、民放連賞(放送と公共性)最優秀賞、日本放送文化大賞グランプリ候補、「20ヘクタールの希望」シリーズで民放連賞(報道)優秀賞、ギャラクシー賞選奨ほかを、それぞれ受賞している。

 

◎文=浅見祥子

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