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火を操る道具・マタギの里編(自然暮らし通信社・ババリーナwebちゃんねる)

2018.12.30

第4回「火を操る道具(火を操る道具・マタギの里編 本日の猫動画付き)」

火を操る道具には、人間が生きるために機能を追求してきた智恵がたくさん詰まっている。「火ばさみ」もしかり。我が家の火ばさみは、極寒北国のマタギ文化の中で培われてきた逸品だ。

私の故里は東北岩手の山深いマタギの里。秋田県阿仁マタギの流れをくみ、その文化が色濃く残っている。辞書によれば、マタギは東北地方・北海道から北関東、甲信越地方にかけての山岳地帯で、集団で狩猟を行なう者のこと。だが実際はひとくくりにできず、地方や村、各家庭によっても猟の仕方や風習が違う。

マタギの里での定番品のクマの敷物

写真は阿仁マタギの家の敷物。ちなみにマタギの里あるあるは、子供のかくれんぼで隠れる場所人気ナンバーワンが、この敷物の下。その際、1度はクマの口に足を突っ込んで転んで泣く。子供たちは皆、このクマの敷物を「ウザイ、ダサイ」と思っていて、マタギの爺ちゃんに「お願いだから可愛いカーペットに変えてくれ」と1度は懇願する。

マタギとは「狩猟を専業とする人」と考えている人も多いだろう。だが雪深い阿仁地方の猟は、主に冬期の営み。動物の生態を考慮した安全対策と、冬以外は獲物が腐りやすく加工に手間がかかり品質のよい毛皮がとれなかったのも理由のひとつだ。そのため1年のうち3分の2は農業を基盤とし、稲作の傍ら猟をしていた。

マタギ神社

安全と収穫を願って入山するときに必ず挨拶をする「マタギ神社」。

そんなマタギの生活を支えていたのが「薪」である。昔は各家に「ゆるぎ(炉)」と呼ぶ囲炉裏があり、ここが生活の中心となっていた。ゆるぎで暖をとり、鍋をかけて料理をし、薪灰の中に入れて焼く餅「しとぎ」を作る。猟で凍った衣類の「凍みとかし」を行ない、ゆるぎで鉛を溶かして猟の散弾を作った。

秋田県北秋田市阿仁にある「マタギ資料館」

秋田県北秋田市阿仁にある「マタギ資料館」に展示されている「ゆるぎ」。
マタギ資料館:0186-84-2612(マタギの里観光開発株式会社)

資料館のある阿仁マタギ駅

1年の半分は薪作りに費やした

焚火の薪は主にブナ、ナラ、着火用にシラカバや乾燥させた竹を使う。山で伐採した木を沢や川で流送し、「木揚げ場」と呼ばれる場所に引き上げて乾燥。その薪を専用のソリを使って運び、風通しのよい「木小屋」で再び乾燥させる。

昔は「薪は半仕事」と、1年の半分は薪作りに費やした。当時、マタギの里の子供たちが一番最初に教えられた仕事が、この「薪作り」である。厳しい冬を越すための大事な行ない。現在、私の自然暮らしを支えているのも、その教えが大きい。

西根鍛冶店の火ばさみ

そんなマタギの精神を受け継いだ極上の「火ばさみ」。秋田県北秋田市にある「西根鍛冶店」で製作している。

西根鍛冶店/秋田県北秋田市小又下川原149(阿仁前田駅そば)。

すべてこの1本でこなせる極上の火ばさみ

マタギの里の人気商品で、私は約7年前、ペチカ用に特注で作ってもらった。ペチカの火床が大きいので、普通の火ばさみより10cmぐらい長い(ペチカについては「火のある暮らし」「火を扱う道具・ロシア編」をお読みください)。

365日、毎日何度も重い薪をはさんだり引っ張ったり、火床をさらったり掃除したり…。使用頻度がはんぱない。にも関わらず、今までまったくへたりなし。歪みもなし。丸木をはさんで持ち上げるのも、マッチをはさんで火をつけるのも、すべてこの1本でこなせる極上品。「火ばさみは何よりもバランスが重要。へたったら持ってこい、直すからよ」と鍛冶屋のご主人。

火ばさみの先が曲がっているのは、薪を引っ掛けてかき出すためのもの。こんなに重い薪を毎日持ってもへたらず…、

見よ、7年たってもこの精度!

マタギの里の火ばさみに助けられながら、今日も心地よく、火と暮らしている。


ババリーナ裕子

かつてサハラ砂漠をラクダで旅し、ネパールでは裸ゾウの操縦をマスター。キューバの革命家の山でキャンプをし、その野性味あふれる旅を本誌で連載。世界中で迫力ある下ネタと、前代未聞のトラブルを巻き起こしながら、どんな窮地に陥ろうとも「あっかんべー」と「お尻ペンペン」だけで乗り越えてきたお気楽な旅人。現在は房総半島の海沿いで、自然暮らしを満喫している。執筆構成に『子どもをアウトドアでゲンキに育てる本』『忌野清志郎・サイクリングブルース』『旅する清志郎』など多数。本誌BE-PAL「災害列島を生き抜く力」短期連載中(読んでね)。

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