ところが現地に行ってみると、初参加の人、親子やカップルで楽しむ人、年齢を重ねても自分のペースで続ける人など、参加者の目標は実にさまざま。
カナダのトライアスロンは、「過酷な鉄人レース」というより「笑顔の週末レジャー」。そんな自然を楽しむトライアスロン大会をレポートします!
雄大な自然に背中を押されて。自分への挑戦を続ける人たち
スイム(水泳)、バイク(自転車)、ラン(ランニング)の3種目を続けて行うトライアスロンは、自然の中で自分の力を試すアウトドアスポーツです。
カナダのトライアスロン大会は、湖のそばで行われるのが定番。ブリティッシュコロンビア州南部の小さな町オリバーは、湧水をたたえる穏やかな湖があり、毎年トライアスロン大会が開催されています。2026年大会も、初参加者から80代のベテランまでさまざまな選手が集まりました。
選手のみなさんの思い、聞いてみましょう!
スタートラインに緊張! 初挑戦のショーンデニーさん

トライアスロンの大会は、早朝から始まります。最初の種目は「スイム(水泳)」。そのため、スタート地点は湖畔です。
スタート地点の湖畔は選手たちで大にぎわい。思い思いに、雑談をして気持ちをほぐしたり、準備運動をしたりしています。

そんな中、ひとりで少し心細そうに湖を見つめていたのが、今回初挑戦のショーンデニーさん。スイムキャップをかぶった凛々しい横顔に、緊張がにじんでいます。
筆者が「ワクワクしていますか」と尋ねると、「ええ。…でも正直、少し緊張しているわ」と答えてくれました。
「少しの緊張はよりよい結果につながるといいます。健闘を祈ります!」と声をかけると、「ありがとう!」とほほ笑むショーンデニーさんでした。

60歳記念で初参戦のカレンさん&娘のアシュリーンさん

水際に、楽しそうに話している3人組を発見。
「ご家族ですか?」と聞くと、女性2人は母娘で、男性はここで今朝知り合った参加者とのこと。初対面とは思えないほど打ち解けているのは、この特別な瞬間を共有しているからでしょうか。
母娘で参加するのは、母カレンさんと、娘アシュリーンさん。そろって初参加だといいます。きっかけを尋ねると、カレンさんは笑って答えてくれました。
「娘に誘われたんです。友達やボーイフレンドにも声をかけたけれど断られたと言うので、それならママが一緒に出るわよ、って。60歳になったし、新しいことに挑戦するのもいいかなと思って!」
一方、娘のアシュリーンさんは、「友達がトライアスロンをしていて、やってみたいな、と思ったんです」と軽やかに答えてくれました。
そして隣の男性を指し、「ジェフは世界中の大会に出ているんですって」と紹介してくれました。
世界を旅するトライアスリート! 競技歴25年のジェフさん

ジェフさんはトライアスロン歴25年の大ベテラン。
「2001年からやっているよ。これまで、ドイツ、ベルギー、イギリス、アメリカ、ハワイ…20以上の海外の大会にも出場したんだ」
と誇らしげ。
初めてスタートラインに立つ母娘と、経験豊富な大ベテラン。競技歴は違っても、緊張と高揚のひとときに会話を弾ませていました。
選手にエールを送る可愛い応援団

湖畔には応援の人たちも集まります。友人のために、家族のために。パパやママを応援しに来た小さなお子さん、大学の同級生を応援しに来た学生グループ。温かい声援が響きます。
ほどなく、スイムがスタート!
選手たちが順々に湖に駆け込んでいくと、静かだった水面に激しい水しぶきが上がります。

彼こそ鉄人! 80歳のクリフさんに大歓声!

湖の沖に向かって泳ぎ、折り返して岸まで戻ってくるのがスイムのコース。スイムを終えた選手は、湖から上がると「トランジションエリア」に向かって走ります。
体に張り付く濡れたウエットスーツを脱ぎ、次の種目である自転車用のウエアに着替える時間も競技の一部。それもまた、トライアスロンの妙味です。
続々と選手が湖からあがってくる中、大きな声援を受けている長身の男性はクリフさん。彼はなんと80歳!
湖から上がったクリフさんは大きく息を弾ませながらも、両手の親指を立てて声援に答えます。その姿にまた拍手と歓声が大きくなりました。

「私はあなたを信じていた!」。感動の友情ストーリー
時間が経過し、スイムを終える選手もまばらになってきた頃、若い女性選手が戻ってきました。
「もう少し、あと少し! 頑張って!」
湖上のSUPから声援を送り続けていたのは、ボランティアスタッフのリサさん(仮名)。その女性選手が湖からあがり、トランジションエリアへ走り去るのを見届けながら、興奮した様子で話します。
「ほら、言ったでしょう、あなたならできるって! 私はずっと信じていたよ!」
聞けば、その女性選手は初めての出場で、湖を泳ぐこと自体この日が初めて。不安が大きく、出場をやめようかと悩んだこともあったといいます。リサさんはそんな彼女を支えたくてボランティアに申し込んだのだそう。
不安や恐怖があってもそれでもスタート地点に立ち、早朝の湖に飛び込み、最後まで泳ぎ切った選手。その場の全員が惜しみない拍手を送ります。
「彼女はやり遂げたの! できると思ってた! 本当に誇りに思うわ」
そう語るリサさん。
タイムが遅い選手ほど、「大きな挑戦を果たした」という証。「タイムが早い方が偉い」のではなく、今の自分を超えること、失敗するかもしれなくても挑むこと、それが価値なのです。

「第二の人生に挑戦を」。元弁護士のダニエルさん

湖に残っている選手はあと1人。みんなに見守られて最後に湖から上がってきたのは、今回がトライアスロン初挑戦のダニエルさんです。
今年、弁護士の仕事を引退したというダニエルさん。 「弁護士としてだけ生きて一生を終わりたくない」 と、トライアスロンにチャレンジしたといいます。
順位やタイムではなく、自分自身に挑む。満足そうな笑顔でトランジションエリアへ向かいます。
絶景のワイン街道を疾走! スピード感あふれるバイク(自転車)

スイムの次の種目はバイク(自転車)。このトライアスロン大会は「自転車のコースが絶景!」と参加者が口をそろえます。
バイクは、トライアスロンの中で最もスピード感のある種目で、迫力も満点。100万円を超える高級自転車や、自転車とウエアを色鮮やかにコーディネートしたおしゃれサイクラーもお見逃しなく。

最終種目はラン。大切な人と一緒にゴール!
バイク(自転車)の次は、いよいよ最終種目のラン(ランニング)です。のどかな町の中や川沿いの道を、ゴール目指して走ります。フィニッシュライン直前に登り坂があるのが最後の難関。
続々とゴールする選手たち。ゴールエリアでは完走メダルと補給食などを受け取ります。ヒーローインタビューのような記念撮影エリアも用意されています。全員がヒーローですね。

70代アスリート夫婦。妻アンジェラさんを見守るビゾルさん

ほとんどの選手がゴールし、人影が少なくなった頃、ゴール前の坂の上からコースを見つめる男性がいました。79歳のビゾルさんです。
「ご家族が参加されているのですか?」と聞くと、「妻が走っているんです」と教えてくれました。
ビゾルさんの妻アンジェラさんは72歳で本大会に出場。そしてビゾルさんご自身も、79歳で現役ランナー。週に3回はランニングをし、5キロや10キロの市民マラソンへの出場を楽しんでいるとのこと。
なぜ走るのですか? と聞く筆者に
「健康と、スタイルを保つためさ」
と笑顔で答えてくれました。「年を取るほど、気を付けないとね!」と、どこまでも人生に前向きです。
しばらく経ってもアンジェラさんの姿はなかなか見えません。しかし、ビゾルさんは落ち着いています。
「ランニングについては心配していません。彼女はアフリカで90キロのレースを完走したことがあるからね。60歳のときかな」
その大会とは、南アフリカで開かれるコムラッズ・マラソン。ダーバンとピーターマリッツバーグの間、約90キロもの距離を走るウルトラマラソンです。
60歳で90キロを完走!? そんなエピソードに驚いていると、アンジェラさんの姿が見えました。ビゾルさんはカメラを構え、妻の隣を走りながらその姿をカメラに収めます。2人は並んでゴールへ向かって行きました。

花束を用意して待つ男性。まるで二度目のプロポーズ

朝の緊張とは打って変わって、ゴールエリアの先にある芝生広場は完走した選手たちの喜びの笑顔があふれています。
そこで、花束を抱えて待つ男性を発見。話を聞くと、自分のレースを終えて、パートナーが戻ってくるのを待っているといいます。
やがて戻ってきた相手の姿を見つけると、男性は花束をプレゼント。2人は弾けるような笑顔を見せ、並んで会場を後にしました。
「トライアスロンは楽しいよ!」。爽やか笑顔のシャノン&ロブ

こちらもカップルで参加のシャノンとロブ。シャノンは初挑戦。ロブはトライアスロン歴4年だといいます。2人は婚約者同士なのだとか。
「トライアスロンって大変な競技ですよね。なぜやっているのですか?」との問いに、
「トライアスロンは楽しいよ。やっていて、本当に楽しいんだ」 とロブさん。
「私は、彼のマネをしているの」とシャノンさん。清々しい笑顔を見せてくれました。
自然の中で楽しむ、自分への挑戦
トライアスロンというと、鍛え抜かれた人だけが挑む過酷な競技、というイメージでしたが、この大会で出会った人たちの目標は「人それぞれ」。
もちろんトップアスリートも参加していますが、初参加の選手も多く、一人ひとりが自分への挑戦を楽しんでいました。
昨日までの自分より少し先へ進んでみる。新しいことを始めてみる。雄大な自然が、チャレンジを後押ししてくれる。
そんな時間も、アウトドアの楽しみ方のひとつ。私ももっとアウトドアスポーツを楽しみたい! そう思わされる大会でした。
みなさんも、機会があればぜひ、トライアスロンを観戦してみて!




