とはいえ、「山から下ってすぐにお酒を飲めるお店=下山後酒場」というのは、思いのほか軒数が少ない。そもそも山を下り終えるのは、ランチタイムには遅く、夜営業には早い時間帯の15〜16時頃だろう。その時間に山麓で店を開く酒場自体が多くない。これまで麓の町で、ゾンビのようにさまよい歩く〈酒場難民ハイカー〉をあまた目にしてきた。
しかし酒飲みハイカーにとって、下山後すぐに酒を飲めるかは、登山の根幹をなす問題のひとつである。そこで本シリーズでは、その解決の一助となれるよう、各地の下山後に適した酒場を探し、訪ねて歩いていく。以下に著者が考える「下山後酒場の三箇条」を挙げておく。
・開店時間は遅くとも16時から。(週末など曜日限定での営業も可)
・登山口/下山口から徒歩圏内。または公共交通機関一本で行けて帰れる。
・立ち飲みではなく椅子席がある。
ただし、上記三箇条をすべて満たさなくても、突出した魅力がある場合は、この限りではない。なお、本文はあくまで酒場紹介に主軸を置き、登山情報には注力しない。これもまた著者が酒飲みハイカー&ライターなる所以である。
- Text

藤川満の下山後酒場探訪 File No.2 福岡/宝満山・炭焼地鶏 山蔵編
へんぴな場所だが予約必須!わざわざ訪れたくなるホスピタリティと絶品地鶏の酒場へ

第二回目となる下山後酒場探訪は、福岡県太宰府市にある標高829mの宝満山。福岡県下で最も多くハイカーが訪れる、いわば「福岡の高尾山」的存在として親しまれている山である。
古くから信仰の対象とされてきたのは高尾山同様。しかし山中の登山道や山頂周辺の観光地化はされていないため、ハイカーが多いといえども高尾山の比にはならない。ただし、麓の太宰府天満宮周辺を除いて。
西鉄太宰府駅から登山口のある宝満宮竈門神社までバスが出ている。今回はあえて徒歩約40分かけて登山口を目指すことにする。
歩き始めは観光客や参拝客でひしめく参道を行く。道沿いには土産店やカフェが並び、下山後酒場の条件に合う酒場の気配すらないのは、高尾山とほぼ同じ状況だ。
そもそも太宰府天満宮と宝満宮竈門神社、そしてその御神体である宝満山が鎮座する霊験あらたかなるエリアにおいて、昼から飲むための酒場を探すこと自体、罰当たりであることは重々承知の上である。

賑わう参道を抜け、県道578号をしばらく進むと、宝満山の山容が徐々に迫ってくる。ときおり宝満宮竈門神社の参拝客を乗せたバスに追い抜かれるも、徒歩を選んだのは下山後の一杯をより美味しく味わうため。
これもある意味、修行の一環と解釈すれば、神様も怒りはしないだろう。
今回登るのは、宝満宮竈門神社から上宮がある山頂までの正面登山道ルート。最もメジャーなルートである。途中「100段ガンギ」と呼ばれる急斜面の石段など、体力を消耗する難所があるものの、道は分かりやすい。

2時間足らずで登頂し、同じコースを宝満宮竈門神社までそそくさと下山する。
今回お目当ての下山後酒場は、宝満宮竈門神社の正面から、南へのびる道路の先に忽然と現れる炭火焼きの店。周囲に飲食店は皆無。
森を切り拓いたへんぴな場所にありながら、予約は必須という人気店「炭焼地鶏 山蔵」だ。

職人気質が霞むほどフレンドリーな店主のお出迎え
山蔵の営業時間は11:00〜22:00の通し営業。しかも登山口の宝満宮竈門神社から徒歩で10分もかからない。まさに下山後の一杯にうってつけだ。
実際には、主なお客はドライブで立ち寄る参拝客と思しきグループが多く、筆者が足を運んだ13時過ぎでも駐車場はほぼ満車状態。

木々に囲まれた古民家風の外観。外にもテーブル席が設けられ、四季の移ろいを感じながら炭火焼きが堪能できる。
いずれもグループ客で、薄汚れたハイカーの姿が見えないのは、心中穏やかではないが、予約はしてあるので胸を張って入店することにしよう。

トレッキングシューズを脱ぎ、案内されるままに店内へと入る。各テーブルの焼台からの煙が立ち込め、モヤがかかったような状態。通されたのは6人掛けのカウンター席の一番端。ここならくつろいで酒杯が傾けられそうだ。

「いらっしゃい!」とカウンターの中から、威勢良く出迎えてくれたのは店主の熊本義宗さん。
事前に調べた某グルメサイトやご自身のSNSに掲載された写真では、笑顔ひとつなく、いかにも頑固な料理人といった雰囲気だった。しかも海外一流ホテルでの経験も豊富という経歴に、筆者もやや緊張していた。

実際の熊本さんも、濃紺の作務衣にたすき掛けが凛々しく、いかにもシブいベテラン料理人だ。
そんな状況で飲み物のオーダーを吟味していたところ、「まぁ、どうせ男一人なんだから、ゆっくりしていってよ!」と笑顔で毒っ気のある一言を放つ熊本さん。これで緊張も不思議とほぐれた。では下山後の一杯目は瓶ビール(中715円)からいくとしましょうか。
以下に主なドリンクメニューを挙げる。各種バリエーションも十分にあり、あらゆる酒飲みハイカーに対応してくれる。
- 生ビール(キリン) 660円
- 瓶ビール(中・キリン) 715円
- シャンディガフ 660円
- チューハイ各種 550円
- ハイボール各種 550円〜
- 日本酒各種 550円〜
- ワイン グラス660円〜、ボトル3300円〜
話を聞けば、若かりし頃は海外10カ国のホテルで料理の経験を積み、その後福岡市内の有名ホテルでシェフとして活躍。2016年頃に独立して新たな店を始めるにあたり、この周辺の物件を探していた。
そんななか、空き家であった現在の物件と出合い、一目惚れ。当初は焼肉店を目論んだが「牛を祀っている太宰府天満宮のお膝元で、牛の焼肉ではバチが当たる(笑)」と地鶏をメインとするこの店をオープンした。
駅までの帰路を忘れるほど酒を進める、朝締めの地鶏の美味なる炭焼き

一番目のアテはやはり地鶏の焼き物から選びたい。なかでも定番は地鶏(タレ・塩 1,485円)だろう。ほかにもレバー(826円)、皮(759円)など各部位をはじめ、地鶏のたたき(1,188円)や焼野菜盛り合わせ(979円)の焼き物が揃っている。

四国から仕入れた備長炭をカウンターの七輪にくべる熊本さん。「まずは皮目を下にして焼いて、両面に焼色が着いたら、食べやすい大きさにハサミで切る。それからはタレをくぐらせつつ、好きなタイミングで食べて!焼き過ぎは硬くなるよ!」とのアドバイス。

考えてみれば、ずいぶん大雑把なアドバイスだが、逆にマイペースで楽しめるのがいい。頃合いを見て焼き上がった地鶏を口に入れれば、ほどよい歯ごたえの後に、甘辛いタレと肉汁の旨味が混ざり合う。登山の疲れが一気に解消し、逆にパワーがみなぎってくる。

炭火の熱気と地鶏の香ばしさに、自然と酒のペースもぐいぐい上がる。瓶ビールを軽くもう一本こなした後は、日本酒へ進みたい。ここは福岡・久留米の地酒「杜の蔵 蔵出し純米酒」(一合759円)で。合わせるアテは鶏刺三点盛り(1,529円)にしよう。

鶏刺三点盛りはどの部位もみずみずしく、鮮やかな色合いで目を楽しませてくれる。ムネ肉では淡白で控えめな旨味を感じながら杜の蔵を一口流し込む。ズリの心地よい歯ごたえを感じながら一口。ハツの弾力に富んだ食感に合わせて、さらに一口運ぶ。杜の蔵一合はすぐに空いた。

日本酒のおかわりをしたところでもう一品。メニューを見れば「全国あげもんグランプリ金賞受賞」の文字の下に「幻の手羽先(しお手羽、あま手羽 各一本220円)」を発見!
「手羽先は店のイメージと違うから、あまりやりたくなかったけど、はじめてみたら人気メニューになっちゃった(笑)」と熊本さんも笑う。
オーダーした「しお手羽」はシンプルに塩だけで味付け、鶏肉本来の味を楽しめる一品。日本酒よりもビールがふさわしいかも知れない。一方の「あま手羽」は甘辛い秘伝のタレで仕込み、ご飯や日本酒がが進みそうだ。
そんな手羽先を味わっている筆者の耳に、わざと聞こえるような声量で熊本さんが一言。「暑いからビールでも飲みたいなぁ〜!」。もうその姿は職人というより、お酒好きで気の良いおじさんだ。

グループ客でごった返す店内で、店主をほぼ独り占めして気楽に酒を酌み交わすとは、これまた贅沢な時間と言えよう。開業早々のコロナ禍での苦労や昨今のインバウンド事情など、取材を忘れて他愛もない話をアテに、酒杯を重ねていく。
聞けば「登山の後に飲みに来るお客さんも多いよ」との情報もあり、ザック姿でも臆することなく足を運べそうだ。
さて、そろそろ酔いも回ってきた。帰りも太宰府駅まで40分歩くと決めているため、このへんでお開きとしよう。もちろんバスを選択することもできる。しかしその発車時刻を気にしているようでは、お酒なぞ心から楽しめるはずがないではないか。
ただし賢明なる皆様には、徒歩とバスのどちらにせよ、ある程度時間がかかるため、事前にトイレを済ませてから、帰路に着くことをおすすめしたい。
炭焼地鶏 山蔵
福岡県太宰府市内山832-2
TEL 092-710-1722(予約推奨)
営業時間 11:00~22:00(料理LO 21:00、ドリンクLO 21:30)
定休日 木曜
席数 カウンター6席、テーブル45席、オープンテラス16席
(写真:著者撮影)




